松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

メラミンをなぜ混入するのか?

2008-09-27 16:06:10 | Weblog
 中国製乳製品のメラミン混入事件についてかなり多くの方から、「何のために、メラミンを混入していたのか?」と尋ねられた。新聞でもぼちぼち説明されているのだが、分かりにくいようだ。メラミンをアミノ酸の一種と誤解している人もいるようなので、説明しておこう。

 食品のタンパク質含量を測定する時、通常はタンパク質を直接測るのではなく、Nの量を測定してタンパク質の量に換算している。タンパク質という生体高分子の量をそのまま測るのはなかなか難しいので、元素であるNを正確に測るのだ。

 タンパク質の構成要素であるアミノ酸各種は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、それにイオウ(S)という元素から構成されている。アミノ酸がつらなってできるタンパク質は、アミノ酸のつながる順番によって多種多様なものがあるけれど、Nの割合はあまりおおきなぶれがなく平均して16%。なので、Nをまず定量し、そこから換算してタンパク質の含有量とする。
 食品や植物などに含まれるNを定量するには一般に、ケルダール法という昔から行われている方法を使う。濃硫酸などを用い加熱して分解し、Nの含有量を化学的に測定する。
 
 そこで、なぜ牛乳にメラミンは入れるか、だ。メラミンは、アミノ酸の一種ではなく、分子式C3H6N6の有機化合物。Nが分子量の66%を占めている。N含有率が極めて高い化合物であるメラミンを牛乳に入れれば、ケルダール法で測った時にはN含有量が高くなる。そのため一見、タンパク質含有量も高く見えるという理屈になる。

 私は、中国語は読めないのだけれど、中国のサイトではメラミンが「蛋白精」と表現されているらしい。つまり、タンパク質のもと、ということ。すごいですね。

 メラミンの毒性については、食品安全委員会の資料が詳しい。
 
 話が少しそれるけれど、このケルダール分析、ものすごく懐かしい。私は大学時代、「植物栄養学」研究室にいた。栄養学の対象として植物を研究するところと時々勘違いされるが、そうではなく、植物にとっての栄養学、つまり肥料学、今風に言うと植物生理学を学ぶ研究室。
 肥料学にとって、ケルダール分析は基本のキ。なんといっても、植物にとってNはもっとも重要な必須元素だ。で、研究室の人たちはよく、ケルダール分析をしていた。

 ところが、私は不良学生だったし、Nの代謝系にかかわる研究はしておらず、植物の微量必須元素であるホウ素(B)の生理作用について、ちょこちょこ調べていただけ。そのため、ケルダール分析は、大学と大学院にいた6年間の間に1回しかしたことがない。なんだか時間がかかり面倒くさくてしかたがなかったことだけを覚えている。

 ケルダール分析は濃硫酸や高濃度の水酸化ナトリウム溶液を使うし加熱もする。時間もかかる。まったく面白くないけれど、注意してやらなければならない定量法だ。なので、学生にとってはちょっと辛い。
 学生の中には、火をたきながら途中でどこかに遊びに行ってしまって、後で先生に大目玉を食らった人もいた。この学生は今や、Natureなどの一流学術誌に何報も出している偉い研究者になってます。
 あの頃は、なんだかんだとよく先生に怒られたなあ。挨拶がちゃんとできていない、というところから怒られました。懐かしい思い出です。