陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

二次創作がモーレツに捗ることがある時はいつか?

2023-07-23 | 二次創作論・オタクの位相

つい二年ほど前でのコロナ禍真っ最中、私は何もかも投げやりで。
平常、シリーズ化している二次創作やネタ記事の在庫でさえももう消してしまおうかしら、などと思い詰めたことさえありました。実際、書きかけで仕上げられっこないだろう、これはと思うものは廃棄してしまいました。

ところが2023年の春以降。
なぜかモーレツに創作意欲が湧いて仕方がない私は。下手したら十数年以上も放置しまくっていた二次小説を完成させたり、ネタ記事も虫食い部分を埋めたりできてしまうのです。この不思議な復活現象について、今回は自己分析してみます。

私はすでに平均寿命の半分近くに達する就職氷河期世代。
同年代ではすでに趣味活動をヲタクっぽいものではなく、アウトドア系やらもっと見栄えのいいものに変えていく人もいるでしょう。私自身もつい数年前までは資格マニアで、いくつか士業資格取得できたのをいいことに、つぎつぎに新しい資格のテキストを買っては挑戦していました。その資格熱が冷めたので、二次創作に戻った。そう言えるのかもしれません。

家族が入院時とか断捨離に励んだときとか、工事の打ち合わせがあったとか、個人事業上の契約作業でトラブル続きだったとか。とにかく余裕がないときも、まったく二次創作に向かうことはできませんでした。これは、大学受験時のセンター試験前に油断して、イラストなどを描いていて志望校を変更せざるを得なかった苦い経験からくるものでした。ここぞというときには、趣味に逃げてはいけないのだと。なので、いま、正社員としての就業が安定していて、土日もしっかり時間がとれる場合は安心して趣味に打ち込めるわけです。

ただし、二次創作は時間があれば捗るかといえばそうでもありません。
私の場合、かなり気分にムラがあるのです。普段のルーティンワーク的な事務業務ならば慣れれば作業時間が見積れるのですが、創作はとにかくあっという間に時間を浪費してしまいます。なので、気分が乗って一気に最後までピースを埋めることができる、というのはまれ。しかも日曜の夕方に書きかけでストップしたりすると翌日の仕事に支障がでるので、調整がかなり難しいのですね。かならず丸一日ほぼ出かけない、引きこもりになれる、そんな日でないと二次創作にかかりきりになれない。

最近気づいたのは、女性のあの日のあたりになると、創作意欲が湧きやすいということでした。
わかりますか、この状態? 気分がハイになってくるし、食欲も増えますし、けっこう活動的になり、お金遣いも大胆になります。とくに艶っぽい話を書くときは、そりゃもう筆が進む、進む。あとから賢者モードで読んだらこっぱずかしくなるくらいのものが仕上がります。

じつは今日、あと残り一話で完成させられるのに、五年ぐらい放置だったある二次創作物をちゃっかり完成させることができて、自分でもすごく驚いています。ほんとうにあと一歩、そういうところで、私はあきらめてしまうことが多いんですよね。抽斗を最後まできちんと締めない、調味料の蓋をきちんと締めないから固まってしまう。そういうタイプの方は、まさにこのパターン。

なぜ、私はいまさらになって完成させることができたのでしょうか?
それは会社で働くようになって、作業に対する敏捷さが身についたから、といえます。個人事業では好きなだけダラダラ仕事できましたが、組織で働く場合、自分のところで仕事の流れを止めてはいけないからです。納得がいかなくても、八分目の出来であっても、とりあえず提出させないといけない。そんな場面は山ほどあります。いい意味でこだわらなくなったのです。

私がこのように割り切ったのは、ひさびさに、あるお気に入り作の漫画家さんの単行本を読んだからでした。
その単行本は全四巻完結済みですが、後半部分が好きなものの、途中で解しがたいパートがあったり、自分の性癖にやや反するキャラの改変もあったりして、レビューが中抜けで終わっていたのです。そのレビューをいい加減ブログに載せてしまおうということで、むりやり超特急で再読してレビューを仕上げてしまったのですね。

そこで思ったことは、あんがい、じくじくとゆっくり煮詰めたように読まなくとも、作品の意図を拾って読めばいいということ。かえって、あれもこれもと欲張って書こうとして、軸の定まらないレビューになりがちな自分の悪癖に気づいたこと。さらには、かなり打ち切り漫画のようなジェットコースター展開で拙速すぎてわかりづらい、もっと心情描写を丁寧に描けばいいのにと思っていたその作品は、じつは作者がかなりの取捨選択をして見せ場を厳選し、ストーリーや台詞を濃縮して、一枚の絵で何を言わんかわかるようにしっかり描かれていたということに、あらためて気づかされたのです。

その漫画家さんはキャリアが長く、現在は決して爆発的な人気を得てはいませんが。
けれども、最初からシリーズの長さをしっかり決めていて、無駄なエピソードを省き、計画的に描画して、毎回きっちり締切りを守っていらしたわけで。プロとしてはすごくあたりまえのことなのですが、創作のアマチュアからすれば出来っこない芸当なわけですね。

人間ですから、仕事の意欲が湧かないことがあるのはあたりまえ。
アイデアが生まれず苦しいことだってあるでしょうし、白い原稿から逃げたくて、ネットばかりさまよったり、他の人の作品をみて羨望にかられたりとか、いろいろあるでしょう。けれども、それが仕事である以上は、百パーセントの満足がいかなくとも、毎日きちんとその作業に向かって結果を出し続けねばならなかったわけです。

その第四巻のあとがきには、その作品が生まれた動機や、読者にはわかりづらいコンセプトが説明されていて。私からすれば、なぜキャラが奇異な動きをするのか不明でモヤモヤしていたのが解決したわけです。

二次創作ならば、創作が捗るか否かを、公式の燃料投下だとか、ウェブ上での盛り上がりだとか、他責的な外因によることができるでしょう。けれども、オリジナルものを手掛ける創作者、しかも商業誌に定期の連載を抱えるプロ作家ならば、そのような言い訳をすることができないのです。

たとえ、気に入らない展開であっても。
あともう少し手を入れたら満足がいくと思われても。
理不尽な理由で人手が足らなかったり、画材が切れたり、金銭的に苦しくて創作どころではなくとも。それでも、仕事の依頼である以上は絶対に完遂させねばならない。気乗りしなくても、その作業を好きになって、停滞している問題点を見つめて改善に乗り出せなねばならない。毎日、落ちるりんごのことを考え続けて万有引力を発見したニュートンのように、そうしなければ、創造的なひらめきが自分に訪れない。

確かに、最近、久々の二次創作が捗ったのは。
現段階で片付かない二次創作物の話数をすべて洗い出して、それを全部ブログに載せるにはあと何年かかるか試算してみたからでした。するとゆうに十年近くかかってしまう! 今の健康状態だったら、せっかく書いたものをパソコンに埋もれたままで終わってしまうかもしれない! それはいやだ! 絶対に!

不思議なことですが、内臓疾患と思しき異常が見つかって人生の残り時間をふと思い馳せたときに、私は書きあげられなかった二次創作やレビューできなかった積読本のことを惜しむようになったのです。そう思うと、時間を必死にやりくりして仕上げようと思うようになったのですね。

創作意欲が枯れてしまう、ジャンル愛が冷めてしまう、キャラへの情熱が萎えてしまう。
たとえそんなことが幾多あったとしても、いつか、そのやる気が復活することもあるのです。そしてよみがえったときこそが、自分が生きている実感に目覚めたとき。二次創作なんて無駄だったんだ、誰にも顧みられない壁打ち作業。そう考えて落ち込むのは簡単です。けれども、描きあげている時の満足感だとか、想像力を駆使したときに達成感だとか、そうした心躍るような活動は、自分の日常をとても輝かせてくれるのです。

ちなみに、私が数年来冷めて捨てようとしていた二次創作への愛を取りもどせたのは。
ひさびさにその原作ジャンルにあたって、その面白さをあらためて噛みしめたからでした。食べものは生きていくためにかならず必要ですが、胃に収めたら一回ぽっきり。けれども創作物や思想は形にならないだけに、なんども違った味わいをすることができます。そして、死んでいた自分の精神を蘇らせることだってできてしまう。

いったんは興味を失った作品や作者への感謝の念が深まるのは、他でもなく、自分自身が人間への愛を感じとろうと努めたくなったからなのでしょう。くしくも二次創作に惜しむものがったあったおかげで、原作ジャンルを捨てることができず、また忘れたころにそれに救われる、この状況をへっぽこ二次創作者の私は終生愛おしく感じていくことでしょう。

なお、私ななるべく二次創作活動を長く続けたいが、ネタを広げるために新しいジャンルに手を出すのは控えていますので、過去作をリファインしたりして楽しんでいます。着物をほどいてかばんに仕立て直したりするようなものですね。かつては新作を中途半端に書き散らして完成できないままのがたくさんあったのですが、年齢も落ち着いたせいか、一作ずつにじっくり向き合うことにしています。



(2023/06/18)



【二次創作者、この厄介なディレッタント(まとめ)】
趣味で二次創作をしている人間が書いた、よしなしごとの目次頁です。
二次創作には旨みもあれば、毒もあるのですね…。





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