陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

夢やぶれた者を許すことができないのはなぜか

2020-10-15 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

とあるネットニュースで、ラノベ作家デビューしたものの本が売れず廃業した若者のことが話題になっていました。
最近は、ネット上の小説投稿サイトから人気が出て出版社の目にとまり、商業デビューできる例が相次いでいるとのこと。そういえば、公立図書館でも、異世界だの、転生だの、そういった感じのライトノベルを見かけます。ラノベっていえば文庫サイズだと思うのだけど、すこし大きめの単行本でしたね、あれは。

ラノベは書き下ろしだから印税が少なく原稿料がもらえないからとか、いい絵師がつかなかったから売れなかったとか、いろいろご本人の傷口に塩を塗るような辛辣な意見がみられました。この本人は飲食サービス業界の契約社員でデビュー当時、編集さんに退職しないように説得されたにも関わらず、執筆時間を優先したいので時間の都合のきくバイトに変えてしまったのだとか。正社員になれるチャンスもあったのに、後悔があるとのことでもありました。

名のある作家さんでも兼業の方は多いらしいです。
私も本を買うときは著者の履歴を確かめます。最近は学生さんのデビューも多いですが、社会人歴が少ないひとの本は買わずに借りて済ませています。キャラ造形が漫画かアニメっぽいなと思うことが多いですし。

この作家さんはまだ20代と若いので、いずれ経験値を積んだら再デビューできる日もあるかもしれませんね。漫画家さんでも10年以上かけて返り咲いた方はいます。ただ、会社員として働きたくない、家でできる仕事として安易に作家業をめざしたのか、そうでないのかは気になるところです。いや、そういう動機で、大ヒットを飛ばしている漫画家さんもいるみたいですが。

実際のところ、会社員として勤めながら、すぐれたPC仕事術やライフハックを著作として売り出したりする人も増えています。私はもと美術館学芸員の原田マハさんの小説が好きですが、特殊な職業経験がある人が本を書いてくれたほうが嬉しいのです。働き方改革で労働事案削減や副業許可も認められてきましたが、生業としての仕事があって、片手間に物語を書くという週末作家めいたスタイルのほうが、傑作が生まれやすいのではないでしょうか。今はどの出版社も似たり寄ったりの売れ筋を追いかけていて、疑うことを知らない素人同然の若者や、デビュー年齢更新記録で若年バイアスがかった若手を、シンデレラぽくデビューさせて搾り取ったら使い捨てる、そんなことを繰り返しているだけの気がします。若い方は本が好きでも、本を書くのも読むのもいやになりますよね、これでは。

かてて加えて、日本はやはり夢やぶれた者には厳しい。
夢を追いかける者には保険をかけておけと忠告するが、目前の大魚に夢中になっている若者が素直に耳を貸すはずがありません。

ただ、作家さんというお仕事は、自分のことばかりにしか関心がないひとは、あまり向いていないのではないか、と考えています。
同人誌や個人のサイト更新ならばまだしも、会社の資本を投入する商業作家ならば、意に染まぬ会社の方針に沿ってリテイクされたり、没にされたり、理不尽なこともあるのでしょう。そのあたりは、普通の事務職でも同じですよね。自分がやりたいことすべてに対して、期待値以上の払いをもらうことはなかなか難しい。

純粋にものを書くのが好きだというならば、なんらかのかたちでそれを存続させていく手立てはあったのではないかとは思いますがね。
自分の失敗談を売るという手段もありますが、バブル時代にライター業で濡れ手に粟で儲かっていたひとが食うに困って、無年金で納税にも困っています、なんて体験談はごろごろ転がっていますよね…。

ひと握りの成功者のみがちやほやされる陰では、無数の道をあきらめた者や外れた者がいるが、敗者を貶めてもなにかが生まれるわけでもない。
ただ、無謀な挑戦をするひと、宣言をする人に対して、応援の声をかけるのはいいが、ただ励ましの声ばかりを求めようとするひととは距離を置いたほうがいいかもしれません。反響がないときにじっと我慢して修業してきたひとのほうが、いいものを出しているという気がしますので。

(2020/10/11)





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