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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「怒りの葡萄」

2012-04-26 | 映画──社会派・青春・恋愛
1940年のアメリカ映画「怒りの葡萄」(原題 : The Grapes of Wrath)は、アメリカ大恐慌時代にあって疲弊する農村の状況と、資本家に搾取される労働者の窮状を描いた社会派ドラマの古典。そしてまた、家族の絆とくに母と子の交情を麗しく描いた名作でもあるといえる。

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刑務所から仮出所した青年トム・ジョードが帰郷すると、オクラホマの我が家はもぬけの殻だった。母たちは伯父のジョンの元へ身を寄せ、収穫のない先祖伝来の土地を捨てて西のカルフォルニアを目指す決心と知る。トムや元説教師のケーシーを乗せて、十二人の大所帯となったジョード一家のトラックは、砂漠を超え、食糧難に見舞われながら西へ西へと走りつづける。途中で老いた祖父母を失いながらも、大陸を横断し辿り着いた先は夢見た楽園とはほど遠いものだった…。

最初に着いたキャンプは、まさにバラック。わずかな求人に何千何万と人が押し寄せたものだから、職にありつける事態ではない。しかも買い手市場をいいことに、仲介人は労働者を安く雇おうとする。
二番目のキャンプ地ではいい条件の農作業にありつけたかと思いきや、ストが計画中。その混乱に加担して、ケーシーが殺されてしまう。
逃げるようにして転がり込んだ第三の転地は、住民が自治をするコミュニティとなっていて、衛生的な住居も安く借りられる、まさに願ってもない暮らしが待っていた。だが、そこでも、住民の自律を快く思わない資本家の嫌がらせが忍び寄ってくる。

正義感の強いトムはそのたびに厄介ごとに飛び込んでいきたくなるが、仮出所の身の上。ケーシーの説得や家族の支えを胸に怒りを抑えるも、ついには家族に災いを招かぬように出ていく決心をする。
あとに残された家族をまとめあげていくのは、気丈なトムの母親。けっして美しくはないが、義憤で拳をふるおうとするトムを賢明に諌め、そして腹を空かせた他人の子にもなけなしのスープを分け与える慈愛のある人物。「プレイス・イン・ザ・ハート」にも共通する、男手の足りない一家を切り盛りする逞しいアメリカの婦人像の象徴といっていい存在であろう。

タイトルは、母親のいう「人間ひとりの魂がつながっている大きな魂」を指すものか。

監督は「ミスター西部劇」の異名を取る名匠ジョン・フォード。
「黄色いリボン」「駅馬車」(1939)などの古典西部劇では白人に対するインディアンの横暴をやや芝居じみて描いているが、本作はおなじ人種どうしでの階級格差。そしてまた、機械化と大規模な資本主義運営によって、人が自然と共に暮らす当たり前だった生活スタイルの崩壊を訴えてもいる。

農業の担い手不足のために地方に人を呼び込む運動が注目されている現在の日本であるが、ひととなりの生活を保障し、また、余所者が地域に溶け込むような受け皿づくりなど課題は多い。しかも、この映画の時代と異なっていることは、便利さになれてしまったがゆえに、人びとが苦役への免疫と仕事への誇りとを失っていることだろうか。

主演はトム役に、「十二人の怒れる男」のヘンリー・フォンダ。母親役に、ジェーン・ダーウェル。
本作はアカデミー賞の監督賞と助演女優賞を受賞。
原作は、ノーベル文学賞作家ジョン・スタインベックの同名小説。
道中、砂漠のカフェでの気だてのいい主人と客人の心遣いには、ほろりとさせられる。

(2010年2月4日)

怒りの葡萄(1939) - goo 映画

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