陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「大神さん家(ち)のホワイト推薦」(十)

2009-05-25 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


なぜか、今度はユキヒトは、相好を崩している。気味の悪いほどにこにこ顔。大神カズキが困るのが、なにより、その彼の笑顔のおかずらしい。



「先生はあいかわらずおもしろいですねぇ。僕、先生のそういうところ好きだなぁ」
「な…?!」

くすくす、とおかしげに笑いを漏らすユキヒト。コップの水に放り込んだ黒蟻のもがき溺れるさまを楽しんでいる子どものような、無邪気さがそこにはある。
羞恥なのか、好意の反映なのか、カズキの顔はほんのり照れ色にかがやく。

「き、君ね。私をからかって楽しんでいないかい、さっきから?」
「まあ、こちらを目ン玉ひんむいて、しっかりご覧なさいな」

敬語を理解していない中国人がしばしば日本人を辟易させるような、尊大な物言いが含まれていて。ユキヒトの態度がだんだん師匠への敬愛を忘れているように思えて、不満でたまらないカズキである。
ユキヒトはマウスを傍らにおいて、PCのキーボード中央下の文字のボタンのない、平らな面に指を滑らせていく。なんだ、けっきょく不要な部品だったんじゃないのか?カズキは不審をつのらせる。

起動したモニタ画面に、いろんな絵が浮かんでいる。それらは、なにかの記号なのだろうか…? 答えをはぐらかされて不機嫌だったカズキも、さかんに目を凝らす。
どこからか生じた矢印が小さな虫が這うようにふわりふわりと漂ってきて、そのひとつを押した。すると、また画面の色がすっかり変わって、今度は青い文字がたくさん並ぶ。そのトップは赤文字ででかでかしく"Yahoo!"と書かれていたが、なにも知らぬ大神カズキのこと。不覚にも彼には「やぁ、あほー!」と読めたので、かってに気分を害していた。

カズキときたら、またしてもユキヒトのしかけた小賢しいいたずらだと、ひとりでに勘違いしたのだろう。あまりにこの日、やんちゃな弟子にいびられすぎたので、いつになく被害妄想が激しくなっているのかもしれない。理詰めでものを考える学者肌の男にはよく見られる、躁鬱傾向だった。
いっぽう見かけ草食系男子と思われるユキヒトのほうは、どちらといえば、物怖じしない性格のもよう。もしかしたら、着ている巫女服のほんらいの持ち主の気質ゆえか。



「ユキヒトくん、君ね、またこんなものを見せるなんて(プチご立腹)」
「は? まだ見せちゃいませんよ」

タッチパッドで指先を動かすのも俊速、キーボードをタタタ…、と叩くのも快速。その速度に、カズキは軽く驚いていた。
ユキヒトは得意げにほくそ笑んでいる。インターネットにつなぎ、動画ファイルを開く。三人のうら若き女性が、DVD-BOXの売り込みをしている。

「ほら、これです」

ユキヒトの指に促されたカズキは、その映像を興味深げに覗きこんでいた。


 

 

【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」

 

 

 


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