歴史の経験に照らすと、一般的に民主主義国間では戦争は起きにくいが、独裁国家間では容易に戦争は起き得るし、民主主義国と独裁国との間では用心しないと戦争は起き易いと言われます。
欧州では現代はポストモダンの時代に入ったので、国家が国民の愛国心を煽って戦争を起こすことはないと言われていますが、若い国が多いアジアでは未だ国民国家のモダン時代が続いているので、戦争の危険は大きいと言われます。
誕生して未だ若い独裁国家の中国は、アジアで戦争を起こす危険のある国です。特に近代において列強に侵略された屈辱をはらし、過去の覇権国家の栄誉を取り戻すべく中華の夢を追い求めているので特に危険です。現に、南シナ海で領海を侵略していますし、周辺諸国との武力衝突の危険は高まっています。
習近平主席がオバマ大統領に対して太平洋を米中両国で二分割しようと提案したことは、戦前の植民地時代の重商主義の発想と同じでした。今のトランプ大統領のアメリカ第一主義も同じ危うさがあり、自由貿易協定を主張していますが貿易戦争の危険をはらんでいます。
トランプ大統領は、中国の対米輸出が国内の雇用を奪ったとして、中国を為替操作国に指定し、不公正貿易だから高率の国境税をを課税すると発言しています。そのトランプ大統領はアメリカ優先主義を実現するため、新たに国家通商会議(NTC)を創設し、対中強硬派のはピーター・ナヴァロ教授を任命しました。
更に、この国家通商会議(NTC)を国家安全保障会議(NSC)と連携させて、経済と安全保障の双方からアメリカ第一主義の国家戦略を樹立するとしています。ピーター・ナバロ国家通商会議(NTC)議長は、嘗て政治は経済の継続に過ぎないと語っていました。戦争は政治の継続に過ぎないとプロシャの戦略家クラウゼヴィッツは言いましたが、米中関係の緊張は、経済から政治へ、政治から軍事へ波及する危険を胎んでいます。
オバマ大統領の時には、国家安全保障問題担当大統領補佐官に国連大使を務めたスーザン・ライスを登用して、中国に対しては摩擦回避の宥和政策に終始しました。しかし、この度、トランプ大統領は、国家安全保障担当の大統領補佐官に国防情報局長だったマイケル・フリン陸軍中将をを任命しました。情報将校として優れた軍人ですが政治と外交には素人であり、今後のホワイトハウスの対中政策は強硬になるでしょう。
嘗て、鄧小平は外交方針に「冷静観察」「沈着対応」「韜光養晦」「決不当頭」と言う16文字原則を示しました。「冷静に観察せよ、沈着に対処せよ、能力を隠して好機を待て、決して先頭に立つな」という意味です。
経済、政治、軍事を総合した中国封じ込め政策を採る米国に、中国はどう対処するでしょうか。中国の夢を語る習近平主席は、鄧小平のような慎重さを持ち合わせないようです。米中対立はアジアの冷戦を熱くする危険を増してきました。
(以上)