2024年08月28日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[洋上風力発電と漁業 海外の経験#91 米国 MA沖タービン破壊事故 漁船団洋上デモ実行]
日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。
世界中の漁業者は共通に、洋上風力発電プロジェクトについて、自らが知らない間に選定地が決まって唐突に説明会が始まり、漁業当局に十分なヒアリングを行うことなく、他の部局が主導する地方自治体の前傾姿勢による拙速な取り組みが行われ、事業開発者から漁業分野の科学的知見を理解しようとしない姿勢を感じていると指摘している。
一方、新型コロナウイルスのパンデミックを発端とするサプライチェーンの混乱は、ウクライナ紛争で一段と深刻化しており、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、そして、インフレにより、風力発電事業者の利益が圧迫され、内容が悪化しており、このような環境で、漁業分野を含め満足な補償等に対応がなされるのか、はなはだ疑問な状況が伝えられている。
2024年7月13日、マサチューセッツ州沖の“ヴィンヤード・ウインド”(Vineyard Wind)社による洋上風力発電開発プロジェクトのタービンが破壊、その後、ブレードの残骸がナンタケット島に打ち寄せられ、危険でありビーチが閉鎖される等の事態が発生、米国安全環境執行局(BSEE)は、風力発電所の建設と操業を一時停止する命令を発出する事件が起きた。
このプロジェクトのブレードはグラスファイバー製で残骸とともにガラス繊維が漂着、住民説明会において人体への被害、周辺海域の海洋汚染、魚の食物連鎖を危惧する指摘、意見等が噴出した経緯がある。
かかる状況下、2024年8月25日、25隻の漁船団がナンタケット島沖合に集結、監視下にある“ヴィンヤード・ウインド”プロジェクトに抗議する洋上デモンストレーションを実行した。
当該プロジェクトの故障機は、ブレードが折れ、鋭いグラスファイバーの破片が海に飛び散ったことで調査を受けている。
ニューイングランド漁業者管理協会(New England Fishermen's Stewardship Association:NEFSA)代表ジェリー・リーマン(Jerry Leeman)は、“ヴィンヤード・ウインド”プロジェクトについて、我々の漁業にとって脅威で、今回の事件が海洋コミュニティに壊滅的な打撃を与える可能性があることを証明していると語り、航行上の危険、環境への影響、厳しい気象条件でのタービンの構造的完全性について懸念を表明、今年2024年11月の大統領選挙において政権が交代し、グリーンエネルギー計画が見直しされるための行動をとっていくと加えた。
コネチカット、マサチューセッツ、ニュージャージー、ニューヨークの沖合で計画されていた風力発電所のいくつかは、インフレと金利上昇でプロジェクトの経済性が一変したため、中止または延期されている。
洋上風力発電において、先行する英国の再生可能エネルギー財団“Renewable Energy Foundation”は2020年11月、レポート“風力発電の経済-レトリック(美辞麗句)と現実”を発表している。
この中で、洋上風力発電プロジェクトのコストの予測は、押しなべて規模の拡大と経験効果によって、設置容量の増加にともない平均コストが低下すると説明されているが、現実には、容量が増加するたびに発電コストは上昇しており、その重要な要因の一つに、予想以上に早期に多発する故障にあると指摘している。