世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

アジアでの冷戦 米中の戦いは熱くなる

2017年01月26日 | 現代
ロシアと中国が武力で領土・領海を獲得しようとしている状況は、第二次大戦前の帝国主義時代の再来を思わせます。第二次大戦後、長い間平和な時代が続いて、局地戦とゲリラしか知らない多くの国にとって、現状が如何に深刻な事態になっているかを理解するには、国民国家が領土・領海を争奪し合った戦前の世界歴史を振り返る必要があります。

歴史の経験に照らすと、一般的に民主主義国間では戦争は起きにくいが、独裁国家間では容易に戦争は起き得るし、民主主義国と独裁国との間では用心しないと戦争は起き易いと言われます。

欧州では現代はポストモダンの時代に入ったので、国家が国民の愛国心を煽って戦争を起こすことはないと言われていますが、若い国が多いアジアでは未だ国民国家のモダン時代が続いているので、戦争の危険は大きいと言われます。

誕生して未だ若い独裁国家の中国は、アジアで戦争を起こす危険のある国です。特に近代において列強に侵略された屈辱をはらし、過去の覇権国家の栄誉を取り戻すべく中華の夢を追い求めているので特に危険です。現に、南シナ海で領海を侵略していますし、周辺諸国との武力衝突の危険は高まっています。

習近平主席がオバマ大統領に対して太平洋を米中両国で二分割しようと提案したことは、戦前の植民地時代の重商主義の発想と同じでした。今のトランプ大統領のアメリカ第一主義も同じ危うさがあり、自由貿易協定を主張していますが貿易戦争の危険をはらんでいます。

トランプ大統領は、中国の対米輸出が国内の雇用を奪ったとして、中国を為替操作国に指定し、不公正貿易だから高率の国境税をを課税すると発言しています。そのトランプ大統領はアメリカ優先主義を実現するため、新たに国家通商会議(NTC)を創設し、対中強硬派のはピーター・ナヴァロ教授を任命しました。

更に、この国家通商会議(NTC)を国家安全保障会議(NSC)と連携させて、経済と安全保障の双方からアメリカ第一主義の国家戦略を樹立するとしています。ピーター・ナバロ国家通商会議(NTC)議長は、嘗て政治は経済の継続に過ぎないと語っていました。戦争は政治の継続に過ぎないとプロシャの戦略家クラウゼヴィッツは言いましたが、米中関係の緊張は、経済から政治へ、政治から軍事へ波及する危険を胎んでいます。

オバマ大統領の時には、国家安全保障問題担当大統領補佐官に国連大使を務めたスーザン・ライスを登用して、中国に対しては摩擦回避の宥和政策に終始しました。しかし、この度、トランプ大統領は、国家安全保障担当の大統領補佐官に国防情報局長だったマイケル・フリン陸軍中将をを任命しました。情報将校として優れた軍人ですが政治と外交には素人であり、今後のホワイトハウスの対中政策は強硬になるでしょう。

嘗て、鄧小平は外交方針に「冷静観察」「沈着対応」「韜光養晦」「決不当頭」と言う16文字原則を示しました。「冷静に観察せよ、沈着に対処せよ、能力を隠して好機を待て、決して先頭に立つな」という意味です。

経済、政治、軍事を総合した中国封じ込め政策を採る米国に、中国はどう対処するでしょうか。中国の夢を語る習近平主席は、鄧小平のような慎重さを持ち合わせないようです。米中対立はアジアの冷戦を熱くする危険を増してきました。
(以上)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一つの中国は政治的フィクションと見るトランプ次期大統領

2017年01月15日 | 政治
米国大統領選挙で大方の予想を覆して勝利したトランプ次期大統領は、蔡英文台湾総統からの祝電に応えて、昨年12月に蔡英文総統を国家のトップの呼称である president と呼んで謝意を表しました。

一つの中国を主張する中国は、台湾を国家と認めておらず、米国も台湾を国家として認めないことにしてきたので、トランプ次期大統領の president 発言に中国が懸念を表明すると、トランプ次期大統領はテレビのインタービュで「中国と取引して合意しない限り、どうして一つの中国政策に縛られなければならないのか分からない」と答えました。

更に、今年1月ウオール・ストリート・ジャーナルのインタビューで中国との交渉において「一つの中国」を含むすべてが対象だと答えて台湾問題を取引材料に使うつもりだと言いました。中国が核心的利益というものでも、今までのように絶対視せず、柔軟に交渉を進める態度を闡明にしました。

トランプ次期大統領が長年米中間で守られてきた一つの中国政策を取引して合意したものでないと明言したことは、中国が最重要課題としてきた台湾問題で、米中は政治的対決を迫られることになります。

トランプ次期大統領が疑問視した「一つの中国政策」とは、米中が国交回復するに先立って、1972年にニクソン大統領が訪中した際に、キッシンジャーと周恩来の間でまとめられた上海コミュニケの中で米国から中国に対して述べた次の事柄です。

1.中華人民共和国を唯一正当の政府として認め台湾の地位は未定であることは今後表明しない。
2.台湾独立を支持しない。
3.日本が台湾へ進出することがないようにする。
4.台湾問題を平和的に解決して台湾の大陸への武力奪還を支持しない。
5.中華人民共和国との関係正常化を求める。
(上海コミュニケの部分は Wikipediaより)

他方、この米中協議では、台湾に駐留する米軍は最終的には全面撤退することを目標としましたが、米台防衛条約は維持することになりました。(そして米中国交正常化の際には米国議会が台湾関係法を成立させて台湾防衛を続けています。)

要するに、米中の国交正常化では、矛盾した米中双方の主張を認めたまま、大陸・台湾関係の現状を変更しないという合意が成立したのであって、少なくとも米国は台湾を中国に吸収合併することを認めるつもりはないのです。

米中両国が一つの中国を合意してから半世紀弱の時代が経ってみると、その間に台湾は大陸中国とは別個の組織体として成長発展を遂げています。政治体制は独裁体制の大陸中国とは全く違う民主主義であり、経済も自由市場主義です。名称はどうあれ、今や台湾は中国大陸とは別個の存在として国際的に認知されるのは当然となりました。国際政治の経緯に囚われない実業家のトランプ次期大統領には、一つの中国は実体ではなく政治的フィクションにしか見えないのです。

政治的フィクションが見える人々は、それが見えないトランプ次期大統領を政治的音痴と批判しますが、今回の大統領選挙戦でポリティカル・コレクトネスという建前を否定して本音で戦ったトランプ次期大統領に見えるのは、「一つの中国大陸と一つの台湾島」なのであり、これを一つの中国と言う人達は、変化した現実を見ていないのだと言うのです。

政治の世界では、フィクションが現実により置き換えられることは今まで屡々起きてきました。トランプ次期大統領の発言は、その切っ掛けになるかも知れません。とすると政治的音痴はフィクションを信じた人達かも知れません。
(以上)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真珠湾における日米の和解の意義

2017年01月02日 | 政治

  昨年(2016年)12月27日、安倍首相は日米開戦の地ハワイを訪れ、真珠湾攻撃で沈没した戦艦アリゾナ号でオバマ大統領と会談し戦後75年経たいま改めて日米和解の会談を行いました。

 第二次世界大戦の欧州戦線では、英国空軍によるドイツの都市ドレスデンの大空襲が行われて多くのドイツ市民が殺害されましたが、70年後に英独両国の間で謝罪のない和解が成立し「死者を死者で相殺するのではなく、敵味方による共同追悼という形」で記念すべき和解が行われました。
 今回の日米両国首脳によるハワイでの和解の儀式は、ドレスデンの和解に喩えられます。この和解の儀式はアジアでも戦争による傷跡の修復に謝罪なき和解が成立した意義は大きいのです。

 安倍首相は昨年(2015年)4月に米国上下両院合同会議で日米戦争について「痛切な反省」を述べて太平洋戦争を総括していますが、今回は開戦の現場に足を運んで、戦死者の慰霊を行い不戦の誓いをして和解の力を強調しました。これに対してオバマ大統領は日米は友情と平和を選択したと応えました。
 安倍首相の演説の中で特に注目すべき点は、アメリカの寛容の心がもたらした「和解の力(the power of reconciliation)」を英語で述べたところです。この言葉は、キリスト教世界では罪を犯した人間がキリストを通して神に対して赦しを請う意味があるのだそうです。政治の場での発言ですから、そのような宗教的意味はなくても言葉の持つ印象はよいものがあったでしょう。

 安倍首相の真珠湾訪問を欧米のメディアは「謝罪なき和解」としてかなりの時間を割いて大々的に報道しましたが、アジアの國の中にはこのような日米の和解を喜ばない国があります。日米は良くも悪くも激しく戦ったから和解に至ったとも言えるのですが、日本と真っ正面から戦わなかった国とは、このような意味での和解は難しいからです。
 考えて見れば、日本は民主共和国政権の中華民国(現在の台湾政府)と中国大陸で戦火を交えましたが、共産党政権の現在の中華人民共和国とは第二次大戦中、少しも戦っておりません。毛沢東国家主席はそのことを明確に語っていました。嘗て毛沢東国家主席は訪問した日本社会党の佐々木更三委員長の謝罪に対して「何も申し訳なく思うことはありませんよ、日本軍国主義は中国共産党に大きな利益をもたらしました。中国国民に権利を奪取させてくれたではないですか。皇軍の力なしには我々が権利を奪うことは不可能だったでしょう。」と応えたと伝えられています。

 今回の安倍総理が真珠湾を訪問して日米が和解の儀式を行ったことに、中国側は「主に中国に向けたパフォーマンスの要素が強い」とか「謝罪のない和解は意味はない」とか反応していますが、現在の日中関係からすれば、さもありなんということです。
(以上)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする