雑談の達人

初対面の人と下らないことで適当に話を合わせるという軽薄な技術―これがコミュニケーション能力とよばれるものらしい―を求めて

「お客様第一主義」は万能ではない

2009年05月23日 | ビジネスの雑談
企業が掲げる経営方針として、「お客様第一主義」というのがある。何よりもまず顧客の立場にたって、製品の開発やサービスの提供を行うことで、顧客の満足度を高め、企業の利益向上につなげるという考え方だ。「お客様は神様です。」と言った人もいる。日本では、疑いの目を向ける人がほとんどいない考え方だろう。

ところが最近、このお客様第一主義の弊害ともいえる状況が注目されるようになった。クレーマーとか、モンスターペアレントとか、客の目に余る振る舞いが問題視されるようになったのである。つまり、お客様第一主義につけこみ、客であったら何をしても許されるという姿勢で不当な要求をしてくる人間が増えているのである。

ところで、筆者の勤務先は商社であるが、仕入れ先と客先の仲介をする商社においては「お客様第一主義」は有効な考え方ではない。こう言うと、何だかひどい会社であるかのように聞こえてしまうが、決してそうではない。客先も仕入れ先も、相手側に直接要求を伝えるわけではなく、代理店である商社が間にいるので、言いたいことを言いやすいのである。そのため、語弊があるかもしれないが、双方ともクレーマーの如く、過剰気味な要求を突きつけてくるケースが多い。

例えば、ある不良品が発生したとする。客先は、製造元のメーカーの責任であるとして、全品交換と賠償を求めてきたりする。仕入れ先であるメーカーは、客先における製品の使用状況が明らかでなく、他の客先では同様の問題は発生していないので、返品には一切応じられないと言ってきたりする。メーカーの主張をそのまま客先に伝えていると、「こちらがウソを言っているというのか。しかも、客に対してその態度はなんだ!」と猛烈な反発を買ってしまう。他方、「お客様第一主義」でメーカーに対応すると、「不当な要求をごり押しする客の言いなりになるような商社では、代理店の資格はない」と、今度は仕入れ先からの信用を失ってしまう。

「お客様第一主義」とは言うけれど、お客さまが常に正しいとは限らない。逆もまた真なりで、仕入先並びに自社が常に正しいとは限らない。結局、妥当な着地点はどの辺りにあるのかを自分自身で判断し、そこへ向けて双方を誘導していくしかないのである。これは、お客様第一主義よりも、ある意味しんどい考え方である。というのは、「とりあえずお客さまのニーズに寄り添っていればいい」というのは、実は思考停止気味の楽な考え方なのだ。客の考えにも行き過ぎがあり、仕入先にも譲歩の必要があるという判断の中、相手から一定の反発を受けることを覚悟の上で、必死に両方の説得を試みなくてはならないのだ。それまで積み上げてきた信頼、経験、論理、表現力など、自分のもてる力のすべてを総動員しての勝負となる。

情報通信の発展や物流の合理化が押し進められており、商社不要論もしばしば耳にすることがあるが、「お客様第一主義」の限界が、さまざまな形で表面化しつつある中、このような仲介者の役割について再評価がなされてもいいのではないかと思う。

2009年5月24日追記:お客様第一主義のその他の弊害については、この次のブログ記事でも取り上げています。

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