急に降り始めた雨に追い立てられるようにして逃げこんだのが、運悪く商店街の電器屋の前。
電器屋はひと世代遅れたモデルのテレビをバーゲンしてるらしくて、ウインドウにはところ狭しとブラウン管が並べられていた。その周囲には色褪せた梱包の箱と古めかしいオーディオデッキが、その周りを固めていた。予定では五年後とやらに、地上波デジタル放送がはじまる。新放送対応のモデルも横に並んで発売されていたが、値段が古いものと一桁違う。あまり買われているふうではなかった。
陳列されたテレビはすべて違うチャンネルを映しだしていて、観ていてなんだか得した気分になっていた。それで雨が上がるまでの暇つぶしに観ようとしたのがまちがい。
ばらばらだった、その画面がいっせいに切り替わって特別報道番組にかわる。
バージンロードを歩んだ花嫁をむかえて花婿が微笑んでいる。
「ちくしょー、最悪…」
なんだって、アンタはこんなときにあたしの前に現れるワケ?
アンタはいつだってそうだった。いつだって、最悪の時に、天使よろしく最高の笑顔ふりまいて現れんだ。あんたってやつは。いつだって、そうやって、幸福の一歩先を歩く。
握りこぶしをつくって、唇を噛んで、食い入るようにいくつも重なった憎らしい男と女の顔を見つめた。
いくらこちらが睨みつけても、ガラス越しには届かない。もはや、あたしからは遠い距離に存在してるんだから、あのふたり。悔しいけれど、花嫁はすごくきれいだった。あんなにゴージャスなステージ衣装、着させてもらえたことなかった。
「あたしだって着飾ればきっと、あれぐらいテレビでは映えるのに…くそっ」
きれいなのはテレビがいいせいだ。そう思いたかった。
新型の液晶大型ディスプレイは、花嫁の艶やかな肌が遠目にもわかるほど、かなり高画質の映像を提供していた。テレビの横には、赤文字で数字を強調した爆弾マークの吹き出しPOPと、キャッチコピーのパネル──「ご家族の想い出のシーン、歴史がみせる奇跡の瞬間をハイヴィジョンでお届けします。今ならお買い得。赤字覚悟、納得プライスでご奉仕! 本日ポイント三倍還元、さぁ、いますぐ! この機会にぜひお求めを! このチャンスをお見逃しなく!」──等身大パネルで、花嫁衣装を来た女優がブーケを捧げ持って、にこやかに微笑んでいる。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「ミス・レイン・レイン」