The Doorbell Rang
アメリカの子育ての場面でもっとも頻繁に使われる単語の一つが"share"です。
子ども同士がおもちゃの取りっこをしていたり、誰かがブランコを独り占めしていたりすると、先生やお母さんからすかさず"Why don't you share?"(日本語だと「仲良く一緒に使いましょうね!」とか「順番にね!」でしょうか?)と言われます。
子ども同士でも、お友達のクレヨンを借りたいときとか、ランチやスナックを「ちょっと分けてほしいなぁ」というような時には、“Won't you share?"「ねぇ、ちょっと貸して/分けてくれない?」と言います。
「貸し借り」や「順番」だけではありません。もっと積極的には、たとえば幼稚園や小学校に"Sharing Time"という時間があって、子どもたちがいろいろなモノや経験をクラスメートと「共有」します。たとえば「このテディベアはね、僕が生まれた時におばあちゃんが買ってくれた特別に大事なものです。今日は皆に見せてあげるために持ってきました。抱っこしてもいいよ!」などと言ってクマのぬいぐるみを見せたり、「昨日、歯が抜けました(と言って口をあんぐりして皆に見せ)。抜けた歯を枕の下に置いておいたら、トゥース・フェアリが来て1ドルと替えてくれました」などと報告するのです。誰もが順番に話すので、ひとりだけ自慢して……みたいな印象にはなりません。それに、話し終わると先生とクラスメートが"Thank you for sharing"(話してくれてありがとう!)と言ってくれるので、話し手の子どもは「(恥ずかしかったけど、思い切って)話してよかった!」と感じられる「しかけ」です。
大人同士でも「実は、ちょっと嬉しいことがあってね……」と友人に打ち明けたり、逆に「実は、困っているの……」などと思いきって悩み事を相談したりすると、聞き手はすごくやさしく"Thank you for sharing this with me!"と言ってくれます。たいていの人は実にさりげなくこれが言えるのです。私はこれを聞くたびに、子どもの時からのトレーニングの成果ってすごいなぁ、こういう躾って大事だなぁといつも感心させられます。
さて、でも、これだけ口うるさく"share"、"share"と言われるのは、やはりアメリカ人にとっても"share"はむずしいことだからに違いありません。ましてや子どもにとっては、言わずもがな。
(shareが大切……shareしなきゃ……でも、shareしたくないよ……でも、やっぱりshareしなきゃ……でも……)そんな子ども心の葛藤を描いた可愛い絵本が"「ピンポ~ン!The Doorbell Rang"」です。
「おやつにクッキーが焼いてあるわよ」とお母さん。「わぁ、おいしそう!」きょうだい仲良く分けあって食べようとしていると……。ピンポ~ン! ドアベルが鳴りました。
ドアを開けるとお友達が立っています。「ちょうどよかった!一緒にクッキーを食べようよ!」……というわけで、皆がお皿を前に座ったところへ、ピンポ~ン! またドアベルが鳴りました。
ドアを開けるとまたお友達。「入って!入って!クッキーがあるよ!」みんなでもう一度分けなおして「さぁ食べよう」というところへ、またしてもピンポ~ン! ドアベルが鳴り、ドアを開けるとまたお友達です。「ちょうどおやつなんだ」と、またまた皆で分けなおしたら……たくさんあったクッキーも、ついにひとりに一枚だけになってしまいました。「さぁ、食べよう!」
ところが!ピンポ~ン!またドアベルが鳴ったのです!
居合わせた子どもならずとも、思わず顔を見合わせてしまいそうな場面です。読み聞かせていると、聞いている子どもが、ここでハッと緊張するのがわかって、実に可愛いですよ。
さて……おそるおそるドアを開けると……そこには、おばあちゃんが、焼きたてクッキーがいっぱい載ったお盆を持って立っていたのです。わぁ~嬉しい!おばあちゃんの焼いたクッキーって、すごくおいしいんだよ!
……ああ、よかった! 口には出さねど……ホッとする、ハッピーエンディングです。
穏やかなお話なのに、だんだん緊張が高まり、そして最後にしっかりカタルシスもある、実に愉しい絵本です。でもこの絵本、お寝み前の読み聞かせにはちょっと注意が必要です。理由は簡単。実は、読んでいるとクッキーが食べたくなっちゃうのです。もう歯も磨いちゃったし……もうパジャマだし……と思っても、それでもやっぱり親子ともどもクッキーが食べたくなるので要注意!なのです。
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