旧刊時空漂泊

さまざまな本・出版物がランダムに現れます。

近代日本の百冊を選ぶ

2014-07-30 13:01:17 | 日記
選者/伊東光晴・大岡 信・丸谷才一・森  毅・山崎正和
1994年4月27日第1刷発行
発行所 株式会社講談社

          

いま読んで面白い、近代日本の名著百冊。
今回は落選した著作、つまり、いま読んで面白くない名著とはどういうものでしょうか。
従来であれば「近代日本の百冊」に当然選ばれたであろう著作ないしは著作家に注目しました。

*田山花袋『蒲団』
     丸谷 ・・・・・日本の文学は明治四十年に、田山花袋の書いた『蒲団』という小説のせいで、決定的な影響を受けたんです。
     これほど影響力の強い小説はないわけです。しかし、ぼくには何の意味もない小説なのね。支持する人がここにはいない
     と思うから、こんなことをいうんですが、もし『蒲団』を選ぶことになったら、ぼくは直ちにここを退席します。(笑)    (P26)

*芥川龍之介、志賀直哉
     芥川、志賀が落選した
         ・
     丸谷 強いて言えば『河童』かなあ。
     山崎 あの文明批評は、ちょっと浅薄でしょう。
     丸谷 それを言うと、みんなそうなんですよ、芥川は。
          ・
          ・
     伊東 私も落としてもいいと思う。ところで、芥川と同じように中学時代に読んで、さっぱりわからなかったのが志賀直哉です。
     どうしてあれが文学の神様なんですか。                                 (P59~60)

*川端康成、横光利一
      川端、横光も落ちた
           ・                                             
     山崎 『雪国』はどうしようもない小説でしょう。
     丸谷 あれは、だいたい意味がわからない小説ですよ。                                 (P67~69)

*小林秀雄
      
     丸谷 結局、いわゆる主著には作品の名に値するものはないと思うんです。批評というのは、自分の意見をもっと着々と述
     べるものなのに、それをしないでいきなり啖呵切っているだけだから、いばるわりには中身が貧弱なんですね。日本の批評
     に対して害悪を流したと思います。尊敬すべきところ、評価すべき点はあるけれども、一冊の本としてはないということで、
     落としませんか。
     一同 そうしましょう。                                             (P83)

*三島由紀夫
       三島由紀夫はオチ
     山崎 いや、私は大真面目で、三島はコント作家だと思っているんです。
     丸谷 あ、それはその通りですね。最後の長編『豊饒の海』だってそうでしょう。ぼくはあの小説は、長い長いショートショート
     だと言っているんです。
     山崎 私もそう思います。最後のオチで読ませる小説ですからね。オチまで我慢して下さいという小説。   (P111)
     
   


百冊のなかに選ばれた、森本薫『華々しき一族』についての山崎正和の評の一節を紹介します。

     岸田と同じく、彼も自己陶酔に身悶え怒号する感情を嫌い、その反面、不機嫌に鬱屈して口ごもる感情をも憎んだ。
     第一に、その二つの感情は明治末年以来、日本の近代文学を支配する主題であり、日本人の内面を狭く貧しくし
     てきたものであった。だがそれ以上に、ふたつはいずれも舞台の本質にそぐわない感情であり、役者を醜く見せ、
     観客の共感を妨げる感情だからである。                             (193)

これが『近代日本の百冊を選ぶ』の基本のように思えます。


ポケット全国時間表 昭和30年2月号

2014-07-21 12:08:29 | 日記
昭和30年2月1日発行
編集兼発行人 株式会社 交通案内社 石井信二
定価 45円

     
       縦 15,1cm   横 8,7cm

時刻表ではなく「時間表」になっています。
昭和30年2月ですから、東海道線が全線電化になる直前でしょう。
時間表が181頁、旅館・ホテルの広告が39頁です。
表紙のデザインがシンプルでいいですね。

 
  山陽本線 鴨方から東北本線 瀬峰まで。     横 52cm
  ただし鴨方は時間表では省略されています。



    

    右頁中央の列車番号111は東京発、門司行きです。
   東京1425発、門司には翌日2203着、所要時間は約32時間。どのような人が乗ったのでしょうか。
   二等車、三等車、寝台急行というのもあります。
   もう二度と戻ることはない、たった59年前の世界です。   

アルプスヒマラヤからの発想

2014-07-06 09:38:14 | 日記
朝日文庫
1992年7月1日 第1刷発行
著者 藤田和夫
発行所 朝日新聞社
        
 地球科学者、藤田和夫がユーラシア大陸の変動帯を「鳥の目」的視野と「虫の目」の観察
によって実行したフィールドワーク。
舞台は・・・・白頭山を越えて満州へ
        白色地帯――大興安嶺探検
        インダス峡谷の旅
       カラコルムからヒンズークシへ
       アルプス縦断旅行
       地上900キロから見た中央アジア
       日本砂山列島
       雲南地震紀行
       寧夏地震紀行
       西夏王国
       タクラマカン砂漠をめぐる山やま
       日本列島ヒマラヤ論

 本書の末尾に「日本列島はヒマラヤである」という章があります。

       日本列島が古典的アルプス造山運動論では説明できないことが、いまや明白になってきた。
      さらにもうひとつ日本列島についての認識がはっきりしてきたことは、それが海面上に姿をあら
      わしているのはせいぜい三千メートル程度にすぎないけれども、水深五千メートルの太平洋の
      海底からみれば、それは八千メートル、海溝底からみれば一万メートルをこえる一大山脈であ
      るということが最近の詳細な海底調査で明らかになってきたことである。このような視点でみる
      と、海面下をふくめた列島の延長は北海道から九州まで二千キロ、幅は日本海溝から日本海
      まで500キロ、これはグレートヒマラヤ山脈に匹敵する。地向斜概念が消滅し、海溝で沈み込
      むプレートの圧縮による付加体が隆起したものとして褶曲山脈が理解できるようになった現在、
      全貌を陸上にあらわした日本列島としてヒマラヤをみると、いろいろ興味深い類似点がみいだ
      せる。        (中略)
       東北日本まさに太平洋プレートが日本海溝にそってもぐりこむあたりに生じた島弧であるのに
      対して、西南日本は大陸の一部のような性質をもっている。しかしよくみるとその南には太平洋
      プレートの一部といってもよいようなフィリピン海プレートがあって、南海トラフとよばれる浅い海溝
      にそってもぐりこみ、西南日本を南から圧縮している。その方向に直角な断面をとってみると、フ
      ィリピン海の海底の深さが五千メートル、それから南海トラフの七千メートルあたりまでいちど下
      がるが、次いで多くの大規模な逆断層で区切られながら一気に浅くなって、二千メートル付近に
      海段とよばれる平坦面のひろがる階段状の地形があらわれる。この深海の平坦面は、この段上
      に西南日本の沖合五〇キロあたりにそれと平行に東から西へ熊野海盆・室戸海盆・土佐海盆な
      どとよばれる海底の盆地が配列し、それらが第四紀層によって埋めたてられたものである。この
      海段から、大逆断層をともないながら陸上に姿をあらわすのが四国や紀伊半島であるが、この海
      底の部分をくわえた西南日本の南北断面は、インドからヒマラヤにかけての断面とまことに似てい
      る。トラフの部分はインド平原にあたり、海段上の盆地はカトマンズやポカラ盆地などの山間盆地
      に相当する。それらの比高も似かよっているし、盆地を埋める地層の時代まで似ている。西南日本
      は海面から頭をだしたヒマラヤといえる。   (367~369頁)

 日本列島は海底にそびえるヒマラヤであり、日本人はヒマラヤ山中の高地に暮らしていることになります。
昔、造山運動の説明のところに地向斜という言葉が出てきたのを憶えています。ただ地向斜がどうして起きるのかが
わかりませんでした。
そのうちに地向斜という言葉が使われなくなり、プレート理論が登場しました。地質学におけるこの大きな革命を
教科書ではきちんと解説しているのでしょうか。
 本書の結論は日本列島を考えるには、アルプスから太平洋まで視野にいれる必要があるということです。