あまり大きくとりあげられるのは憚られる事実ですが、「姫宮千歌音」を語る上で八話のあのエピソードは欠かせません。自分が傷つくよりも、愛する者を痛めつけてしまう事の方が、千歌音にとってはよほど苦しかったでしょう。けれどこの悲劇が最終話で解消される事によって、古典演劇のようなカタルシスが得られるのです。
アニメ「神無月の巫女」が優れているのは、単に女の子同士がイチャつくだけの恋愛話ではなく千歌音が姫子を傷つけた行為の理由が、秘されていたというミステリーがあるからなのです。
オロチに洗脳されていたのでなく、自らの意思で行った大立ち回りだった。
まるで「勧進帳」の弁慶と義経みたいな、美談ですね。
ただ、現実問題としてあの暴挙が許されるわけはないのでしょうし、そこがこの物語の視聴者を選ぶところだとは思いますが。
いくら虐げられても怒りを露わにすることができない、余人からの攻撃に心を鈍らせ薄笑みを浮かべてやり過ごすことしかできない来栖川姫子。
それに比べて姫宮千歌音は姫子を護れない自分の無力を嘆き、ソウマの性別と武力に嫉妬し、少女漫画の悪役の少女のように唇を歪めて悔しさを噛み殺し、苦い溜息を吐く。このあたり、とても人間臭い。
彼女はただ美しいだけの少女ではない、人間の醜い心根も背負っている。姫子の純粋無垢さに比して、光の満ち欠けする月のように心は不安定で翳りを帯びている。
清濁併せ持つ美少女、姫宮千歌音。80-90年代のスポ根少女や戦闘ヒロイン、そして歴史上の女傑といった、人間離れした強さに憧れて肩肘張って生きていく現代人にとっては、一味違ったキャラではないでしょうか。いわゆるオスカル症候群に疲れた世代にとっては、その涙、その儚さ、救い難いような心の暗部こそが現実味をもっていて、稀代の心に残るヒロイン像なのだと思われます。
その一途な愛ゆえにこそ、千歌音ちゃんの仕出かした現世での数々の所業(といっても大半は不可抗力なものだけれど)も、前世からの罪悪感も、最終局面で報われました。
(そして毎週ヤキモキしていた百合視聴者も救われましたことでしょう(笑))
姫子に本当を貰った時の、十六歳の女の子らしい表情がとても素敵です。
最終話は何度みても泣けるわけですが、もちろん全話通して、普段は鉄面皮なのに姫子の為に泣いたり笑ったりな千歌音ちゃんのお顔を拝めるわけで。
睫毛の動かし方、瞳の揺らし具合ひとつにまで配慮されてつくられた豊かな表情の作画とあいまって、川澄さんの声の演技も心情に応じて幅があって素晴らしい。
「姫子」という名を呼ぶ時のトーンも1話と12話では全く違って聞こえるから不思議。
前半部でのソプラノの高く澄んだ甘い囁き声。毅然としたお嬢様らしい言葉遣い。
闇に堕ちたときの悪女然とした高笑い。そして涙ながらに掠れがちな告解のシーンの言い回し。聞いているこちらも喉が詰まりそうでした。
愛する人を救う為、心を欺く為の姫宮千歌音の演技。
姫子に対し本当を隠した自分を演じる「千歌音」役をやるというのは、二重にお芝居をするようなもので、難しい役所であったと思われます。
物語のはじまりと終わりとで変容してゆく千歌音ちゃんも凄いのですが、ある意味、声優さんとキャラのギャップも面白いわけです。
アニメ神無月の巫女は、映像美と声音の切なさで人を魅了する姫宮千歌音の恋愛叙事詩なのでした。
結末を知っていても何度も見返したくなり、その度に感動を新たにし胸を熱くする物語なのです。
早速遊びにきてしまいました。
GOODな考察ですね~♪
ほんと、この神無月の巫女は映像もさることながら、
音楽的にも声優陣の美麗な声にしても、ぴったりがっちりとはまり込んでいてとても素敵ですよね^^
千歌音ちゃんは川澄さん、姫子は下屋ちゃんでよかったー!
辺境ブログへようこそ!
早速コメント残していただけて大感激です。
というか、このアホブログで比較的マトモな記事を選ばれた貴方様はさすがです(笑)
映像。声。音楽。物語展開。
もう、ホントにこの作品はどこをとっても魅力的で
自分の中では一にして全をなす物語です。
そして私めが語るには大きすぎる物語です、きっと。
私は十一話が初見だったので、ブラック千歌音ちゃん(笑)の印象が随分と長らくあって。半年後にDVDで全話視聴したのですが、前半部の川澄さん声が意外と高かったので、驚きました。演技力があると思うので洋画の吹き替えもやって欲しいですね(やってるのかな?)
下屋さんはいかにも、美少女アニメ声というかアイドル声というか可愛らしくてよいです。
あの甘い声で呼びかけられたら、千歌音ちゃんでなくても
死の淵から這い上がってこれそうです(嘘)
相互リンクも、メール返信もしてくださって、ありがとうございました!
そちら様のサイトのデザインが変わっていて、びっくり。
また訪問させてもらいますねー
某究極イラストサイトから飛んできたのですが、
こうもこの作品への愛、魅力を伝えられるところは…
今までもあったけど此処は特に凄いというか…!
サービスキャプ絵も素敵だし!(爆
嗚呼、此処見つけられてよかったです!
こんにちは!
世界の果ての神無月偏愛ブログへようこそお越しくださいました。
神無月サイトの大先輩FI様からご訪問とのこと、とても嬉しいです。
しかし、はっきりいって誉め過ぎです(照れ笑い)
文章はお恥ずかしい限りですが、画像に助けられてなんとか頑張っています。
弱小なこのブログが成り立っているのも、多くのファンサイト様の存在のお陰。そしてSS様のような好意的な読者様のお陰です。
コメントありがとうございました。
こちらにもありがとうございました。
>大切なものを自分の手で傷つけるのは本当に難しい。なのに千歌音はその心の痛みに耐えて、姫子に生きてほしいと思ってあんなすごい演技をしたんだな…。本当に強いと思う。
正確にいえば、たぶん、こういう敵をあざむくためにまず味方をあざむく、というパターンはそう珍しくないように思われます。
でも、護る力がなくて、好きなひとに想いも告げられなくて。そんな少女がとった行動というのが、それだけだったというのが泣けますね。
あと構成がよかったのか、千歌音の反目にむりやり感がなかったですね。でも、放映時にさいしょから視聴していて、勘づいていた方もいらっしゃったようで。当時リアルタイムのレヴューを拝読した限りではそのように感じました。
>心に決めたことを貫ける人はほんの一握りで、そんな人はとても輝いて見えるんですよね~(笑)
そうですね。でも、現実でいえば、強情に貫いていいものと、そうでないものががあったり(笑)…と、最近は冷静に見れるようにもなりました。
たぶん女性ファンが姫宮千歌音に寄せる感情って、憧れめいたものが多いんじゃないかしらと感じています。
こんなに全力でひとを愛せたらいいですよね~。
そして・・・
現実は厳しいですね
でも、将来全力で人を愛せる人になってみせます…!
意図的に傷つけたり、嫌がらせするのは論外ですが(笑)
意識しないで好意を寄せているに傷つけちゃう例もありますね。この作品の場合、千歌音に愛をつげる前の姫子でしょうね。
なんでも自分につごうのいいことを言ってくれるのが、愛情なのか?欲しいものをくれるのが、愛情なのか?それは依存心じゃないのか?
たまにこれ観てると悩みますね。
制作者がDVDの解説で書いていらっしゃいましたが、ただベタベタ甘いだけの百合にはしたくないという話で。
ある意味、熱いけれど、けっこう冷めた視点から人間関係を掘りさげているような気がします、これ。
申し訳ないですが、管理人は顔文字が不愉快で大キライですので、修正させていただきました。