松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

柄にもなくオロオロ

2008-09-20 19:54:18 | Weblog
 実は、今回の農水省のやり口に、私は個人的に大きな衝撃を受けた。柄にもなくオロオロと混乱した。

 「食の安全」とは関係がないのに、「食の安全の確保を最優先する観点から、関係企業等の名称を公表する」(大臣談話)という言い方は、許されない。
 批判を逃れ、「情報公開」という大義名分を守るために、被害者である零細業者の名前まで公表した。私は、「ああ、農水省は、業者を見捨てたのだ」と思った。
 罪のない人たちを、こんなに簡単に見捨てるような国に、私たちは生きている。そのことがショックだった。
 
 私はこれまで、市民向けの講演で、「中央省庁はBSE問題以降、大きく変わってきた。批判するだけでなく、その点もきちんと見てあげましょう。信頼しましょう」と言ってきた。
 マスメディアは、批判をする。批判をするのが自分たちの仕事だと思っている。日本という国には、行政、役人が血のにじむような努力をしていることを評価して褒めてあげるシステムがない。でも、だれかが認めてあげないと、役人だって「頑張ろう」という気にならないでは?

 そんなことを、新聞記者時代からずっと思ってきた。批判する時は批判するけれど、褒める時は中央省庁や自治体でも、自信を持って思いっきり褒めることができる。そんな力のあるライターになりたいと思って、やってきた。

 重箱の隅をつつくような批判記事を書いて「市民派」のつもりでいる新聞記者やライターなんて、ごまんといる。報道はそんなものだ、という思い込みも世間にはある。
 そんな安全圏での仕事はしない。そう決めて、努力してきたつもりだ。
 だから、「食品安全行政は、最近よく頑張っている。だから、国をまず信頼しましょうよ。信頼感を役人たちに伝えて、さらに頑張ってもらいましょうよ」とも言ってきたのだ。
 
 今回、「そんな私って、なんなのよっ」と正直に言って思いました。

 農水省をもう信頼できない。役所があれでは、メディアがどんなにリスクについて理解できなくてでたらめを報じても、文句は言えない。

 空しい。オロオロ。やっぱり私は「甘ちゃん」だったのかなあ、と思い、意気消沈した。


 で、表面は取り繕って「元気な松永さん」でいるわけだが、やっぱり親しい人たちには気付かれていたらしい。言葉をかけてもらったり、メールをいただいたりした。ありがとうございます。嬉しかった。

 今回は、徹底批判するべき時なのだろう。科学的根拠のある批判をしたい。そして、改善されたら、その時は認める。褒める。
 結局は、その繰り返しをするしかないのだと思う。


 

食品安全委員会は、資料を更新していた

2008-09-20 19:02:47 | Weblog
 「食品安全委員会も頑張っているようですよ!」 食品企業の方から教えてもらった。

 私は、食品安全委員会が5日に出したメタミドホスやアフラトキシンなどについての簡単なまとめ資料を見て、「これでは足りない」と思い、17日付で「食安委はなぜ委員長談話や見解を出さない?」と記述した。でも、いやはや、資料は更新していたようですね。

食品安全委員会

 例えば、メタミドホス。どうも12日に更新されており、
「基準値以上のメタミドホスが含まれている事故米穀が、食用として流出してしまいましたが、これを使用した食品を食べることにより健康に悪影響が出るのでしょうか?」という質問を設定し、ADIとARfDの両方について検討し、「心配いらない」と答えている。

 アセタミプリドについても、同様の質問と答えを追加し、アフラトキシンについては17日付で、鹿児島県の情報を追加しているようだ。

 さらに。
 18日には、11日に開かれた食品安全委員会第254回会合議事録抜粋をわざわざ公表。委員長の言葉を伝えている。


 「残留基準値を超えて検出された米穀が、食用に流通していたということは、量はともかくとして、食品安全の確保のための制度の根底を覆すという本当にゆゆしき事態であって、あってはならないことと考えます。
 一方で、国民が過剰に不安を感じないよう、科学者の立場から現状のリスクを冷静に分析するということも重要です。

 危害要因のうち、アセタミプリドとメタミドホスにつきましては、暫定基準値を上回っているものの、幸い比較的低い濃度でした。
 この2つの農薬について、食品安全委員会ではリスク評価を既に行い、毎日、一生涯食べ続けても健康に悪影響がない量である一日摂取許容量を決めておりますが、この値に比べても、事故米に含まれている農薬の量は十分に低いレベルなので、健康に悪影響が出る心配はありません」


 食品安全委員会は委員長談話を出すべく準備を進めていたが、圧力があり頓挫した、という情報も漏れ伝わってきた。ギリギリの努力が、「委員会議事録の抜粋」なのかもしれない。

 もう一息頑張って、やっぱり正式に委員長談話と委員会見解として、大々的に公表してほしかった。
 そうしないと、マスメディアの記者たちが報じない。一般の人たちに、大切な情報が伝わらない。