猫っ毛でふわふわとウエーブのかかった髪に指を潜めて、うなじをまさぐる。
レーコが艶っぽく瞳を細めた。
「…で。読んでくれる?」
あたしがあんたの漫画を読む前に、あんたがこっちの空気を読んでほしいんだけどさ。
こんの、トーヘンボクが。
「あんたはさぁ、泥だらけの水たまりを覗きこむあたしの悲惨な顔が見たいわけ?」
「さっき、テレビにそんな顔してた。スマイル大事のアイドルさんのそんな顔が拝めるなんて、果報者だ」
「性悪漫画家」
「四流アイドル」
「原稿燃やすわよ?」
眉間にしわ寄せて睨んでやったのに。
「…でも私、コロナのそういう顔好きだな」
うわ。
なんで、こう、そういう胸にどストライクなこと言ってくれるかな。
そんなこと言うから、せっせと、平日になればここに入り浸ってしまいたくなるんじゃないの。
「…読んでくれるんだ?」
念押しするように、あたしの顔をじっと見据えてから、レーコは尋ねた。
読んでくれる、じゃなくて、読めるよね、とでも言いたげな表情で。
「今さら、あたりまえのこと、聞かないでよね」
──あのとき、誓ったでしょ。
あたしはあんたの描きたいものの最初の読者なんだから。
あたしはレーコの耳にこそっと最後の言葉を送ると、頬にオッケーって意味でキスをした。
こうすると、レーコの仕事に気合いが入るの知ってるから。どうせ、本気で描いたりなんかしない。自分の漫画をもちだして、あたしの様子をうかがっただけなのだ。
「あたしはもう大丈夫よ」
あたしのその台詞を聞いたのか、聞いてないのだか。
レーコはまるで降ってもこない雨粒を受けとめるかのように手をさしだして、あたかも自分につよく言い聞かせるかのようにつぶやいていた。その声があまりにもか細いもんだから、あたしはしかめっ面して聞き返した。
「えぇ? なに? もっかい、言ってよ」
「めんどくさいから、もう言わない」
「言わないなら、あんたの漫画読んでやらない」
「……」
「足の爪も切ってやんない」
「……」
すごい、ウルトラ無表情。五分ぐらい早送りしても、顔のどアップの静止画に見えるんだろうな。
「ハヤテちゃんの声も、もうせぇへんから」
「……!」
て、おいいっ! そこで反応するのかよ。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「ミス・レイン・レイン」