なんで、一人ぽっちにしておられやう
峠を越えると 斯の病院
今日も
背中に汗しながら (セナ)
峠を越える
峠を越える坂道から仰ぐ
千里の途 2
セラピスト
一日を通して、ほとんどが ベッドで寝たきりの状態は変らない
麻痺した腕や足は動かない、
筋が硬直し痩せ細って頼りない手足を目の当りにして、
筋肉というものは、たった一ケ月で、こうも衰えるものなのか ・・そう想った。
さらに亦、
気管切開して装着されたカフ付カニューレから、痰の吸引はつづいている
経口から食物の摂取はできず、経鼻経管にて、食道まで直接栄養を送っている
依然、瞼は閉じたままである
「 目が見える様になれば 」
・・は、セラピストたちの共通の想いである。
リハビリ にあたって、
目から得る情報は重要不可欠なもので、
『 見えない 』 と、謂うことは、とてつもなく大きな障害なのである。
硝子体出血・テルソン ( Terson ) 症候群
クモ膜下出血の合併症のひとつ
クモ膜下出血による急激な頭蓋内圧亢進に伴って生ずる硝子体出血のことを謂う
( 厳密には、頭蓋内圧の上昇により毛細管が破綻し、硝子体腔に血腫が拡散した状態 )
テルソン症候群はクモ膜下出血患者の数パーセントに発症が認められ合併する頻度は少ない
傾向にあるものの
テルソン症候群を合併したクモ膜下出血患者の死亡率は、
合併していない患者の2.5倍と高く、予後判定の根拠となる
その他の後遺症、意識障害や運動麻痺も重度と為り易い
硝子体出血は自然吸収される為、発症から少なくとも6ヶ月は経過観察した方が良いとされてきたが、
視力障害が著しいと、而後のリハビリに悪影響を及ぼすのみならず、
五感の八割を占める視覚が機能しないと日常生活に多大な介助を要する為、
早期の治療が予後を左右する
・・と、謂われている。
体は動かない、声は出せない、眼は見えない・・・これで、どうすると謂うのか
そしてもうひとつ、
高次脳機能障害
脳の損傷が原因で、脳の内、言語、記憶、注意、情緒といった認知機能に起る障害を謂う。
・記憶障害
記憶には出来事を覚えておく『記銘力』、覚えたことを思い出す 『 想起力 』 がある。
前向性及び逆向性の健忘、全般的知的機能の低下が認められる。
前向健忘
所謂 受傷後の学習障害
受傷ないし原因疾患発症後では、新しい情報やエピソードを覚えることが出来なくなり、
健忘の開始以後に起った出来事の記憶は保持されない
・・全般的記憶検査 -- WMS-R ( クエクスラー記憶検査 )
・・言語性記憶検査 -- 三宅式記銘検査
・・視覚性記憶検査 -- ベントン視覚記銘検査
・・日常記憶検査 -- RBMT ( リバーミード行動記憶検査 )
逆向健忘
受傷あるいは発症以前の記憶の喪失、特にエピソードや体験に関する記憶が強く障害される
軽度
最近の記憶や複雑な記憶でも部分的に覚えている
意味的関連のない項目を結びつけるなど難度の高い検査で障害の程度を示す
中等度
古い記憶や体験的に習ったことなどは保たれている
最近の新しい記憶、複雑な事柄の記憶などは失われている
重度
前向健忘と逆向健忘を含む全健忘
ほとんど全ての記憶障害
・注意力障害
集中力が低下し、一つのことに注意を向けつづけることや、注意の対象を切り替えることが困難になる
全般性注意障害
集中困難・注意散漫・・ある刺激に焦点を当てることが困難となり、他の刺激に注意を奪われやすい状態
注意の持続・維持困難・・長時間注意を持続させることが困難な状態
時間の経過と共に課題の成績が低下する
半側空間無視
腦損傷の反対側の空間に於て刺激を見落とすことを始めとした半側無視行動が見られる
・・BIT(行動性無視検査)
・・図形模写検査
・遂行性機能障害
自分で手順を決めたり、段取りを考えたりすることが出来ない
一つ一つ指示されないと行動に移せない
・社会的行動障害
興奮する、暴力を振う、自己中心的になる、思い通りにならないと大声を出す
どう理解していいのか分らないこの難解な症状、
その、程度の度合いを、今は誰も把握できていないのである。
さもあらん、
それは、腦 ( あたま ) の中のこと、
推測はすれど、誰が把握できようものか
そんな状態で、
如何に訓練を行うのだらう
2011.09.15撮影
喉もとにカニューレ、と、鼻に経鼻経管
サングラスは、 9月8日から装着
直射日光を見ているくらいに眩しいらしく、
瞼を開くことが出来ない・・から
私が天神橋筋商店街のメガネスーパで購入したもの
第一、 始めの一歩
倅の維新回天
それは、リハビリから始まる
昨日、一瞬ではあるが瞼が開いた
而し、其れは只一瞬のみ
再び、元の目阿弥、瞼は貝の如く閉じてしまったのである
されど、どんな状態にあらうと、一日たりとも欠くわけにはゆかない
それがリハビリ・・なのだ
吾々にとっては未知の領域なれど
始めの一歩 イザゆかん
「頑張ってくれよ」
・
一 リハビリ初日
8月12日(金)
本日のスケジュール予定
07:30~08:30 OT リクライニング座位
10:00~11:00 PT
15:30~16:30 ST
嚥下、コミュニケーションを行った
併せて、CT撮影 ( 胸部CT、単純(肺野・縦隔) ) 尿検査 血液検査、・・各種検査を行う
・
待った無し
これから半年、一日3時間のリハビリを行い続けるのである
未だ、覚醒しない倅ではあるけれど、
前途多難の航海は嫌だ
希望を頼りにして、
前途洋々と進みたい
・・吾々の想いである
・
8月16日(火)
面会に訪れると、ちょうど作業療法のリハビリの時間に中った
そして、
洗面化粧台のカウンターに、スポンジ付きハブラシと、棒付きキャンディ、を認めた
これで歯磨きの訓練、及び口腔ケアをするのだと謂う
スボンジにより舌に刺戟する、
そして、スポンジに含まれる水分と刺戟されて出た唾液をゴクンと飲込ませる練習するのだと
キャンデイを舐めさせることにより、出なくなっている唾液を出るようにするのだと
「なるほど、 リハビリとは、そういうものなのか」
・・そう想った
二 暗闇に光さすは、いつの日か
8月23日(火)
依然、瞼が開かない
リハビリテーション病院には眼科はない
而も、往診は適わない
従って、本日は、午前9時~正午の予定で箕面市民病院眼科に外来として出向くのだ
医師から外出許可は取っている
・
練習はすれど 車椅子にも坐れない倅、ストレッチャーでの移動になる
従って、本日はスタッフが付添ってくれる
千里リハで用意して呉れた介護タクシーに乗込み、箕面市民病院へ
車の中で、倅は只ひたすら、眠っている
緊張の面持ちで診察室へ入った・・ものの
ところが然し、体調頗る悪いのか 眠ったまま覚醒しないのである
眼科医師の呼掛けにも、応える事さえできず
従って、診察ならず
「 診察出来ない・・、従って、( 瞼を閉じたままである) 原因も治療方法も分らない 」
「 仕方がない、次回にしやう 」 ・・と、眼科医の言
おまけに、失禁している様子
こういうことも起らう・・と、推ってはいたが
処置室を借りて、下処理をする始末であった
結局、
再診予約 ( 9月1日PM13:30 ) を済ませて帰院するしかなかったのである
・
第二 セラピスト
時代の進化は、新しい職種を創出す
『セラピスト』
初めて耳にする
理学療法士 (PT)、作業療法士 (OT)、言語聴覚士 (ST)
社会復帰のための療法を専門に行う者・・だとな
・・・
生涯に於いて、
彼等たちとは一期一会の出逢い
此も縁 ( えにし)
そんな彼等に、運命を託すのである
人生とは斯様なもの・・・なのかも知れない
・
8月25日午後、リハビリ棟 B110 (個室) に転室
此れと同時に、
担当スタッフが全て入れ替った。
このスタッフ、
殊に3名のセラピストが退院までめんどうを看て呉れるのである
彼等に替わってから、日記への記入が俄然多くなった
彼等の書込みからは、
セラピストたちが如何にとりくんでいるか、
亦、そこから 倅が一日一日を如何に過ごしているかが推測できた
不安な日々の中、
それでも、彼等に託すしかない吾々にとっては、心強いものである
一例を挙げると
8月29日(月)
07:30~70:50 PT・・起床、更衣の協力動作促し
09:00~09:20 PT・・寝返り、座る練習
10:10~10:50 特浴
14:00~15:00 OT
15:20~15:40 PT
パット交換、座る練習、立つ練習
本日は、午前だけでなく、午後もうなずきなどの表出がはっきりされており、
ニコッとされる様子もありました。
座位や立位では血圧降下がまだ安定しませんが、本日は、立ち上がりを2回実施し、
練習後も体調の乱れなく、頑張ってもらえました。
15:50~16:50 ST
午後にリハビリが集中してしまった為、15:50介入時は やや疲労ぎみでした。
でも、「○○なら出来る」 と 出来る範囲でのリハビリは積極的に実施して頂けました。
内容は口の体操と唾液を飲み込む練習です。
本日はムセもなく上手く唾液を飲み込めました。
近日中に飲み込みの検査を行う予定です。
日程は決まり次第、連絡させて頂きます
8月30日(火)
09:10~10:10 ST
うなづき、首振りでの反応はたくさんみられましたが、発声には非協力的でした
一方で嚥下訓練 ( 飲み込み ) には協力的で、唾液の飲み込み練習をしました
昨日の予定表に記載しました飲み込みの検査 ( VF検査 ) ですが、9/2(金)10:30に決まりました
基本的にはご家族様の立会いはご遠慮願います。
終了後に詳しい結果は報告させて頂きます
10:20~11:00 OT ・・すわる リハビリ
14:00~14:40 PT ・・寝返りと立ち上がり
16:30~16:50 PT ・・立ち上がり
19:00~19:20 OT ・・着替え 整容練習
8月31日(水)
08:30~09:10 OT ・・車椅子に30分乗りました 血圧低下無く安定してました
10:20~11:20 ST
嚥下訓練実施しました。ムセもなく安定しています
(のみこみ)・・まだ食べ物は使用していません
14:00~14:20 OT
16:30~16:50 PT
ベッド、車椅子での座位 血圧安定しています。
関節可動城訓練、外気浴(外に車椅子で5分ほど行きました)
・・・といった具合である
彼等の真面目で誠実な態度が表れている
吾々も一案
連絡メモなるものを作成して、互いの想い・情報の交換を目論だ
瞼は開かず
呼びかけの声だけを頼りに
ただひたすら、リハビリをつづけている
只、言われるままに体を動かしているのである
「かわいそうに」・・は、禁句であるけれど
切ない吾が想いである。
・・・リンク→後顧の憂い (七) ・ 千里の途3 本日のスケジュール予定 につづく