十一月十五日は家族の日。ということで家族の愛情を描いた話題作を観てみました。〇一年作のイタリア映画「息子の部屋」です。以下、ネタバレあり。
精神分析医のジョバンニは、妻のパオラ、長女のイレーネ、長男のアンドレアとの仲の良い四人暮らし。アンドレアが学校で化石盗みの嫌疑をかけられるが、ジョバンニは頑なに息子の無実を信じています。
しかし、ある日、アンドレアがダイビング中に事故死。哀しみにくれる一家の三人は、日常の歯車をいくばくか狂わせそうになりながらも、なんとか支えあっていこうとしますが…。
いちばん動揺が大きかったのは父のジョバンニ。息子の事故の日、ジョギングに誘っていたらと自分を悔やみ、さらにはその日急な診療をせねばならなかった担当の患者に恨みを抱いてしまうまでになってしまうのです。けっきょく、診療中に自制心を保てなくなったジョバンニは仕事を辞めざるをえない。患者の精神に寄り添わず冷静に接してきた精神科医のほうが、心を病んでしまうというのはなんとも皮肉な話。
終盤にはアンドレア宛に恋文を寄せた女の子アリアンヌと、家族が顔合わせ。が、しかし、アリアンヌはヒッチハイク中でしかも新しい彼氏を連れていたのです。正直、平常心ではいられないジョバンニ一家だったはずですが、アリアンヌたち二人を国境まで車で送ってあげるのです。
表題の「息子の部屋」からすると、彼女と思しきアリアンヌの持っていたアンドレアの写真から、自分たちが知らなかった彼の一面を知るという流れが予想されるのですが、この部分はあまり映画の見せ場ではなかったような気がします。
亡くした息子のことを後生大事に覚えていてくれる、そんな永遠の愛を期待する方にはあまり腑に落ちないラスト。ジョバンニがした好意のせいで、娘の大事な試合が出場できなくなりそうだというのに、一家はなぜか穏やかな笑顔をしながら浜辺を歩いています。家族が海辺のほうに向かったのは、おそらく息子の魂が眠る先を無意識に求めてなのでしょう。自分の喪失感を抱えながらも他人のために無償の愛を施すことで精神の均衡を保とうとする一家の気持ちを思うと、いたたまれない気持ちになりますね。
息子の死のシーンも残酷な場面がなく、また一家の住む室内もドアが縦に続く構造で開放感があるせいか、重苦しくない仕上がりになっています。が、それだけに分かる人には分かる、このやり場のない悲嘆。神父の人の気持ちを解しないお説教を聞いた後での父親の晴らすことのできない無念。この一家の本心を、映画の登場人物たちのほとんどは汲んでいないようですが、観ている者のほとんどには、じわじわとにじみ込んできたのではないでしょうか。ある人にとっての感動作とは、そういうものなのです。
息子の部屋(2001) - goo 映画
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精神分析医のジョバンニは、妻のパオラ、長女のイレーネ、長男のアンドレアとの仲の良い四人暮らし。アンドレアが学校で化石盗みの嫌疑をかけられるが、ジョバンニは頑なに息子の無実を信じています。
しかし、ある日、アンドレアがダイビング中に事故死。哀しみにくれる一家の三人は、日常の歯車をいくばくか狂わせそうになりながらも、なんとか支えあっていこうとしますが…。
いちばん動揺が大きかったのは父のジョバンニ。息子の事故の日、ジョギングに誘っていたらと自分を悔やみ、さらにはその日急な診療をせねばならなかった担当の患者に恨みを抱いてしまうまでになってしまうのです。けっきょく、診療中に自制心を保てなくなったジョバンニは仕事を辞めざるをえない。患者の精神に寄り添わず冷静に接してきた精神科医のほうが、心を病んでしまうというのはなんとも皮肉な話。
終盤にはアンドレア宛に恋文を寄せた女の子アリアンヌと、家族が顔合わせ。が、しかし、アリアンヌはヒッチハイク中でしかも新しい彼氏を連れていたのです。正直、平常心ではいられないジョバンニ一家だったはずですが、アリアンヌたち二人を国境まで車で送ってあげるのです。
表題の「息子の部屋」からすると、彼女と思しきアリアンヌの持っていたアンドレアの写真から、自分たちが知らなかった彼の一面を知るという流れが予想されるのですが、この部分はあまり映画の見せ場ではなかったような気がします。
亡くした息子のことを後生大事に覚えていてくれる、そんな永遠の愛を期待する方にはあまり腑に落ちないラスト。ジョバンニがした好意のせいで、娘の大事な試合が出場できなくなりそうだというのに、一家はなぜか穏やかな笑顔をしながら浜辺を歩いています。家族が海辺のほうに向かったのは、おそらく息子の魂が眠る先を無意識に求めてなのでしょう。自分の喪失感を抱えながらも他人のために無償の愛を施すことで精神の均衡を保とうとする一家の気持ちを思うと、いたたまれない気持ちになりますね。
息子の死のシーンも残酷な場面がなく、また一家の住む室内もドアが縦に続く構造で開放感があるせいか、重苦しくない仕上がりになっています。が、それだけに分かる人には分かる、このやり場のない悲嘆。神父の人の気持ちを解しないお説教を聞いた後での父親の晴らすことのできない無念。この一家の本心を、映画の登場人物たちのほとんどは汲んでいないようですが、観ている者のほとんどには、じわじわとにじみ込んできたのではないでしょうか。ある人にとっての感動作とは、そういうものなのです。
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