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平成22年度重要判例解説 労働法 目次・リンク

2012年05月01日 | 労働重判目次・リンク

1事件 いわゆる偽装請負と黙示的労働契約の成否―パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件
(最判平成21年12月18日)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=38281&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091218155652.pdf

2事件 会社分割にともなう労働契約承継と協議・措置義務―日本アイ・ビー・エム事件(最判平成22年7月12日)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80428&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100712111131.pdf

3事件 勤務態度不良による解雇と不法行為―小野リース事件(最判平成22年5月25日)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80211&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100525141345.pdf

4事件 退職者が長期間経過後に加入した組合との団体交渉義務―住友ゴム工業(大阪高判平成21年12月22日)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80248&hanreiKbn=03
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100602081712.pdf

5事件 海外ツアー添乗員とみなし労働時間制―阪急トラベルサポート事件(東京地判平成22年7月2日)

6事件 メッセンジャーの労働者性と契約解除の適否―ソクハイ事件(東京地判平成22年4月28日)


【答案】百選113事件 使用者の言論―プリマハム事件

2012年05月01日 | 労働百選答案

使用者の言論と支配介入 最判昭和57年9月10日 第一審東京地判昭和51年5月21日

1 X社は本件声明文表示を支配介入にあたると判断した救済命令の取消を求めている。これが認められるかは本件声明文表示が労組法7条3号の支配介入にあたるかにより決されるため、この点について検討する。
2(1) まず、本件社長の声明文の掲示が同法7条3号にいう「労働者が労働組合を運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」に当たるか。
(2) 使用者の発言行為は憲法21条に掲げる言論の自由の保障の下にあり、およそ使用者であるからといって言論の自由が否定されることはない。しかしながら使用者の言論の自由も、憲法28条の団結権を侵害してはならないという制約を受けることを免れず、使用者の言論が組合の結成、運営に対する支配介入にわたる場合は不当労働行為として禁止の対象となると解すべきである。そして、上記支配介入にわたる場合にあたるか否かは、①言論の内容、②発表の手段・方法、③発表の時期、④発表者の地位・身分、⑤言論発表の与える影響等を総合的に判断し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼす場合といえるかによって決すべきである。
(3) これを本件について検討する。
ア まず①言論の内容の点につき、本件社長声明文は、その対象者を「従業員の皆さん」としているが、会社は当時組合といわゆるユニオン・ショップ制を協定していたことが認められるから、「従業員の皆さん」はとりもなおさず組合員全員を対象にしている。
 そして、声明文の内容によれば、(1)「組合幹部の皆さんは」という文言については、組合執行部の態度を批判することにより、執行部と一般組合員との間の離反を図るおそれがあるとみられなくはない。(2)「ストのためのスト」という文言については、組合の団交決裂宣言は争議開始の要件として労働協約上定められており、また、昭和45年度は団交決裂宣言後ストライキ突入までに9日間あり、その間に2回団体交渉が行われ、昭和46年度も団交決裂宣言後ストライキ突入までに5日間あり、その間に1回団体交渉が行われており、昭和46年における団交の際、組合がストライキ開始の要件として決裂宣言をしたことをめぐって労使間で議論が交わされたことが認められ、以上のような経緯からすれば、組合の団交決裂宣言が直ちにストライキを決行するという趣旨でないことは、会社において十分に、認識していたものと思われる。(3)「重大な決意」との文言は、ストライキへの参加により処分がありうることを示唆するものであり、一般的に言って組合員に対する威嚇的な効果をもつことは否定できない。(4)「節度ある行動をとるように」との文言は、会社は、従来組合の争議方法について問題にしたことはなかったことが認められるから、これは組合員に対するストライキ不参加の呼びかけというほかはない。
 以上から判断すると、本件声明文は、組合員全員に対し、組合執行部と一般組合員との離反を図ることを目的として、近い時期にストライキが行われることを認識しつつ、威嚇的効果を狙い、ストライキ不参加を呼びかけることを内容とするものということができる。
イ 次に②発表の手段・方法の点につき、本件声明文は、全事業所に一斉に掲示して発表された。これは使用者としての強い意思を示す強硬な手段・方法であって、威嚇的効果は大きいといえる。
ウ また③発表の時期についてみるに、4月15日の団交決裂宣言が直ちにストライキに突入することを意味しておらず、なお団体交渉によって話し合いを継続する余地のある段階であったにもかかわらず、上記宣言からわずか2日後にX社は本件声明文を掲示したのである。したがって、X社は組合と誠実に交渉を継続する努力を放棄して、拙速に本件掲示行為に出たものといわざるをえない。
エ さらに④発表者の地位・身分につき、本件声明文は、会社の最高責任者としての社長名義で発表されており、その強大な権限を考慮すると、組合員に対する威嚇的効果は大きい。
オ そして⑤言論発表の与える影響につき、この発表後、ストライキに反対する組合内部での動きが各支部において急に現れてきたところからみると、本件声明文掲示が組合内部における執行部の方針に批判的な勢力に力を与えて勇気付けて、初めて193名に及ぶ脱落者が出たというべきで、本件声明文掲示行為は組合員に対し大きな影響を与えうる行為であったということができる。
カ 以上を総合して考えると、本件社長声明文の掲示は、組合員に対し威嚇的効果を与え、ストライキをいつどのような方法で行うか等という、組合が自主的に判断して行動すべき組合の内部運営に影響を及ぼすものというべきであり、「労働者が労働組合を運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」に当たると解するのが相当である。
3(1) 次に、支配介入(労基法7条3号)については、不利益取扱い(同法同条1号)とは異なり、条文上不当労働行為意思を成立要件とする文言(「故をもって」)は用いられていない。そこで、支配介入の成立にはその意思(使用者の主観的認識)は必要とされないのかが問題となる。
(2) 条文の文言からすると、使用者の具体的な組合弱体化の意思(支配介入を使用とする意欲・認識)までは要件とされないが、使用者の認識とは全く無関係に行為の結果のみから不当労働行為製を肯定すると使用者の行為を過剰に制限することになるため、広い意味で反組合的意思をもって行為がなされたことは必要であると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみるに、上記のように本件声明文は、組合員全員に対し、組合執行部と一般組合員との離反を図ることを目的として、近い時期にストライキが行われることを認識しつつ、威嚇的効果を狙い、ストライキ不参加を呼びかけることを内容とするものであり、これを全事業所に一斉に掲示するという強硬な手法をとったこと、団交交渉がなお要求される時期において本件掲示に踏み切ったこと、社長名義という権勢を背景になされたこと、組合員に対し多大な影響を与えうる行為であったこと、等の事情を考慮すると、X社が少なくとも反組合的意思をもって本件掲示を行ったことが優に推認できる。したがってX社には7条3号に該当するため要求される支配介入意思が認められる。
4 以上より、本件声明文掲示行為は労組法7条1項3号の支配介入の不当労働行為に該当し、Xの請求は認められない。