モグモグ隊名古屋遠征 第５話

　大須に着いた我々は、観光名所として有名な大須観音を一瞥しただけで、さっそく「ひつまぶし」の店「やっこ」に入った。
「ご注文は？」と聞かれて「とりあえずビール」と答えるのは、もうモグモグ的に当たり前。「ひつまぶし」だけでなく、うなぎ屋なので、骨せんべいもつまみとしてオーダーする。ポリポリそいつをかじりながら、麦酒ののどごしにうなっていると「お待たせしました」と主役登場。待ってましたと拍手喝采。をきな氏、どうやらうなぎが大の好物らしく、今回の遠征でも一番の楽しみだったと、お櫃を前に、僕に嬉しそうに語ってくれた。
「いただきます！」
　をきな氏、もう興奮しすぎて鼻息でメガネ曇ってますよ。
　まず１杯目はそのまま。うな重そのままの味を楽しむ。
　うなぎの脂がしっかりとのっていて、ご飯もほくほくシャキシャキで、それにたれが多すぎず少なすぎずかかっていて、本当にうまい。
「жЯゞШдё＠！！」
　をきな氏、興奮の極み。絶頂MAX。もう何言ってるかわかりません。たぶん目の前のお椀につがれている「ひつまぶし」しか見えてないんだろうな。若干涙ぐんでいたような気もするが、漢を「をとこ」と読ますをきな氏、うなぎの１匹や２匹では泣かないでしょう。ね？

　そして２杯目。小皿に盛られた薬味を載せていただきます。
　わさび、白ゴマ、ネギの３種類の薬味だけなのだが、これがまたうまい。別の味とまではいかないが、明らかに味の深みが増すのです。ちなみに僕はこの２杯目が大好き。わさびのピリッとした辛さとうなぎの相性がいいんだな、これが。
　をきな氏、もう白目ひんむいて、口だけモグモグしてます。逝っちゃってるってこういうことを言うんだな。魂はすでに涅槃に到着しながら、口と舌だけは現世に残って、うなぎを味わっているに違いない。これ、ヒンドゥー教の教えじゃないですか。さすがリーダー、深い、深すぎだぜ！

　最後の３杯目は、２杯目の状態に、うなぎの味がしっかりと出ただしをかけて、お茶漬け風にしていただきます。
　お腹のほうも２杯目でいい感じになってきているはずなのに、だしをかけてさらさらと流し込める３杯目。これも贅沢な一品。日本に生まれてよかったと思う。日本バンザイ、うなぎバンザイ！
　をきな氏、もう失禁寸前。うなぎ喰い始めてから、終始無言。小粋なうなぎ屋で、まったく会話なしにひつまぶしを食べる男二人でした。
「もうまぶされてもいいッ！」をきな氏、いきなり発狂か!?　まぶされてもいい、名言が生まれた瞬間に立ち会えて、僕、本当に幸せでした。

　放心状態のをきな氏を抱えるようにして、僕は店をあとにした。残念だけど、リーダーだけど、このままの状態ならば、モグモグ隊として戦力外通告を下すしかない。「は、ま、まつ、に、住、もう、か、な…」なんてうわごとのようにつぶやくをきな氏。頼れるリーダーがもぬけの殻のようになってしまい、僕は泣きそうだった。こんなときに誰かがいてくれたら…。

　……。

　そうだ！いるじゃないか！

　僕は思い出した、やはぎ氏のことを。確かあいつは午前中に退院と言っていたじゃないか。時計を見ると午後２時。もう今頃は退院をすまし、自宅でリーダーからの出動命令に待機していることだろう。
「をきなさん、やはぎを！　やはぎを呼びましょう！」
　白昼夢のなかのをきな氏から携帯をもぎ取り、やはぎにエマージェンシーコール。
「コチラ　ヲキナ。シキュウ　オオス　ニ　コラレタシ」
　すぐさまやはぎ氏より返信。
「リョウカイ　30プンゴ」

　とりあえずやはぎが来るまでに、なんとかをきな氏の状態をリーダーの威厳漂うまでに戻さなければいけない。うなぎぼけしているをきな氏の手を引いて、やってきたのは、大須といったら「コメ兵」と、名古屋人のあいだでは数式が成り立っているほど有名な巨大リサイクルショップ（質屋）だった。
　アクセサリや時計などの貴金属、ブランド品だけでなく、パソコンやカメラ、古着まで扱うコメ兵の本館５階には、楽器コーナーが。Blog「スキャターブレイン」では惜しみなく音楽へ情熱を傾けるをきな氏。楽器が並ぶこの一角に立たせれば、うなぎぼけを直してくれるに違いない。
　エスカレーターを上がり、楽器コーナーについた瞬間、をきな氏の目の色が戻った。
「うわっ、安いな、これ」
　と若干興奮気味に楽器を見続けるをきな氏。よかった戻ってくれたか、と僕が安堵したその瞬間、
「お待たセニョリータ」
　と白豚に乗って、やはぎ氏登場。いつもながらキマってますね。足には包帯がグルグル巻きだが、普通に歩いていた。歩けるんかい！というツッコミをしたが、「そうなんじゃよ」と普通に返された。

（つづく）