世相の潮目  潮 観人

世相はうつろい易く、その底流は見極めにくい。世相の潮目を見つけて、その底流を発見したい。

差別は法律では無くせない

2010年11月22日 | 現代
       
       写真1 池袋サンシャイン裏通り


写真2 原宿表参道のよさこい祭り

数年前、アメリカから地中海をめぐる観光客船に乗った時の経験です。船内では、食事をするときも、お茶を飲むときも、サロンで音楽を聴くときも、白人と黒人は、はっきりと分かれて行動していました。気のせいか、船内のエレベーターでも、一緒に乗るのをお互いに避けていたようです。

黒人大統領が選出され、司法長官にも黒人が任命され、アメリカの人種差別は大いに改善されたと思われがちですが、観光客船で見た差別感情は、なかなか拭いきれないようです。

その証拠に、黒人として初代司法長官になったエリック・ホルダー氏は、着任後、次のように語っていました。
「職場では率直な議論が交わされるようになって随分改善されたが、職場以外では50年前と殆ど変わっていない、職場以外でも、もっと人種問題を議論すべきだ。」

戦前、アメリカ社会で日本人移民がしつこい差別待遇を受け、それが第二次大戦の遠因となったも云われています。確かに差別問題は社会に深刻な事態を招くだけでなく、国際的にも悪い影響を与えます。

黒人司法長官の発言内容は誠に真っ当なことですが、職場以外の私的な場で起きている差別感情を、法律で律するのは極めて難しいことです。この種の問題は、思想家や宗教家が文化の融和という形ですすめて初めて実現するものです。

そのプロセスは、相手の文化に対して関心を持ち、理解し評価し、更には尊敬できるようになることです。実現するのに誠に時間のかかることです。その努力なしに政治的に社会に圧力をかけてみても、建前だけの差別解消に終わるでしょう。

写真1は池袋サンシャインの裏通りの黒人たち、写真2は原宿表参道のよさこい祭りに参加している外国人たちです。
(以上)
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集権化が悪くて分権化が良いと言うのは本当か?

2010年11月10日 | 現代
今は政治家もジャーナリズムも中央集権化が諸悪の根源のように批判しています。集権化が悪くて分権化が良いというのは本当なのでしょうか?

歴史を振り返ってみましょう。日本が真の中央集権化を実現したのは、歴史上、明治維新が初めだと言ったら皆驚くでしょう。しかし、実はそれ以前の日本では、中央の強大な権力が日本全国を実質的に支配し統治したことはありませんでした。

過去に中央集権の政権はありましたが、内実は建前と本音の使い分けのような二重構造の分権であり、ヨーロッパや中国のような絶対的権力集中は存在しなかったのが、日本の政治史です。

日本の初めての中央集権であった明治政権は、西欧の植民地支配に対抗するためやむなく実現したものであり、さもなくば植民地化されるという意味では、外圧による中央集権化でした。

中央集権化したお陰で、国際社会で存在感のある独立国になれたわけですから、日本人は中央集権化そのものが悪いと考えたことはありませんでした。

最近問題視されているのは、中央集権の副次的弊害であり、その是正は必要ですが、国際的には更なる中央集権の強化が望まれる分野もあるのです。

考えてみますと、明治維新の前に中央集権化の現象が現れたのは、大化の改新の時と北条政権の時でした。いずれも中国大陸からの脅威に備えるものでした。

前者は、中国大陸で隋を倒した唐が朝鮮半島を支配して日本に迫る勢いの時代です。大化の改新はその脅威を感じて起きた日本国内の政変でした。

後者は、北宋を倒した元が朝鮮半島を南下し、日本に攻めてきた元寇の役でした。西アジア(ユーラシア大陸)から南アジアを征服した元が日本を征服しようとして攻めてきたのです。文字通りの軍事的外圧でした。

こうして見ると、日本が集権化を強めたときは、外部からの圧力に抗するため受動的に中央集権化を進めたことがわかります。

いずれも外圧に備えたやむを得ず中央政権化したのですが、その時でも、当時の政権が絶対的中央政権のまま続きませんでした。日本の社会は、歴史的に見て権力の一極集中化に馴染まない体質だと思います。

今はグローバル時代だと言われますが、グローバルだから国境は消えるというのは嘘です。国家間の経済的競争は益々激しくなるのです。そのとき、国の力が試されます。国の力は集権化した力です。

内を向いた分権化ばかりを求めていると、外を向いた集権化がおろそかになります。況して、中央集権の弱体化が善であるかのような、政治家の発言やジャーナリズムの報道を聞いていると、不安になるこの頃です。
(以上)


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