TPP は批准前の成立していない国際協定ですから、政権が変わったから考えが変わったと言われれば致し方が無いことですが、交渉成立に主導権を握って強力に参加国を説得していたアメリカが、突然国内事情により変心したと言われては全て参加国は困惑しています。
日本政府は、アメリカの変心が分かっても、議会で批准手続きを進めていますが、野党は勿論、多くのメディアも、日本政府の行動は無意味なものと批判しています。しかし、日本にとってTPPの重要性を認識するなら、大統領選挙直後の、未だ正式に大統領に就任していないトランプ氏の発言だけで、直ちにTPP成立への努力を辞めるのは軽率でしょう。
アメリカが今後は自由貿易交渉は一切しないと言うならTPPの実現に努力するのは無駄ですが、二国間交渉はしたいと言っているのです。その場合に、両国間で合意したことを国会で批准するのは不利になるというのは理屈になりません。今後の二国間交渉に備えて守りを固める意味もあります。
一方、アメリカは一旦事務的には約束したことを反故にするのですから、今後の外交交渉でアメリカの立場を悪くするだけで、アメリカ主導に追随してきて、批准までした国々は交渉の地盤を固めた事になります。
その前に、もう一度何故 TPP 交渉が妥結直前まで進んだかを振り返り、その必要性について吟味する必要があります。それをせずに、アメリカの変心を奇禍として、TPP 反対派が起こす反対運動とそれを代弁するメディアの声に惑わされてはなりません。
2001年中国は WTO(世界貿易機関)に加盟しましたが、15年間は「非先進国経済」という資格でした。これは、社会主義経済国の中国が資本主義経済国として行動するよう転換できたかを確認する必要があったからです。
その間の中国の国際経済行動は 残念ながら WTO のルールから外れるものが多く見られてWTO加盟国から不安視されてきました。中国政府は特許権、著作権など知的財産権の保護にはルーズであり、政治的に圧力をかけるため自由貿易を阻害する行為を頻発する(レアアースの輸出制限、バナナ輸入制限、生鮮食料品の輸入手続きの意図的遅滞など)通常の WTO 加盟国では考えられない異常な行動を行いました。
最近、中国が WTO 加盟して15年経つので一人前の「市場経済国」として認めるよう主張しましたが、アメリカと欧州は中国の鉄鋼製品の大量のダンピング輸出に悩まされているので、中国を「市場経済国」とは認めない方針です。
TPP には提唱国アメリカの政治的意図が込められていたことを思い出して下さい。それはオバマ大統領の「国際貿易のルールを中国に決めさせる訳にはいかぬ」という言葉で表現されています。
ウォール・ストリート・ジャーナル(11月10日)によれば、トランプ次期大統領は「中国が不公正な貿易慣行を変えなければ、就任初日に同国からの輸入品に45%の関税を設定し、同国を為替操作国に認定すると」言明してきたと伝えています。これはオバマ大統領が提唱した思想と同じ事を言っているのです。
中国はWTOに加盟して自由貿易の恩恵を受けて大発展しましたが、加盟国共通のルールを無視して、経済を政治的圧力として使います。TPPは、このような中国の自己流の勝手な行動を予め防止する仕組みとして考案され、その恩恵に浴すると考えた国々が交渉に参加しているのです。
その重要性を理解すれば、TPP 交渉参加国の間でアメリカの翻意をうながす協議をして、再度のアメリカの変心を求めることが大事です。その推進力になるのは日本です。
逆説的に聞こえるかも知れませんが、そのためには今こそ先ず日本がTPPを批准して、条件が満たせば何時でも立ち上がれる状態になっていなければなりません。
(以上)