今月26日、昨年3月に起きた、六本木ヒルズで、6歳の男の子が亡くなった回転ドア事故に関して、六本木ヒルズを運営する森ビルの幹部らが書類送検された。
六本木ヒルズは、2003年4月のオープン直後から、回転ドアでの事故が多発し、昨年3月の死亡事故までの一年の間に、報告されただけでも32件もの事故があったという。十分、今回の事故が予見されたにもかかわらず、安全な対策をとらなかったというのが、嫌疑とされている。
特に、2003年12月には、6歳の女の子が頭と右ひざをドアに挟まれ、警備員らが助け出そうとしてもドアが動かず、4分後にようやく救出された。その時には、女の子の黒のタートルネックは血まみれになり、すぐに、救急車で病院へ搬送されたが、右耳の後ろを11針も縫ったという。既に軽傷なんていうものではない、大事故が起きていたのだ。
現在、六本木ヒルズでは、ほとんどの回転ドアは撤去もしくは使用が停止されているという。当然のことである。
国土交通省と経済産業省も、専門家らによる検討会を設置し、再発防止のためのガイドライン(指針)を作成したようである。
昨年3月にこの死亡事故が起きる前までの1年の間に、32件の事故が報告されていたということを聞いて、私を含めて、労働災害で有名な「ハインリッヒの法則」を思い出された方も多かったようだ。実際、ある報道でも、そのことが触れられていた。
―――――
「ハインリッヒの法則」とは。
「1:29:300の法則」とも呼ばれている。米国のハインリッヒ氏が、労働災害の発生確率を分析したもので、保険会社の経営に役立てられている。それによると1件の重大災害の裏には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、その裏にはケガはないがヒヤリ、ハッとした300件の体験があるというものである。日本では、ハインリッヒを文字って、「ヒヤリ・ハット」の法則ともいわれている。
同じように、ビジネスにおける失敗発生率としても活用されており、例えば1件の大失敗の裏には、29件の顧客から寄せられたクレーム、苦情で明らかになった失敗がある。さらにその裏には、300件の、社員が「しまった」と思っているが、外部の苦情がないため見逃しているケース、つまり認識された潜在的失敗が必ず存在するといえる。
一言でいえば、小さな失敗なら、上手く隠すこともできる。しかし、その原因を根治しないと、後々300倍の痛手になって返ってくるというものだ。
具体例をあげる。
職場の隅っこに、紙くずが落ちている。社内の整理整頓がなされていない。社内で挨拶をしても、生返事しかしない社員がいる。家庭で、いつも置いてあるはずの所に、新聞が置かれていない。そんなことは、大したことではない。会社がつぶれることもないし、家庭内に何の影響もない。しかし、そのようなことが、改善されることなく積み重なっていくと、トラブルが表に出てくる。
お客様の所に、間違った商品、連絡が行ってしまう。社内で、ちょっとしたことから、言い争いがおきてしまう。新聞を読もうと思った夫が、すぐに見つけられず、家族に不満をぶつける。それらに対して、根本的な改善策ではなく、当座の対処療法しか施さない。
すると、今度は、信頼関係を構築できなくなった、大切なお客様から契約を打ち切られる。優秀な社員が会社を辞めてしまう。会社の危機。夫婦、親子内で修復できない状態になってしまう。離婚。家出。
―――――
ハインリッヒという人は、労働災害の専門家である。労務を管理し、データを分析する方であり、される側の人間ではない。ハインリッヒの法則をビジネスの観点からいえば、それは、サービスを供給する側からの法則であり、受け取る側のものではない。それはそうであろう。CS(顧客満足)なんていわれ出したのは、1980年代くらいからであろうか。
おもしろい数値がある。「サービス・マネジメント」という、マーケティングについて書かれた本からの引用である。顧客の側からみた、「ハインリッヒの法則」といえようか。
『ある提供されたサービスに対して不満を持った顧客の96%は、その企業に対して何も言わない。一般にクレームが1件あると、問題を抱えた顧客が他にも24人存在することになり、そのうち6件は深刻な問題である』
つまり、1:29:300の法則における29のクレームは、不満をもった顧客のうち、わずか4%が発するクレームにしか過ぎないということだ。29件のクレームが発せられたとするなら、実は、不満をもった顧客は単純計算で725人いるということになる。
なるほど、顧客としての自分を振り返ると納得ができる。
あるレストランで食事をする。味なり価格なりサービスなりに対して、そのレストランに不満をもつことはよくある。私を含めてほとんどの人は、よほどのことがない限り、直接クレームをつけることはしない。二度と、その店に行かないだけである。96%だ。
こういう趣旨の記述もある。
『企業とのビジネスに問題があると感じた顧客は、平均9~10人にその事実について話す。特にその13%は、20人以上にも話をする』
その数値はともかく、確かに、そのレストランの話になれば、厳しい意見を吐いてしまうであろう。
『苦情を訴えた顧客の54~70%は、問題が解決されれば再びその企業とビジネスをしようとする。特に問題が速やかに解決されたと顧客が感じるときには、その数字は95%にまで上昇する』
私は、まず、クレームをつけない方だが、仮にクレームをつける4%に入った場合、先方が速やかに対応していただければ、逆に、責任を感じて、再度そのレストランに足を運ぶことになるであろう。
本来の、ハインリッヒの法則が表わす通り、重大な失敗を回避することに留意することが一番大切であることはいうまでもない。しかし、万が一、そのような状況に陥ってしまった場合は、とにかく、スピード感を持って対応することが、非常に重要なポイントになってくる。
―――――
森ビルほどの大会社の労務担当者が、「ハインリッヒの法則」を知らないはずはない。しかしながら、32件という事故の報告を受けても、小さな女の子が、血まみれの事故にあったということを聞いても、取り返しのつかない事故、事件に繋がりかねないというところにまでは、思いは至らなかったようである。
私は、私の長男と同い年である男の子が犠牲になった、今回の六本木ヒルズでの事故を報道で知って、とても穏やかではいられなかった。胸が引き裂かれるような思いであった。
その子の葬儀の際、祭壇には、ピースサインをした笑顔の遺影と、4月から使うはずだった真新しいランドセル、好きだった絵本、幼稚園の修了証などが並べられたという。
この年齢の子がいる家庭ならどこでも、この時期には小学校入学の準備は万端に整えているはずである。
ランドセルのほかにも、制服、ズック、文房具等々、その他、数多くの夢、希望。
ご両親は、一生、それらを大切に守っていかれることであろう。
六本木ヒルズは、2003年4月のオープン直後から、回転ドアでの事故が多発し、昨年3月の死亡事故までの一年の間に、報告されただけでも32件もの事故があったという。十分、今回の事故が予見されたにもかかわらず、安全な対策をとらなかったというのが、嫌疑とされている。
特に、2003年12月には、6歳の女の子が頭と右ひざをドアに挟まれ、警備員らが助け出そうとしてもドアが動かず、4分後にようやく救出された。その時には、女の子の黒のタートルネックは血まみれになり、すぐに、救急車で病院へ搬送されたが、右耳の後ろを11針も縫ったという。既に軽傷なんていうものではない、大事故が起きていたのだ。
現在、六本木ヒルズでは、ほとんどの回転ドアは撤去もしくは使用が停止されているという。当然のことである。
国土交通省と経済産業省も、専門家らによる検討会を設置し、再発防止のためのガイドライン(指針)を作成したようである。
昨年3月にこの死亡事故が起きる前までの1年の間に、32件の事故が報告されていたということを聞いて、私を含めて、労働災害で有名な「ハインリッヒの法則」を思い出された方も多かったようだ。実際、ある報道でも、そのことが触れられていた。
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「ハインリッヒの法則」とは。
「1:29:300の法則」とも呼ばれている。米国のハインリッヒ氏が、労働災害の発生確率を分析したもので、保険会社の経営に役立てられている。それによると1件の重大災害の裏には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、その裏にはケガはないがヒヤリ、ハッとした300件の体験があるというものである。日本では、ハインリッヒを文字って、「ヒヤリ・ハット」の法則ともいわれている。
同じように、ビジネスにおける失敗発生率としても活用されており、例えば1件の大失敗の裏には、29件の顧客から寄せられたクレーム、苦情で明らかになった失敗がある。さらにその裏には、300件の、社員が「しまった」と思っているが、外部の苦情がないため見逃しているケース、つまり認識された潜在的失敗が必ず存在するといえる。
一言でいえば、小さな失敗なら、上手く隠すこともできる。しかし、その原因を根治しないと、後々300倍の痛手になって返ってくるというものだ。
具体例をあげる。
職場の隅っこに、紙くずが落ちている。社内の整理整頓がなされていない。社内で挨拶をしても、生返事しかしない社員がいる。家庭で、いつも置いてあるはずの所に、新聞が置かれていない。そんなことは、大したことではない。会社がつぶれることもないし、家庭内に何の影響もない。しかし、そのようなことが、改善されることなく積み重なっていくと、トラブルが表に出てくる。
お客様の所に、間違った商品、連絡が行ってしまう。社内で、ちょっとしたことから、言い争いがおきてしまう。新聞を読もうと思った夫が、すぐに見つけられず、家族に不満をぶつける。それらに対して、根本的な改善策ではなく、当座の対処療法しか施さない。
すると、今度は、信頼関係を構築できなくなった、大切なお客様から契約を打ち切られる。優秀な社員が会社を辞めてしまう。会社の危機。夫婦、親子内で修復できない状態になってしまう。離婚。家出。
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ハインリッヒという人は、労働災害の専門家である。労務を管理し、データを分析する方であり、される側の人間ではない。ハインリッヒの法則をビジネスの観点からいえば、それは、サービスを供給する側からの法則であり、受け取る側のものではない。それはそうであろう。CS(顧客満足)なんていわれ出したのは、1980年代くらいからであろうか。
おもしろい数値がある。「サービス・マネジメント」という、マーケティングについて書かれた本からの引用である。顧客の側からみた、「ハインリッヒの法則」といえようか。
『ある提供されたサービスに対して不満を持った顧客の96%は、その企業に対して何も言わない。一般にクレームが1件あると、問題を抱えた顧客が他にも24人存在することになり、そのうち6件は深刻な問題である』
つまり、1:29:300の法則における29のクレームは、不満をもった顧客のうち、わずか4%が発するクレームにしか過ぎないということだ。29件のクレームが発せられたとするなら、実は、不満をもった顧客は単純計算で725人いるということになる。
なるほど、顧客としての自分を振り返ると納得ができる。
あるレストランで食事をする。味なり価格なりサービスなりに対して、そのレストランに不満をもつことはよくある。私を含めてほとんどの人は、よほどのことがない限り、直接クレームをつけることはしない。二度と、その店に行かないだけである。96%だ。
こういう趣旨の記述もある。
『企業とのビジネスに問題があると感じた顧客は、平均9~10人にその事実について話す。特にその13%は、20人以上にも話をする』
その数値はともかく、確かに、そのレストランの話になれば、厳しい意見を吐いてしまうであろう。
『苦情を訴えた顧客の54~70%は、問題が解決されれば再びその企業とビジネスをしようとする。特に問題が速やかに解決されたと顧客が感じるときには、その数字は95%にまで上昇する』
私は、まず、クレームをつけない方だが、仮にクレームをつける4%に入った場合、先方が速やかに対応していただければ、逆に、責任を感じて、再度そのレストランに足を運ぶことになるであろう。
本来の、ハインリッヒの法則が表わす通り、重大な失敗を回避することに留意することが一番大切であることはいうまでもない。しかし、万が一、そのような状況に陥ってしまった場合は、とにかく、スピード感を持って対応することが、非常に重要なポイントになってくる。
―――――
森ビルほどの大会社の労務担当者が、「ハインリッヒの法則」を知らないはずはない。しかしながら、32件という事故の報告を受けても、小さな女の子が、血まみれの事故にあったということを聞いても、取り返しのつかない事故、事件に繋がりかねないというところにまでは、思いは至らなかったようである。
私は、私の長男と同い年である男の子が犠牲になった、今回の六本木ヒルズでの事故を報道で知って、とても穏やかではいられなかった。胸が引き裂かれるような思いであった。
その子の葬儀の際、祭壇には、ピースサインをした笑顔の遺影と、4月から使うはずだった真新しいランドセル、好きだった絵本、幼稚園の修了証などが並べられたという。
この年齢の子がいる家庭ならどこでも、この時期には小学校入学の準備は万端に整えているはずである。
ランドセルのほかにも、制服、ズック、文房具等々、その他、数多くの夢、希望。
ご両親は、一生、それらを大切に守っていかれることであろう。