*
なにか もの静かなものを思い描こうとして
台所の棚に 口の欠けた急須が残っていたのを思い出した
そこからの連想で昔の恋人のことが 心に浮かんだが
その人に対する責任は もう時効になった と考えている私は
この詩の中の私で 現実の私ではない
*
あのときは 口先で謝っただけだった と
涙ながらに詫びる男が 今回のは本気だ と差し出すのは数枚の紙幣
確かに 紙幣は偽札でない限り 嘘をつかないし
ときには言葉以上に 雄弁だとも思えるが
こめられた意味は荒々しく 一義的で韻律にも欠ける
*
生々しい感情は ときに互いに殺しあうしかないが
詩へと昇華した悲しみは 喜びに似て
怒りは 水の中でのように 声を失う
そして嫉妬が あまりにたやすく 愛と和解するとき
詩は 人々の怨嗟さえ 音楽に変えてしまう
*
*
*
昨日を忘れることが 今日を新しくするとしても
忘れられた昨日は 記憶に刻まれた 生傷
私には癒しであるものが 誰かには絶えない鈍痛
だが その誰かも 私に思い出させてくれない
私の犯したのが どんな罪かを
*
その人の悲しみをどこまで知ることが出来るのだろう
目をそらしても耳をふさいでも その人の悲しみから逃れられないが
それが自分の悲しみではないという事実からもまた 逃れることが出来ない
心身の洞穴にひそむ 決して馴らすことの出来ない 野生の生きもの
悲しみは 涙以外の言葉を拒んでうずくまり こっちを窺っている
五行『夜のミッキーマウス』より 一部抜粋
実を言えば、最後の2行はあまり気に入っていない。
でも、代わりになる言葉を探すのも難しい。
なにか もの静かなものを思い描こうとして
台所の棚に 口の欠けた急須が残っていたのを思い出した
そこからの連想で昔の恋人のことが 心に浮かんだが
その人に対する責任は もう時効になった と考えている私は
この詩の中の私で 現実の私ではない
*
あのときは 口先で謝っただけだった と
涙ながらに詫びる男が 今回のは本気だ と差し出すのは数枚の紙幣
確かに 紙幣は偽札でない限り 嘘をつかないし
ときには言葉以上に 雄弁だとも思えるが
こめられた意味は荒々しく 一義的で韻律にも欠ける
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生々しい感情は ときに互いに殺しあうしかないが
詩へと昇華した悲しみは 喜びに似て
怒りは 水の中でのように 声を失う
そして嫉妬が あまりにたやすく 愛と和解するとき
詩は 人々の怨嗟さえ 音楽に変えてしまう
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昨日を忘れることが 今日を新しくするとしても
忘れられた昨日は 記憶に刻まれた 生傷
私には癒しであるものが 誰かには絶えない鈍痛
だが その誰かも 私に思い出させてくれない
私の犯したのが どんな罪かを
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その人の悲しみをどこまで知ることが出来るのだろう
目をそらしても耳をふさいでも その人の悲しみから逃れられないが
それが自分の悲しみではないという事実からもまた 逃れることが出来ない
心身の洞穴にひそむ 決して馴らすことの出来ない 野生の生きもの
悲しみは 涙以外の言葉を拒んでうずくまり こっちを窺っている
五行『夜のミッキーマウス』より 一部抜粋
実を言えば、最後の2行はあまり気に入っていない。
でも、代わりになる言葉を探すのも難しい。
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