世相の潮目  潮 観人

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ウクライナ戦争は冷戦構造の回帰をグローバル化した

2023年07月16日 | 現代

ウクライナ戦争は、プーチン大統領が大ロシア連邦の実現を達成しようと始めた特別軍事作戦で開始されましたが、ウクライナ軍の抵抗でプーチンの特別軍事作戦は頓挫し、その後の戦争は、西欧諸国の支援で反撃に出たウクライナ軍と占領地を確保しようとするロシア軍が対峙する膠着状態に陥入っています。

7月11日12日にリトアニアで開催されたNATO会議ではこの膠着状態を打開するためG7各国からウクライナへの長期軍事支援が約束されましたが、NATOへの早期加盟を求めるウクライナの要望は退けられました。ロシアと戦争中のウクライナをNATOに加盟させることは、NATOとロシアの戦争となり、核戦争の危険が増大するとの懸念からでした。

しかしながら、他方ではこのNATO会議では中立国だったスエーデン、フィンランドのNATO加盟が認められ、その結果バルト海は完全にNATOの海になったので、ロシアの海洋進出の出口は塞がれてしまいました。

プーチン大統領としては、ソ連崩壊後にNATOが次々と東欧諸国を加盟させてロシアに迫るのを阻止しようとして、ウクライナだけはロシア圏に留めようとしたのですが、逆にNATOの結束を強める結果になり、西欧ではこれでロシアとは冷戦構造へ回帰したと見ています。

しかし西欧の冷戦構造への回帰を一番恐れているのは,実は中国なのです。と言いますのは旧ソ連圏だったウクライナを勢力圏に取り込もうとしたロシアと同じく、中国は台湾は嘗て中国の支配下にあったと主張し、軍事力で台湾を併合しようとしているからです。しかもウクライナ戦争を始めたロシアと中国は緊密な協力関係にあるので、中国は覇権主義の国として西欧諸国からも警戒されるようになっているからです。

いま台湾を巡り米国と激しく対立している中国はこれをアジアでの冷戦の始まりと言われるのを恐れていますが、中露が緊密な関係なので、ロシアとの冷戦復活に苦しむ欧州諸国は、ロシアと協力関係にある中国の台湾侵攻をアジア版冷戦の開始とみるのは必定です。

西欧諸国のアジアへの関心、さらには懸念が強まっていることは次のような事実に現れています。
今年5月21日閉幕した広島G7サミットでは、ウクライナ支援の共同歩調、中国覇権主義への警戒共有、核軍縮・核不使用確認の3点で合意しました。
7月12日に日本とNATOは、安全保障16分野での協力文書「国別適合パートナーシップ計画」に合意しました。その中で覇権主義的行動を強める中国をにらみ、インド太平洋地域での連携拡大を打ち出しています。
7月13日に行われた第29回日EU定期首脳協議では安全保障協力拡大で合意し、その中で、マクロン仏大統領の台湾不介入の発言にも拘わらず、EUは台湾海峡の平和と安定の重要性を指摘し、台湾問題の平和的解決を求めると述べています。

ウクライナ戦争は未だ解決の目処は立ちませんが、その影響は日本とNATO、日本とEUとの安全保障に関する協力関係の強化に現れています。冷戦構造の回帰はグローバル化したのです。
以上

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