ヤップ島回想記

太平洋戦争末期のミクロネシアでの奮闘記

第13章 あずま屋風の水洗便所

2012-10-19 15:15:24 | 第13章 あずま屋風の水洗便所
ウギリの宿舎の位置ははっきり憶えていないが入江のある村の椰子林の中にあったと記憶している。宿舎の便所は近くに無く、海岸に突き出たあずま屋風の水洗便所?はなかなかおつなものだった。
 桟橋の先端の海中から4本の柱が出ていて、その上に建てられたもので、あずま屋風の屋根が有り四方は体裁良く囲いがしてあるだけのものであった。風通しが良く、なかなか趣のあるものであった。天気の良いときはすこぶる快適だが雨の日や風の強い日は横から入ってくる雨風でゆっくりやってはいられない。特に台風の時はすさまじく、海中に吹き飛ばされそうで余程の時でないと使用出来無い。大抵は朝方入るのだが干潮の時が多く、満潮の時には水面が床下から1メートルくらいになるような高さに設置されているので、干潮時には数メートルのかなりの高さになるので完全に干上がったときは砂地が出て其処にはなにやらうごめいているのが小さく見える。そこへポトムと落ちる音はいかにも健康的だが、体調の悪いときの緩やかなものは、特に風の強い日などは空中に飛散し音もなくそこら中に散布するような有様で、いつもは元気な落下音を聞いていたようだ。
 当時はチリ紙は貴重品で少なく、我々も島民と同じく野生の草の葉を使用していた。篭の中に手頃な大きさで適度にやわらかい草の葉が用意されていた。
 満潮時は実際に経験した人だけが知る人ぞ知るで、床下1メートルの海面が波打っている。透き通った海面は手が届きそうで、泳いでいる魚の様子がよく見えた。 こわごわ落下させると、とたんに黒い魚がパッと喰らいつく、中には数匹が寄ってくる。ときには大きな鮫が徘徊しているときもある。尻を喰いちぎられるのではないかと、スリルに満ちた冒険の毎日であった。
 やはり水洗便所なのだから、完全に干上がった砂地へ落とすより水深1メートル位の海面に落下する時が一番快適だと思うが、これはたまたまその時間を狙って使用する以外術はない。