南大沢のウチの近くに、
この辺りでは珍しい個人経営の蕎麦屋がある。
南大沢は多摩丘陵を切り開いて造り上げた人工的な街だから
個人経営の商店や飲食店はほとんどない。
すべてチェーン店といっていい。
この蕎麦屋は団地の一階に、
パン屋や、レストラン、ドラッグストアなどと並んでいる。
業者に頼んだ引越しは少し先だから
まだウチで食事の用意ができない。
ツレアイと夕食にこの蕎麦屋に入ってみた。
客はだれもいない。ワタシたちだけである。
日本酒1合が550円。まあ、妥当なところか。
もり蕎麦は700円。微妙なところである。
注文をとりに来たオヤジが店主なのだろう。
エラく無愛想で、
〈いらっしゃいませ〉のひと言もない。
酒と川海老の唐揚げ、モツ煮込みを注文。
テーブルの横を見るとなんと、ホトトギスが活けてある。
一緒に千日紅の花。
野草風な雰囲気での活けかたはとてもいい。
あのオヤジの趣味か〈笑〉。違うな。
ホトトギスの花。
ツレアイは夕食はガッツリ食べる。
開化丼にすると言う。980円。
これにワタシがもりそばを頼むと1680円。
ちょっと高いな。
メニューを再度見ると
セットで〈開化丼+たぬき蕎麦〉が1300円。
冷たい蕎麦が食べたかったが、
ここはガマンしてたぬきにする。
注文をとりにきたのは今度は年配の女性。
ワタシより少し年上だろうか。
あのオヤジのお母さんと思われる。
勝手な推測だが、たぶんご主人が亡くなり、
この店を息子が継いだのだろう。
女性の接客態度はとても丁寧で優しい。
あのオヤジとエラい違いだ。
たぶん花を活けたのも彼女だろう。
蕎麦打ちが客に愛想を振りまく必要もない。
うまい蕎麦を打てればいいのだから、
無愛想でもかまわない。
ただしエラそーなのは勘弁してほしい。
いやこの店のオヤジはエラそーな態度ではない。
届いた蕎麦は細麺の二八。
とてもおいしい。
これならもり蕎麦にすればよかった。
支払いのレジに女性が立っていたので、
〈今度近くに越してきました。
とてもおいしい蕎麦でした。
次は昼に冷たい蕎麦をいただきに伺いますね〉
〈ぜひおいでください〉と笑顔で応えてくれる。