10数年ほど前、古い付き合いの編集プロダクションの社長(といっても一人だけの会社だが)のUさんから、ネパール在住の日本人会が句集を出すから手伝ってくれと言われた。知人がネパールにいるらしい。当然デザイン料などは出ない。ボランティアである。届いた原稿をまとめて1冊の小冊子にして、面付け後プリントアウトしたものを渡しただけのことである。
Uさんは、「金は出ないが、知人が帰国するときになにかお土産を持って行きたいと言ってる、なにがいい」と聞く。なんでもいいですよ、と言おうとしてつい「ネパールの古い民族楽器が欲しいな」と答えた。
それから半年ほどたって、Uさんからお土産と渡されたのが写真の楽器サーランギである。サーランギという楽器のことは知っていたが、手にするのは初めてである。
ネパールの民族音楽は、村から村へ、家から家へと渡り歩きながら演奏するガイネと呼ばれる巡回楽団がよく知られている。サーランギはそこで用いられる四弦楽器で、本体は木をくりぬいたもので山羊の皮が貼られている。本体には素朴な模様が彫られている。写真のサーランギには後ろ側に図案化された花の彫刻がある。このサーランギは巡回楽団の古老から譲り受けたとのことだが、数カ所修理のあとがある。
私はサーランギを演奏することはできないが、ユーチューブなどで演奏する映像と音を聴くことができる。木の風合いというか、素朴だが懐かしい音色を奏でている。サーランギとはヒンディー語で「音に色をつけて奏でる」という意味があるらしい。
山羊の皮を使っていることで、聖なる場所での演奏は禁じられていると、何かで読んだ記憶があるが曖昧である。ネパールはヒンドゥー教徒が多い(人口の約80%)国だが、2006年、議会によって非宗教国家と宣言され、さまざまな宗教を受け入れている。そこにはアニミズムや素朴な祖先信仰もあり、330万の神がいるらしい。そうした中で奏でられる音楽は、宗教的であるかもしれないがむしろ庶民の生活に根ざした楽しみなのだろうと思われる。
インドにもサーランギと呼ばれる弦楽器があるが、ネパールのものとはずいぶん形が違う。
街頭での演奏。ここで使われているサーランギは少し大きめ。
演奏はここで聴ける。
https://www.youtube.com/watch?v=6InODa2PdMo