陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「Not Found」 Act. 13

2006-09-02 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは


「僕もはじめて使ったんだ。まさか、こんなものだったとは」
「ね、ね。ヴィヴィオもいまのできる?」
「君だったら、できるかもしれないね」
「じゃあ、ユーノくんが教えてくれるよね?」

無限書庫における自制氷結魔法を使用するものは、司書資格保有者であることに加え、情報鑑定魔導師の資格を有するものに限られる。この魔導師資格は、十五歳以上、もしくは大学での教育を受けたものに制限される。合格者は、時空管理局に登録される。ほんらいは検索魔法検定と同じく民間団体の資格に過ぎなかったのだが、ここ近年の高度な情報処理の必要性を謳って、時空管理局が公認の資格としたのだ。十五歳でなくとも、検索魔法検定一級合格者ならば受験機会は与えられるはずだった。

しかし、受験のノウハウが浸透し、若年者であっても合格者が続出したことから、受験生の学歴や年齢を制限しはじめたのだ。資格保有者の人数がやみくもに増えては、価値のデフレが起きるという算段なのだろう。大木が若芽のための慈愛ある太陽を奪ってしまうように、既得権益を守ろうとする者は追い越そうとする者に容赦などしない。ユーノはこの動きに反目を覚えるからこそ、あえてプライベートに、ヴィヴィオに検索魔法の手ほどきをしたと言える。老残者がちっぽけな誇りのために技能を囲い込んで、いずれ後継者がいないまま廃れるという事実を、彼は多くの辺境世界にある伝統工芸において見てきたのだった。真理を守ることは、開くことでもあった。

情報鑑定魔導師の資格ホルダーは、その気になれば、個人で塾を開き、生徒を育成することはできる。
この資格は本人の代理で企業の特許情報へのアクセスや申請など、公的な手続きや書類の作成も行うことができるので、独立開業も可能だ。しかし、先んじての開業者に顧客が独占されており、若年者が営業をかけて新規に仕事を得るのは難しい。大先輩の太鼓持ちになって仕事を譲ってもらうという涙ぐましい努力をする者もいる。そのため、本業のコンサルティングでは食えないので、教育業として日銭を稼ぐ。ユーノもそうした副業ができないことはないが、どれだけ授業料を積まれても敢えてやらない。自分が良い師匠をもっているのは、母とユーノ青年とのきわめて標準的な友情のおこぼれであることを、ヴィヴィオはよく知っている。しかし、その二人の微妙な進展があれば、別の呼び方があったことをヴィヴィオは知らない。先生を独り占めできるという快感は、すでに成長を忘れてしまった大人がまぶしがるほどの、並々ならぬ向上心をもたらしている、ただそれだけだ。

「そうだなあ、それはなのに相談してみないと」
「え~っ、どおして? わたし、ストライクアーツをノーヴェさんに教わってるけど、この技つかっちゃいけない、なんて言われたことないよ」
「ヴィヴィオが十五歳になったらね。大人になる楽しみは持ち越したほうがいいよ。その前に検索をもっと磨かなきゃ」
「はーい」

母親の許可を言い訳にしたが、ユーノの教授にあたって、なのはみずから口を挟んだというのではない。
これはユーノ自身がすすんで行っている、なのはへの義理なのだ。からだに多少無理のかかるスキルの高い魔法を教えるときは、その効用や危険度をあらかじめ、なのはに伝えておく。責任逃れではなく、万が一のための事前の対処法を考えておくためだ。さきほどの時制氷結魔法とやらは、ユーノ自身も実地を重ねていないから、教えるには準備が必要だ。まず、この現場を同じ状況に晒すわけにはいかないから、模擬演習でということになるが、そもそも、先だっての揺れを再現することなどできるのだろうか。100年に一度襲うか襲わないかの津波のために防水壁を考えるような用心深さがあろう。だが、すべての防備は、極めて低い確率のために行われる。予想だにしなかったことが最悪になる前には、最善になる確率を増やすことが肝要だった。


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