洋上風力発電と漁業 海外と日本の経験

Offshore wind farms and fisheries
”洋上風力発電と民主主義”

洋上風力発電と漁業 海外の経験#50 豪州 漁業界 政府提案は水産物消費者に壊滅的影響を与える

2023-08-21 02:06:25 | 日記

 

2023年08月20日

北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二

[洋上風力発電と漁業 海外の経験#50 豪州 漁業界 政府提案は水産物消費者に壊滅的影響を与える]

日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。

オーストラリアのニューサウスウェールズ州の漁業界は、ハンターとイラワラの沿岸沖合に洋上風力発電所を建設するという連邦政府の提案を強く非難している。

ニューサウスウェールズ州漁業者協会代表トリシア・ビーティは、連邦政府が検討している提案は馬鹿げており、絶滅危惧種の保護、自国の商業漁業者や水産物消費者に壊滅的な影響を与えるだろうと述べた。

気候変動・エネルギー大臣が、ハンターとイラワラの沿岸沖合を海洋再生可能エネルギープロジェクトのための地域とすると提案、雇用の安定とエネルギー安全保障という政府の意図を説明しているが、これらには海洋環境に重大な悪影響を与えるという深刻な懸念と証拠があるとトリシア・ビーティは言及した。

洋上風力発電プロジェクトは比較的新しいため、影響についてはつい最近まであまり知られていなかったが、現在、進行中の研究により、海洋生物、植物プランクトン、海流、さらに水温にまで影響を及ぼし、深刻な懸念すべき状況に至ることが分かってきていると語った。

洋上風力発電所の建設中の杭打ちの現場近くで魚類が打撲で死んだり、発生する衝撃音で建設が完了した後もしばらくの間、当該地域を資源が避け続けること、杭打ち衝撃音、稼働中のタービンの騒音が、魚類の産卵行動中のコミュニケーションなど生物学的に重要な手がかりをかき消す可能性があること、更には、商業的に価値の高い様々な魚種が、送電施設によって形成される電磁場にさらされ、通常の行動能力を失い捕食される機会が増大することが危惧されること等が既に報告されている。

トリシア・ビーティは提案されている洋上風力発電プロジェクトが、ニューサウスウェールズ州の商業漁業者に大きな影響を与え、同州ばかりでなくオーストラリア全土の水産物供給、食料安全保障を奪い、海上交通を危険に晒すことになると述べ、先月(2023年7月)にも、コストの高騰とプロジェクトの性質を理由に、英国での開発を中止したスウェーデンの*“ヴァッテンフォール”(Vattenfall)社の件を例示して、これらの追求をやめ、より実行可能で生産的な代替案に目を向けるべきだとして、提案を断固拒否すると語った。

*報告担当者 原口聖二:“ヴァッテンフォール”社は、2023年7月、英国イングランド東部ノーフォーク州沿岸沖合“ボレアス”洋上風力発電プロジェクトの開発を中止すると発表した。

これらの背景には、原材料の鉄鋼、風力タービン自体に加え、タービンを取り付ける特殊な船舶費用など、あらゆるものの価格の急激な上昇と、融資条件のコスト上昇が存在している。

2020年年代後半に発電を開始する予定だったこの1.4ギガワット(GW)プロジェクトは、気候変動目標の達成とエネルギー安全保障の強化を目的として、洋上風力発電容量を現在の約14GWから2030年までに50GWに拡大するという英国最大の計画の一つだった。

“ヴァッテンフォール”社代表アンナ・ボルグは、全体のコストが約40%増加しており、このプロジェクトを続けることはまったく意味がないと語った。

脱炭素ビジネス・コンサルタント会社は、この件が、英国の洋上風力発電産業全体にとって“真の危機”の始まりとなる可能性があると警告している。

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