『カムイ伝第二部』全12巻読了。
12巻の冒頭におけるカムイと一太郎のことはもう書いた。
あとは白狼カムイが率いる狼の群れと、洋犬グレートデーンが率いる野犬の群れ、
そして歯ッ欠けをボスとする猿の群れの対立抗争とが描かれる。
人間の世界では、望月藩における藩主・望月常陸守の錯乱と
それにつけこんだ破戒行者三人衆の幻術を使った犬戯け(生類憐れみの令)、
常陸守の弟である望月佐渡守の望月藩の乗っ取りが克明に描かれるのだが、
ワタシはもうほとんどそちらの世界に興味がもてなくなっている。
このエピソードにいったいどんな意味があるのか。
複雑ではあるが、結局御家騒動でしかない。
このあたりの描写は〈神話・伝説シリーズ〉を思い起こさせる。
百姓やルンペンプロリアートの闘いも登場しない。
正助とナナはいつのまにかこの物語から退場している。
竜乃進は武士を捨て、医学を修めるため長崎を目指し、彼もまた物語から退場した。
残る苔丸率いる日置領の百姓影組もほとんど動きはない。
それでもこの12巻目に魅力が残されているとすれば、自然界における野生動物の
描写とその物語の面白さによるものだろう。
グレードデーンは猿の群れのボス、歯ッ欠けを噛み殺す。
これには伏線がある。
猿の群れは木のウロに自然発酵したいわゆる猿酒を発見し、飲酒の習慣を身に付けてしまう。
酔った猿は酒宴を始め、その異様な興奮状態に嫌気がさした若い雄猿たちは群を離れていくことになる。
木のウロに猿酒をみつけ酔っ払う猿たち。このあたりまではユーモラスでもあるのだが、やがて歯ッ欠けはアル中になり、情緒不安定な状態に陥る。
日置城跡の地下で酒樽を見つけ酒宴に興じる猿の群れ。
熊を襲う野犬の群れ。
歯ッ欠けの最後。
日置城跡の地下に大量の酒樽を発見した猿の群れは酒宴を続ける。
そこを野犬の群れに襲われることになるのだが、何度も歯ッ欠けに煮湯を飲まされているグレードデーンは
無惨に歯ッ欠けを引き裂き、殺してしまうのだった。グレートデーン率いる野犬の群れは、望月藩の生類憐れみの令が廃止されることで、野犬となった一団と合流し大きな群れとなるが、この野犬の群れが恐水病に感染してしまう。
野犬の群れの対立抗争はグレードデーンの勝利に終わり、群れはさらに大きくなってゆく。
白狼カムイの率いる狼の群れは、この恐水病に冒された野犬の群れと闘うことになる。
それはカムイや苔丸では手に負えなくなった野犬の群れに対する命を賭けた闘いである。
カムイと一太郎、そして苔丸と猟師のナギらの援助もあり、
狼は野犬の群を全滅に追い込むが、自らも恐水病にかかり滅亡してゆくことになる。
猿も野犬も狼も擬人化されすぎではないかという疑問は浮かぶのだが、
それでもこの自然界での野生動物の群れのぶつかり合いは、
人間のちまちました御家騒動などをはるかに凌ぐ力を持って描かれている。
白い狼カムイ率いる狼の群れと恐水病に冒された野犬の闘い。
野犬の群れとの闘いに勝利した狼たちは静かに去っていくが、彼らもまたこの闘いで恐水病に冒され、絶滅する運命である。
〈続く〉