林業の仕事は、基本的に刃物を扱う作業になるため、刃物を扱う基本姿勢が山林作業の基本姿勢になります。
この基本姿勢は、チェーンソーや刈払機の機械を扱うときも同様です。
4月を迎え、新入社員が入った会社もあると思うので、今回は、「鉈」、「鋸・チェーンソー」、「刈払機」に分けて、山林作業の基本姿勢について、お話したいと思います。
今回は「鉈(なた)」について。
右手で「鉈(なた)」を持ち、右上から左下に向かって振り下ろして、灌木などを切る場合、「右足が前、左足が後」が基本姿勢になります。
そして、右手で持った鉈を左上から右下に向かって振り下ろす場合は、「左足が前、右足が後」が基本姿勢になります。
ちなみに、左利きの方は、左手に鉈を持ち、左上から右下に向かって鉈を振り下ろす場合は「左足が前、右足が後」、右上から左下に向かって振り下ろした場合は「右足が前、左足が後」が基本姿勢になります。
この基本姿勢のポイントは、「刃を振り下ろした側の足が、必ず後になる」ということです。
それは、「自分が振り下ろした刃で、自分の足を切らないため」です。
この姿勢は、鉈に限らず、日本刀を扱うときも同じです。
映画やテレビなどの時代劇で見られる日本刀で斬り合う「殺陣(たて)」というシーンを、一度、じっくり見てください。
上段の構えで、日本刀を左上から右下に振り下ろす際、左足が前・右足が後になっています。
また、下段の構えで、左下から右上に振り上げる際は、左足を後・右足が前になっています。
刃を振り上げる時、左足を切らないよう、左足が後になっています。
そして、鞘から刀を抜く時。
左足が後・右足が前の姿勢になります。
これも、鞘から刀を抜く際、左足を切らないため、左足が後になります。
とある漫画で、必殺奥義の秘密を「抜刀の際、左足が前になっている」と明かしていますが、実際は、正しくない姿勢です(^_^;)。
さて、山林作業において、この必殺奥義と同じ姿勢で、灌木を鉈で切ろうとすると・・・
自分で自分の足を切ってしまう恐れがあります。
鉈の目立てが悪く、灌木への切り込みが甘くなり、鉈が滑り、そのまま自分の足へ・・・なんて、ケガになることもあります。
駆け出しの頃。
師匠から渡された鉈は、右利き用の片刃の鉈でした。
その理由は、「両刃だと左右両方向で切ってしまう。逆方向を切るとき、基本姿勢を直さず切ろうとして、結果、怪我する」から。
右利きの場合、右上から左下に振り下ろすのが正方向、左上から右下に振り下ろすのが逆方向と教わり、正方向で切る場合、正しい基本姿勢で切るけど、逆方向に切るとき、そのままの姿勢で切ろうとしてしまうから、怪我に繋がるということです。
まず、正方向で切るときは、この姿勢。
だけど、逆方向で切るときは、この姿勢のまま、切ろうとしてしまう・・・。
人は同じ作業を繰り返すうちに、基本姿勢の意識が薄くなり、段々と無駄な動きをしない、簡素な動きに、無意識に替えてしまう。
無意識に替えた姿勢が正しいなら問題ないけど、大抵は、正しくない姿勢になる。
なので、逆方向では切れない、片刃の鉈を持たされた・・・というわけです。
では、片刃の鉈で、逆方向にある灌木を切る場合はどうするのか。
正方向で切れる位置に体の向きと姿勢を変えてから、灌木を切ります。
師匠は、状況に応じて、自分の体の向きや姿勢を変えるクセを身につけさせるために、片刃の鉈を渡してくれました。
繰り返しになりますが、林業の作業は刃物を扱う作業が基本で、その基本姿勢は、刃物を扱う基本姿勢と同じです。
鉈を右上から左下に振り下ろすときは、右足が前・左足が後。
左足が前・右足が後の作業姿勢で鉈を扱うと、自分が振り下ろした鉈で自分の足を切ってしまいます。
逆方向に、左上から右下に振り下ろす際は、左足が前・右足が後。
鉈を無双のごとく振り回すうちに、無意識で、右足が前・左足が後という姿勢になってしまうと、自分の足を切るリスクが上がります。
林業・ボランティアに関わらず、新入社員や初めて山林作業をする方に、この基本姿勢を指導することは、とても重要で大切なことです。
「なぜ、この基本姿勢なのか。」
『それは、自分で自分を傷つけないため。
そして、日本刀を扱うときも同じ。』
と言う風に、指導する際、非常にシンプルで、辻褄のあう説明が出来るので、結構、納得いただいています。
そして、間違った作業姿勢になっている方を見つけたら、「足、逆ですよ。気をつけて下さいね。」と一言声をかければ、すぐに直してくれます。
注意された方も、考えて、意識して、直してくれます。
注意したときの声を聞いた方も、同じように意識してくれます。
林業は肉体労働が多いので、疲労が溜まると、集中力も意識も散漫になりがちです。
だけど、少しでも、「はっ」と自分で気づき、自分で基本姿勢を直すクセを身につけることが、大切だと思います。
そして、それを繰り返すことで、正しい作業姿勢が身についていくと思います。