お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

”子どもだけじゃもったいない!”と言わせる絵本

2009-06-16 | about 英語の絵本

Zoom

今日ご紹介するのはイシュトバン・バンニャイstvan Banyaiの絵本ズーム"Zoom"です。ハンガリー生まれのBanyaiは1980年代半ばに米国にわたり、ロスアンジェルスついでニューヨークでイラストレーター/アニメータ―として成功をおさめ、さまざまな本の挿絵や雑誌プレイボーイのイラストなどで活躍する一方、絵本作家としても優れた仕事をしています。

"Zoom"はBanyaiが初めて子どもむけに描いた本です。言葉のない絵本ですが、幼い読み手はユニークな視点で描かれるちょっと不思議な絵に魅かれ、大人は斬新な発想とデザイン、そしてさまざまに解釈可能なコンセプチュアルな内容に魅かれて熱心なファンになるようです。1995年に刊行されるや、たちまち各方面で絶賛され、ニューヨークタイムスの「(その年に刊行された)最も優れた本」の一冊に選ばれるなど、高い評価を得ました。

絵本"Zoom"はコンセプトも構成も、ある意味で実にシンプルです。ひとつのページに描かれたイラストが、ページをめくるたびに、だんだん何かもっと大きなものの一部であることがわかってくる・・・という展開。たとえばあるページで農場と思われたものは、ページが進むと、実は子どもが遊んでいるおもちゃの一部だった・・・とわかる。あるいは、街角の描写かなと思っていると、実は、もっと大きな枠組みのなかでは、風景の一隅にあるテレビの画面に映し出された映像の一部だった・・とわかってくる、というように。

一点にズーム・インしていたカメラをグーッと引いてズーム・アウトする感じといえばわかりやすいでしょうか。風景が広がるにつれ、画面全体のコンテクストが変わり、そのコンテクストの変化につれて、それまで見えていた(と思っていた)ものの意味あいが変わってくる・・・。その変化をなかなかにリアルに体験させられます。

それだけなのですが、それだけなのに不思議に見あきない、ユニークな絵本です。言葉のない絵本なのですが、実は、言葉がないゆえに、いっそう概念的で多様な解釈が可能になり、そのために、むしろいっそう饒舌な本になっているのかもしれません。そのためでしょう。カラフルなイラストはゼロ歳児も喜んで眺めて楽しみますが、この絵本、実は大人にたいへん人気があります。

しばらく前に「チーズはどこへ行った?」という本がビジネスマンの間でベストセラーになりました。実はこの"Zoom"もビジネス・トレーニングのテキストや参考書として、永年いろいろな人に愛用されているのだそうです。

「物事を大きな枠組みで考えることの大切さを考えさせられる」というあたりが典型的な評価。「どんな事も視点を変えてみられるようになることが大切だ、ということを、ドラマティックな絵で実感させてくれる」と読者評に書き込んでいる読者は、続けて「この本をまとめ買いして(彼の)チーム・ビルディングのセミナー仲間全員に送った」といいます。ビジネスマンのリーダーシップ・セミナーで使われたり、チームづくり研修の教材に使われたりと、なかなかの人気。アマゾンの読者レビューにも、絵本なのに、子どもそっちのけの大人の感想やコメントが多数寄せられています。中には、「今日初めて読みました。この絵本が、ほかのたくさんの絵本にまぎれて子どもの本棚にろくに読まれもしないまま置かれているのはあまりにも惜しいと思います。私は、今日、うちの"もう成人した子ども全員"にこの本を送りました」というレビューまでありました。

というわけですので、この絵本、一般には小学校中低学年におすすめと紹介されていることが多いのですが、実は、まったく読者の年齢を選びません。しかも、文字のない絵本ですから、文字通り、赤ちゃんから大人まで楽しめます。


コメント
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