世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

トウ小平路線の行方は如何に

2013年08月25日 | 政治
劉少奇が現実路線を採ろうとして毛沢東の文化大革命で撃破され、その後も現実派は走資派との批判を受けて紆余曲折を経ましたが、トウ小平が実権を握ってようやく改革開放の政策が実施されて、中国共産党は国家資本主義への道を走り出しました。

トウ小平の指名を受けて国家主席になった江沢民は、その資本主義的手法を活用して国富を私物化する道を広げました。その後、同じくトウ小平の指名で国家主席になった胡錦濤は、資本主義的手法で生じた社会的歪みを是正するため、政権の後半で和諧を唱えたましたが、江沢民の上海閥の抵抗に遭って成果を挙げないまま政権を降りました。

胡錦濤の後を受けて国家主席になった習近平は、汚職退治を旗印に中華民族の夢を語って政権基盤の強化に乗り出しましたが、江沢民の強い後押しで国家主席になった習近平が、資本主義的手法で獲得した共産党幹部の権益を広く国民に再分配する政策は採りにくいでしょう。

政権幹部の間では「腐敗を止めなければ国家は崩壊するが、腐敗しなければ幹部は生きていけない」と自嘲的に語られているそうですから、分かっているけれど止められないということです。

トウ小平は経済格差が生じるのは覚悟の上で改革開放を始めたのですが、今生じている格差は余りに大きく、中国共産党が正統性を維持するのは極めて難しくなっています。しかし、正統性が失われただけで独裁政権は倒れません。そのような事例は数多くあります。1990年代の東欧諸国の革命も2010年以降のアラブの春も、独裁政治との長い戦いの後に起きたのです。

民衆が時の政権に反対して蜂起しても、軍が民衆の蜂起を支持しなければ、独裁政権は倒れません。独裁政権が倒されたとしても、その後の政権を維持する政治勢力が結集しなければ、混乱が残るだけです。

ある外誌は、最近のエジプトの混乱を見て、歴史家タキトゥスは次のように書き残したと伝えていました。「悪い皇帝を倒した後の最善の日は、彼を倒したその日だった」と。

独裁政権を樹てるのも潰すのも武力が物を言います。毛沢東は政権は銃口から生まれると言いましたが、毛沢東の後裔である共産党政権の指導者たちは、軍部の動向に気を遣います。共産党創設に参加し軍歴もあるトウ小平の時代までは、党は軍に影響力を持っていましたが、江沢民以降の国家指導者は、軍人の処遇と軍事費の増加で軍部と妥協してきたのです。

しかし、最近は中国軍も国家企業を所有し、資本主義的権益に参加しています。共産党も軍部も国家資本主義の恩恵に浴しているので、両者の間に大きな利害の不一致が生じない限り、国家による資本主義体制の運営は続き、民衆の不満は抑圧されれ続けるでしょう。

中国経済の破綻が引き金となって中国政権は崩壊すると期待する論調もありますが、経済的危機だけでは政治的危機に至らないのが独裁政権国家なのです。況して資本主義経済を国家独占でマネージする技術を身につけた共産党政権は、自由なグローバル経済の変動に翻弄される民主主義国家より強靱かも知れません。
(以上)
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消費税を上げないと国債が暴落するという脅しに屈してはいけない

2013年08月18日 | 政治
安倍首相はこの秋に景気の動向を見て消費税の引き上げの決断すると言います。最近4~6月の成長率が2.6%と発表されると、俄に消費税の議論が賑やかになってきました。

この成長率の数値を見て、財務省は当然のこととして金融界は一致して三党合意通り来年4月に3%の引き上げを行うよう主張しています。異次元の金融緩和政策でアベノミクスの好発進に貢献した黒田日銀総裁は、権限外の国の税制にまで口を出して、消費税の引き上げ実施を促しました。

しかし、デフレ脱却を至上命令とするアベノミクス派は、過去の失敗の経験から慎重にならざるを得ないようです。雇用状況は非正規雇用が増えただけであり、新規投資の動きも鈍い、予定通り来年4月に実施すると駆け込み需要の反動で成長率はマイナスになる可能性もあるというのです。そうなれなば、折角の異次元の金融緩和政策も振り出しに戻ります。

ここで消費税引上げ慎重論に対する強力な反対論が出てきました。それは消費税を上げないと国債が暴落する、国債が暴落すれば国債の金利が上がり、元利を合わせた国の債務は膨張する悪循環に陥り、日本経済は破産すると言うのです。

しかし国債暴落を防止するため消費税引上げるという議論は、二つの点で間違いを犯しています。

一つは、消費税引き上げの目的と手段を取り違えていることです。消費税引上げの本来の目的は、直間比率の歪みを正して社会保障の安定財源を得ることにあります。消費税引き上げが、結果として国債の価値を維持することに貢献するかも知れませんが、それが目的ではないのです。

もう一つは、或る国の国債(債務)が過大か否かを判断するとき、国民総生産(GDP)に対する国の債務残高比率で国際比較していますが、これは曖昧な基準で適切ではありません。企業の債務の返済能力は、企業の収益力と所有資産価額で評価されますが、国も同じでして国の徴税力と国有の資産価額で評価されるのです。

国債価格の変動について、日本国債は殆ど日本人が所有しているから大丈夫だとか、いや外国人の空売りを浴びせられると大丈夫でない等の議論が国債市場関係者の間で出ていますが、これは市場取引の技術論に過ぎず、国債の価格水準は最終的に国の徴税力と国有資産価額で決まるのです。

国の債務が1000兆円を超してGDPの2倍に達して日本は世界一債務の多い国と言われ、国民一人当たりの借金は792万円だと報道されると、とんでもないことが起きているかと不安になりますが、他方で国が所有する資産価額も世界一であり、それで国の負債を相殺すると、国民一人当たりの借金は300万円位だと聞いて安心しました。

昨年、社会保障と税の一体改革に関する三党合意で消費税引き上げが決まったとき、国民が示した税金に対する理解を見れば、そして日本の租税負担のレベルは先進国の中で最低である事実を見れば、国の徴税力についても基本的な不安はないのです。

ですから、国際公約だから消費税を引き上げなければいけないとか、引き上げないと国債が暴落する等という、本質から離れた議論に惑わされることなく、消費税を何時、如何程引き上げたらデフレ脱却のアベノミクスが阻害されないかを見極めて決断すべきです。
(以上)
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国の内外で正統性を問われる中国

2013年08月09日 | 政治
黒い猫でも白い猫でも鼠を捕るのが良い猫だというトウ小平の言葉は、毛沢東が力を入れた「人民公社」の理念とは相容れないものでした。この発言で毛沢東時代に失脚したと言われるトウ小平は、改革開放策を採用したとき、再びこの白猫黒猫論を積極的に展開し、毛沢東の教条主義を批判したのです。

換言すれば、トウ小平は、毛沢東以来の共産党独裁権力による人民支配の正統性を否定して、経済市場での成功に賭けたのです。経済市場での成功とは、改革開放によって国力が発展し、人民が豊かになることです。

確かに改革開放以後、富国強兵の政策は成功し、19世紀、20世紀にヨーロッパと日本から受けた従属的地位から21世紀の大国への道が中国に開けたかに見えます。江沢民や習近平が5000年の歴史のプライドを語り、中華の夢を膨らますのはその自信の表れです。

しかし、その自信を語るのは未だ早いのです。統計上の数値で GDP が世界第二位になっても、多くの人民が貧富の格差に悩み、共産党員の汚職に怒り、環境破壊に苦しんでいる現実が存在する以上、改革開放で共産党政権が正統性を得たとは言えないのです。民主主義国家であれば総選挙で国民の信認を問うて、自らの正統性を確認できますが、共産党の政治体制では出来ません。

そこで、共産党にとって正統性を獲得するための残された砦は、独裁政権が屡々用いる愛国主義であり、更には人種主義のカードなのです。最近、習近平が中華の夢を頻繁に語るのは、政府の正統性を人種的な愛国主義に求めているのです。しかし、これは習近平が初めて言い出したことではありません。2002年の第16回党大会で、江沢民は「中華民族の偉大なる復興」を9回も繰り返したと言われます。江沢民の後押しで誕生した習近平政権が中華の夢を語るのは当然でした。

しかし、中華の夢を語ることで国内からの反対を抑えることが出来ても、そのことで外国との関係を悪化させれば中国は国際的正統性を失うのです。具体的には東シナ海、南シナ海での近隣国との紛争の激化です。中華思想による覇道主義はチベット、ウイグルなどの大陸で成功したかに見えますが、アジアの海洋では国際的な開放システムが確立しており、中国の覇道主義の海洋進出は失敗するでしょう。

もともと世界の如何なる国も富国強兵だけで覇権を確立したことはありません。国家の力の源泉は、経済力と軍事力の他に価値観が重要です。価値観とは国是とも言えるものであり、米国を初めする多くの国々では人権と民主主義が国是です。そのいずれをも否定する中国の価値観の中華思想が国際社会で受け入られる可能性はありません。

世界最大の国富と軍事力を持つ米国でさえ、イラク、アフガン問題で国際的威信を失い、国威を発揮できないでいます。まして中国の共産主義体制が、自由主義諸国の体制より正統性があるとは到底言えないのです。
(以上)
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中国の海洋進出は止まらない

2013年08月01日 | 政治
2010年に尖閣諸島で中国漁船が海上保安庁の船に体当たりした事件から、多くの日本人は中国が近海の島嶼をめぐる権益を実力で獲得しようとしていることを知りました。

その後も中国の公船が領海侵犯を繰り返しており、既存の国際秩序を軍事力で変更することも辞さない構えです。そして最近、中国の五つの政府機関が所有する公船を、新設の海警局の管轄下に一本化して、主権と権益を守る活動を強化すると発表しました。

中国の海洋進出が盛んなのは近海海域に止まりません。中国艦艇が沖縄本島と宮古島間の海域を通過したり、津軽海峡を通過したりして、続々と太平洋の大海にも艦艇を進出させています。

中国の海洋進出の動きは、1982年トウ小平の命令で人民解放軍の近代化計画が策定されたとき、その中で第一列島線、第二列島線という軍事防衛ラインを決めたのが始まりと言われます。しかし、それより前、中国はベトナムのパラセル諸島(西沙諸島)とフィリッピンのスプラトリー諸島(南沙諸島)の一部を実行支配しました。

その上で、尖閣諸島、西沙諸島、南沙諸島を中国の領土であると規定した領海法を施行したのです。中国は尖閣問題で棚上げした、日本は話し合いに応じないといいながら、一方的に国内法で国際秩序を自己の利益に変えようとする、近代以前の法意識の国です。

古来、中国は海禁の国であり、海を越えての進出は行いませんでした。例外は明の永楽帝が鄭和を南洋に派遣し朝貢を求めた時位です。しかし今や海軍力を強化して近海の他国の領土を軍事的に支配する行動を取り始めたのです。

それは何故でしょうか?

中国が海禁政策を長く続けたのは、絶えず北方民族からの攻撃を受けて、防戦に精一杯だったので海洋進出の余裕がなかったからです。それに中国は自給自足経済なので貿易の必要がなかったことも海外進出をしなかった理由です。しかし、今は北方の脅威はロシアのみとなり、そのロシアとも領土問題にケリを着けました。他方、改革開放政策の結果、中国経済は海外依存度を強め、自給自足は不可能になったからです。

今や中国の海洋進出は起こるべくして起こっているおり、その勢いは止まることはないでしょう。それが経済面で平和的に行われるなら勿論問題はないのですが、中国の海洋進出の考え方は中華思想による覇権主義の傾向が強く、その手法も力の空白が生まれれば直ちに実行する、近代以前の国際社会のやり方です。

その具体的な好例は、1974年ベトナムから西沙諸島を奪ったのは米軍がベトナムから撤退した翌年でしたし、1992年フィリッピンから南沙諸島の一部を奪ったのは米軍が撤収した翌年でした。思い起こせば、尖閣の漁船衝突事件も、2009年に鳩山元首相が米軍基地の県外移転と発言した翌年の2010年に起きました。

習近平は中華民族の復興を唱え、海洋強国を造るのだと言います。北方からロシアの脅威が消えた今、台湾を獲得するのが、中国にとって眼前の最大の核心的利益となります。そのためには東シナ海と南シナ海を中国の内海にしなければなりません。そのとき台湾を支援する米国は中国の仮想敵国となります。

最近行われた米中首脳会談で、習近平がオバマに太平洋は米中二国を受け入れるのに十分広いと述べた意味は、そこにあるのです。そのため、いま中国海軍は沿岸警備艦船から本格的海軍艦隊へ編成し直す作業を急ピッチで続けています。
(以上)
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