陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『いつか、君へ Girls』

2012-11-19 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
集英社文庫・ナツイチ製作委員会編の小説『いつか、君へ Girls』(2012年6月刊)は、人気作家六人が送る「少女たち」の物語アンソロジー。最近の若手の日本人作家さんの作品はあまり読んだことなくて知らなかったのです。なぜ、これを手にとったかといいますと、あの「マリア様がみてる」シリーズの今野緒雪先生の書き下ろしが掲載されているから。百合ではなくて、典型的なボーイ・ミーツ・ガールのSFものだったのですが、これがすごくおもしろくて、すてきなお話。


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失礼ながら他のは退屈で高速で読み飛ばしてしまったものもあったのですが、緒雪作品だけは二、三回読み返してしまったぐらい。ケータイ持ちこんでるとかマスカラとかそういう現代女子高生の、友だちに恋人とられたうんぬんの恋愛泥沼劇は苦手なもので。文章が書き慣れていらっしゃる有名作家さんもいるんですけど、ブスとかキモいとかいう品のない言葉を連発しつつ、辞書から引き抜いてきたようにお固い言葉がちりばめてあったりして、読後感がいただけないんです、ごめんなさい。彼氏ができたら疎遠になる女友だちとか、そういうありきたりなこと、わざわざ小説で読ませんでもって思うんですよね。あと、主人公が少女のはずなのに、なぜか少女じゃないのもあったのが謎。ちなみに他作品でおもしろかったのは、中田永一さんという作家の「宗像くんと万年筆事件」。クラスで盗難の濡れ衣を着せられて孤立する女の子を、周囲から浮いた存在でありながらもひょうひょうとした優しさのある男の子が救うお話。女性ウケしそうな甘さはないのですが、大津市をはじめとしたいじめ事件大量に発覚した今年だけに、感慨深く読みました。

さて緒雪作品は、アンソロジーのトリをつとめる「ねむり姫の星」。
若干、ネタバレかもしれませんので要注意。
ある星の荒野に不時着した宇宙船のたったひとりの乗組員OGは、茨の森に囲まれた古い宇宙船に遭遇。中に眠っていたのは、少女エヴァンジェリン。眠りから目覚めたエヴァンジェリンとOGは、他に誰も居ない星でのサヴァイバル生活がスタートしますが…。

粗筋だけ書くと、無人島に流れ着いてしまった男女が接近していくという典型的なラブストーリー。しかし、「王子様」とか「お姫さま」とかいうおとぎ話めいた記号をちりばめながらも、ものすごく現代的な教訓を秘めた寓話になっているんですね。最初はわがままで虫の好かないねむり姫だったエヴァンジェリン(いわゆるツンデレですか(笑))が、ぜったいに生きることをあきらめないOGに惹かれていく。そこに、ふたりの運命を操り糸で動かしているような存在も見え隠れするのですが、おしまいではふたりの意思で選んだということを確認して結ばれるというわけで。恋愛なのですが、どぎつい描写が避けられている、とても爽やかなお話。性別問わず、どちらかが依存せず、他人が出逢って共生していくって、こういう覚悟のことだと思うわけですよね。

好きな人だけがいて、貨幣経済にとらわれない暮らしぶりがあって。着る物や住む家すらも、世間でいうおしゃれだのコード化されたものに縛られない生活。なにもかも、家族のために自分でつくりだす生活。これぞまさしくユートピア、これぞまさしくクリエイティブと言えます。戯画めいていると言われたらそうかもしれませんが、とても理想的な生き方です。中途半端に現実に取材して、人間の辛らつさを抉りだしてなにも解決しないような私小説めいたお話よりも、トレンディドラマのような浮き足立った社会人の苦悩懊悩よりも、ちゃんとつくりこんだファンタジーのほうが夢があって好きなんですよね。今野先生には今後もこういうお話を期待します。もちろん『マリみて』の未来へ進んだお話も読みたいですが。



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