ヨーロッパでは難民流入が欧州諸国の安全を脅かす重大な問題になっていますが、アジアでは東シナ海と南シナ海への中国の軍事的侵入がアジア諸国の安全を脅かす危機となっています。来る伊勢志摩サミットでは、欧州の難民・テロ対策と共に、東・南シナ海への中国侵入対策も併せて重要課題として討議されることを望みます。
東・南シナ海の島嶼を領土だと言って、中国が具体的に軍事的行動、或いはそれの前哨戦的行動を取りだしたのは、そう昔ではありません。リーマンショック後に、欧米諸国が経済回復に苦吟している間に、中国だけが成長を続けて大国になったと錯覚し、それまで、とう小平が主導した「韜光養晦(とうこうようかい)」(能ある鷹は爪を隠す)の外交方針を変更したのが始まりです。
中国は東・南シナ海を歴史的にも自国の領土だったと主張しますが、長い歴史の中で、中国が海洋進出したのは13世紀に元のフビライが、15世紀に明の永楽帝(えいたくてい)が、17世紀に清の康煕帝(こうきてい)が海洋進出を企てているだけで、その三度とも一時的なものに終わっています。核心的利益の名の下に、何千年前から領土だったと主張する歴史的根拠はありません。
このように中国は歴史的には大陸国家であり、北方の騎馬民族の侵入を防ぐことに精一杯でしたから、南方の海へ進出する余裕はなく、関心も薄かったのです。ところが近年、ソ連崩壊で北方の脅威はなくなり、改革開放の成功で海外貿易への依存が高まったので、急に海洋進出の欲望を持ちはじめたのです。
しかし、近世以降、世界の海洋には国際的な開放システムが確立しており、東・南シナ海についても航行自由の原則が働いていて、特定国が覇権を主張できるものではありません。特に南シナ海は「西太平洋とインド洋の「喉」として機能していて、ここは世界の海上交通ルートが交差する、経済面でそれぞれをつなげる役割を果たす器官の集中した場所(「南シナ海 中国海洋覇権の野望」ロバート・D・カプラン著)なのです。
先に開催された核安全サミットで、習近平主席は国際的な義務を忠実に履行すると「責任ある大国」を強調しながら、その後の米中会談では「航行に自由」を口実に中国の立場を侵害する行為は許さない、中国の核心的利益を尊重すべきだと、南シナ海での暗礁領有権を主張しています。しかも軍事基地化しないと言明していた西沙(パラセル)諸島と南沙(スプラトリー)諸島の軍事化は止めようとしません。
同じく核安全サミットと同時に行われた日米韓3ヶ国の会談では、法の支配に基づく行動の重要性「航行の自由」を確認しました。日米韓3ヶ国の立場は、中国が主張する核心的利益とは真っ向から対立します。同じく南シナ海では ASEAN 諸国が暗礁の領有権を巡り中国と激しく衝突をしています。
このように見てくると、中国が海洋進出するのは経済的理由だけでなく、東・南シナ海を実効支配して、アジア海運の喉元を抑えて、アジアの覇者になろうとしていることが分かります。それが中国の政治的意図であり、アジアの「秩序の現状を変更」することが中国の要求ですから、伊勢志摩サミトでは先進国の決意として、この中国の野望を挫く声明を出す必要があります。
折しも、中国経済は、途上国から先進国へ脱皮する重要な時期にさしかかっていますが、現実は挫折の危機に直面しているのです。伊勢志摩サミトの声明が、中国の長期の野望は中国の為にならないと悟らせることになるよう期待します。
(以上)
東・南シナ海の島嶼を領土だと言って、中国が具体的に軍事的行動、或いはそれの前哨戦的行動を取りだしたのは、そう昔ではありません。リーマンショック後に、欧米諸国が経済回復に苦吟している間に、中国だけが成長を続けて大国になったと錯覚し、それまで、とう小平が主導した「韜光養晦(とうこうようかい)」(能ある鷹は爪を隠す)の外交方針を変更したのが始まりです。
中国は東・南シナ海を歴史的にも自国の領土だったと主張しますが、長い歴史の中で、中国が海洋進出したのは13世紀に元のフビライが、15世紀に明の永楽帝(えいたくてい)が、17世紀に清の康煕帝(こうきてい)が海洋進出を企てているだけで、その三度とも一時的なものに終わっています。核心的利益の名の下に、何千年前から領土だったと主張する歴史的根拠はありません。
このように中国は歴史的には大陸国家であり、北方の騎馬民族の侵入を防ぐことに精一杯でしたから、南方の海へ進出する余裕はなく、関心も薄かったのです。ところが近年、ソ連崩壊で北方の脅威はなくなり、改革開放の成功で海外貿易への依存が高まったので、急に海洋進出の欲望を持ちはじめたのです。
しかし、近世以降、世界の海洋には国際的な開放システムが確立しており、東・南シナ海についても航行自由の原則が働いていて、特定国が覇権を主張できるものではありません。特に南シナ海は「西太平洋とインド洋の「喉」として機能していて、ここは世界の海上交通ルートが交差する、経済面でそれぞれをつなげる役割を果たす器官の集中した場所(「南シナ海 中国海洋覇権の野望」ロバート・D・カプラン著)なのです。
先に開催された核安全サミットで、習近平主席は国際的な義務を忠実に履行すると「責任ある大国」を強調しながら、その後の米中会談では「航行に自由」を口実に中国の立場を侵害する行為は許さない、中国の核心的利益を尊重すべきだと、南シナ海での暗礁領有権を主張しています。しかも軍事基地化しないと言明していた西沙(パラセル)諸島と南沙(スプラトリー)諸島の軍事化は止めようとしません。
同じく核安全サミットと同時に行われた日米韓3ヶ国の会談では、法の支配に基づく行動の重要性「航行の自由」を確認しました。日米韓3ヶ国の立場は、中国が主張する核心的利益とは真っ向から対立します。同じく南シナ海では ASEAN 諸国が暗礁の領有権を巡り中国と激しく衝突をしています。
このように見てくると、中国が海洋進出するのは経済的理由だけでなく、東・南シナ海を実効支配して、アジア海運の喉元を抑えて、アジアの覇者になろうとしていることが分かります。それが中国の政治的意図であり、アジアの「秩序の現状を変更」することが中国の要求ですから、伊勢志摩サミトでは先進国の決意として、この中国の野望を挫く声明を出す必要があります。
折しも、中国経済は、途上国から先進国へ脱皮する重要な時期にさしかかっていますが、現実は挫折の危機に直面しているのです。伊勢志摩サミトの声明が、中国の長期の野望は中国の為にならないと悟らせることになるよう期待します。
(以上)