世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

国家の秘密記録の公開 核武装

2009年05月08日 | Weblog
皇居近くの竹橋の袂に国立公文書館があります。ここには日本国政府の官庁が業務上作成し、保存していた公文書が一括保存され、一般に公開されています。過去を正確に知るには元の資料に当たることが欠かせませんから、明治以来の公文書が保存されている国立公文書館は重要な場所です。(写真)

しかし、ここには外交、防衛に関する公文書は置いてありません。それらは外務省外交史料館、防衛省防衛研究所図書館にあります。外交、防衛に関する公文書は、本来、秘密にされますが、一定期間経たものは公開されます。日本だけでなく、米国、ロシアなどの大国も過去の外交文書を公開しています。

最近、日本政府が過去の外交文書を公表しましたが、その中で注目を浴びたのが、核武装をめぐる佐藤首相の対米交渉の事実です。1964年中国は核実験に成功しました。その脅威を感じた日本が核武装へ走ることを恐れた米国に対して、佐藤首相は中国が日本を攻撃したときには米国の核兵器で中国に報復することを、ジョンソン大統領に求めました。

佐藤首相は、1972年の沖縄返還交渉で「核抜き・本土並み返還」を国民に約束する一方で、「核持ち込み」は核武装の代替であり、積極的に容認していたと云われます。「非核三原則」を主張する人達は、これをとんでもない裏切りと云う人もいますが、非核の専守防衛では、核武装した中国から日本を守れないとの政治的判断は正しいし、核の対中報復を米国に約束させたのは流石に責任ある政治家だとも云えるのです。

一方、米国から見れば、核の傘の議論は日本の核武装を封じ込める狙いがあり、ニクソンの頭越し米中会談では、中国に対して日本の脅威を抑えるために日米安保条約は貢献するのだと説明したと言います。

米中間のこの話合いまでは日本の公開外交文書にはありませんが、誠に外交交渉というのは国家間の利害が複雑に絡む問題であり、一部の問題だけを取り上げて論ずることがいかに愚かしいかが分かります。日本の港に寄港する米艦艇が核抜きか否かを国会で取り上げて侃々諤々議論していたことがピント外れだったと知りました。
(以上)
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経済のグローバル化を支えるコンテナの発明 

2009年05月01日 | Weblog

規格の統一が工業生産の効率化に果たした役割は、いくら高く評価しても、し過ぎることはありません。同じことは、コンテナの発明が物流コストの削減に大いに貢献したことにも云えます。

コンテナとは、鋼鉄やアルミニウムなどで作られた規格化された箱です。その中に輸送物を積み込み船舶、鉄道、トレーラー、トラックなどでその箱を輸送するのです。

今日、主役となっている船舶用コンテナを最初に思いついたのは、アメリカの陸運業者マルコム・マクリーンだと云われています。

彼は、陸運業者としてトラックから船へ、船からトラックへ積み替える、大変手間の掛かる荷役作業を簡略化しようとしました。そして、いっそのこと荷物を積んだままトラックを船で運んだら良いと考えました。

そこから一歩踏み出して、トラックの運転台と荷台を切り離し、荷台の箱の大きさを統一すれば、現在のコンテナとなります。コンテナ積載専用の船を造り、港にコンテナ用起重機を据え、更にはコンテナ積載用貨車で大陸横断鉄道を走らせれば、コンテナ・システムの現代版が生まれます。

人々が指摘していないコンテナ・システムの利点の一つは、コンテナが通信におけるパケットの働きをしていることです。画一的で何の特徴もない鉄製の大きな箱は、丁度、通信におけるパケットのようなものです。どんな大きなものでもこの箱に入るように分割整理すれば、巨大なものが効率的に運べるからです。

そしてコンテナが活躍する海運では、速さ又は時間の概念が通信とは正反対です。海運では通信に比べて使える時間がたっぷりあります。船の速度が遅いことは少しも障害になりません。スケジューリングで事前に手当てすれば、通信のパケットよりもコンテナの方が使いやすいのです。

また、コンテナは盗難予防という副次的なメリットをもたらしました。同時にブラックボックス化されることによって、密輸防止にはマイナスをもたらしました。しかし、やはりコンテナ・システムの効用は偉大です。

港で無機質なコンテナ・ヤードを見ると、今日のグローバルな産業発展と大衆消費経済は、このコンテナ・システムによって支えられているのだと、つくづく思います。コンテナ・システムの確立は、インターネトの通信革命に匹敵する革命的なことでした。
(以上)
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