陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「Not Found」 Act. 12

2006-09-02 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは


それにしても、いささかおかしい。
普段は整然と立ち並んだ書架が乱れた、この状況はいかにもおかしいにはおかしい。だが、そのおかしさがどうも違う。

この管理世界には、ふたつの揺れがある。
「地震」という名のとおり、土地が隆起したり、地層がずれたりする、星の活動によって自然に起きるもの。そして、次元の合わせ目に緩みやひずみが生じて、空間が揺らぐものは「次元震」と呼ばれる。後者は人為的なものであるが、例を出せば、プレシア・テスタロッサが末期に発生させたような、次元の割れ目である。次元震は複数の管理世界に干渉し、一歩間違うと、同時に瞬時に消滅させてしまうこともあるという。そこから魔物を召還することもできれば、異次元へと飛んでいってしまうともいう。旅客機が行方不明になるのもそのせいだと言われ、次元震が発生した時は、次元間の航路も一時的に閉鎖されてしまう。崩壊はあっても瓦礫の山は残る地震に比して、次元震とは存在そのものがごっそり消えてしまう、まこと恐ろしい災害であった。それの一番の原因と目下考えられているもののひとつが、ロストロギアであった。だからこそ、ロストロギアの管理には、時空管理局の監視の目はとかく厳しい。

PT事件の経過と顛末の報告書については、事件の当事者でもあるユーノも作成に加わっている。
加わっているというか、当時のクロノ・ハラオウン執務官の計らいによって、ほとんど主筆で書かされたに等しい。現場に直接居合わせたわけではなかった管理局職員が、自分の文責としながらも、事後レポートを丸投げすることは秘かに行われていた。だが、ユーノ・スクライアはこれによって恩恵を受けている。ロストロギアの流失というスクライア少年の軽はずみは、管理外世界へのロストアギアの影響力調査という研究テーマとして論文で発表され、ユーノに次元物理学の博士号を与えた。

ユーノの学説によって、ロストロギアの危険視は格段に高まり、それは第97管理外世界で言うところの、核兵器並みの警戒心がまといついている。ところが。昨年になって、なんと、次元震を起こす原因となるものがそれだけではないという説が学会誌に発表された。この一報に、ユーノの研究心が燃上がらないはずはなかった。今日ここまでの書かれたものをざっくり否定するような事実は、しばしば少しでも明日の土壌から発掘されるのだ。フットワークの軽さが勝負の商売で、出遅れてはなるまいと思いながら、日々古い資料に埋もれている。

ユーノが不審を感じたのは、ただの地震なのか、はたまた次元震なのか、見定めがたいところだった。
ふたつを隔てる最大の違いは、波動であるか、震源地があるか、そして余震があるか、ということに尽きる。波動とは、遠くの花火のぱっとした輝きが見えてから、音が聞こえるように、じわじわとした響きである。だが、次元震は光りの動きと同じで直線的であり、反射するとされる。次元震は地震を誘発するが、逆はありえない。次元震のメカニズムはいまだもって正確には解明されていない。だからして、記録上、多くの次元震であったものが、単に地震と発表されていることが多い。

こと、ひとの生命を脅かし、環境の安全倫理を書き換えるような学説が打ち立てられたことは、ひとえに提唱者の名誉うんぬんだけでは済まなかった。そこに公的資金が莫大に投資されているであったから。たったひとつの穴を塞げばよかったのが、別の角度から裂け目が見つかるという新説は、研究の裾野の広がりとともに、論争とそれに癒着する利権の混乱をも孕んでいる。成果を急げとせっつく連中だっているものだ。

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