選者/伊東光晴・大岡 信・丸谷才一・森 毅・山崎正和
1994年4月27日第1刷発行
発行所 株式会社講談社
いま読んで面白い、近代日本の名著百冊。
今回は落選した著作、つまり、いま読んで面白くない名著とはどういうものでしょうか。
従来であれば「近代日本の百冊」に当然選ばれたであろう著作ないしは著作家に注目しました。
*田山花袋『蒲団』
丸谷 ・・・・・日本の文学は明治四十年に、田山花袋の書いた『蒲団』という小説のせいで、決定的な影響を受けたんです。
これほど影響力の強い小説はないわけです。しかし、ぼくには何の意味もない小説なのね。支持する人がここにはいない
と思うから、こんなことをいうんですが、もし『蒲団』を選ぶことになったら、ぼくは直ちにここを退席します。(笑) (P26)
*芥川龍之介、志賀直哉
芥川、志賀が落選した
・
丸谷 強いて言えば『河童』かなあ。
山崎 あの文明批評は、ちょっと浅薄でしょう。
丸谷 それを言うと、みんなそうなんですよ、芥川は。
・
・
伊東 私も落としてもいいと思う。ところで、芥川と同じように中学時代に読んで、さっぱりわからなかったのが志賀直哉です。
どうしてあれが文学の神様なんですか。 (P59~60)
*川端康成、横光利一
川端、横光も落ちた
・
山崎 『雪国』はどうしようもない小説でしょう。
丸谷 あれは、だいたい意味がわからない小説ですよ。 (P67~69)
*小林秀雄
丸谷 結局、いわゆる主著には作品の名に値するものはないと思うんです。批評というのは、自分の意見をもっと着々と述
べるものなのに、それをしないでいきなり啖呵切っているだけだから、いばるわりには中身が貧弱なんですね。日本の批評
に対して害悪を流したと思います。尊敬すべきところ、評価すべき点はあるけれども、一冊の本としてはないということで、
落としませんか。
一同 そうしましょう。 (P83)
*三島由紀夫
三島由紀夫はオチ
山崎 いや、私は大真面目で、三島はコント作家だと思っているんです。
丸谷 あ、それはその通りですね。最後の長編『豊饒の海』だってそうでしょう。ぼくはあの小説は、長い長いショートショート
だと言っているんです。
山崎 私もそう思います。最後のオチで読ませる小説ですからね。オチまで我慢して下さいという小説。 (P111)
百冊のなかに選ばれた、森本薫『華々しき一族』についての山崎正和の評の一節を紹介します。
岸田と同じく、彼も自己陶酔に身悶え怒号する感情を嫌い、その反面、不機嫌に鬱屈して口ごもる感情をも憎んだ。
第一に、その二つの感情は明治末年以来、日本の近代文学を支配する主題であり、日本人の内面を狭く貧しくし
てきたものであった。だがそれ以上に、ふたつはいずれも舞台の本質にそぐわない感情であり、役者を醜く見せ、
観客の共感を妨げる感情だからである。 (193)
これが『近代日本の百冊を選ぶ』の基本のように思えます。
1994年4月27日第1刷発行
発行所 株式会社講談社
いま読んで面白い、近代日本の名著百冊。
今回は落選した著作、つまり、いま読んで面白くない名著とはどういうものでしょうか。
従来であれば「近代日本の百冊」に当然選ばれたであろう著作ないしは著作家に注目しました。
*田山花袋『蒲団』
丸谷 ・・・・・日本の文学は明治四十年に、田山花袋の書いた『蒲団』という小説のせいで、決定的な影響を受けたんです。
これほど影響力の強い小説はないわけです。しかし、ぼくには何の意味もない小説なのね。支持する人がここにはいない
と思うから、こんなことをいうんですが、もし『蒲団』を選ぶことになったら、ぼくは直ちにここを退席します。(笑) (P26)
*芥川龍之介、志賀直哉
芥川、志賀が落選した
・
丸谷 強いて言えば『河童』かなあ。
山崎 あの文明批評は、ちょっと浅薄でしょう。
丸谷 それを言うと、みんなそうなんですよ、芥川は。
・
・
伊東 私も落としてもいいと思う。ところで、芥川と同じように中学時代に読んで、さっぱりわからなかったのが志賀直哉です。
どうしてあれが文学の神様なんですか。 (P59~60)
*川端康成、横光利一
川端、横光も落ちた
・
山崎 『雪国』はどうしようもない小説でしょう。
丸谷 あれは、だいたい意味がわからない小説ですよ。 (P67~69)
*小林秀雄
丸谷 結局、いわゆる主著には作品の名に値するものはないと思うんです。批評というのは、自分の意見をもっと着々と述
べるものなのに、それをしないでいきなり啖呵切っているだけだから、いばるわりには中身が貧弱なんですね。日本の批評
に対して害悪を流したと思います。尊敬すべきところ、評価すべき点はあるけれども、一冊の本としてはないということで、
落としませんか。
一同 そうしましょう。 (P83)
*三島由紀夫
三島由紀夫はオチ
山崎 いや、私は大真面目で、三島はコント作家だと思っているんです。
丸谷 あ、それはその通りですね。最後の長編『豊饒の海』だってそうでしょう。ぼくはあの小説は、長い長いショートショート
だと言っているんです。
山崎 私もそう思います。最後のオチで読ませる小説ですからね。オチまで我慢して下さいという小説。 (P111)
百冊のなかに選ばれた、森本薫『華々しき一族』についての山崎正和の評の一節を紹介します。
岸田と同じく、彼も自己陶酔に身悶え怒号する感情を嫌い、その反面、不機嫌に鬱屈して口ごもる感情をも憎んだ。
第一に、その二つの感情は明治末年以来、日本の近代文学を支配する主題であり、日本人の内面を狭く貧しくし
てきたものであった。だがそれ以上に、ふたつはいずれも舞台の本質にそぐわない感情であり、役者を醜く見せ、
観客の共感を妨げる感情だからである。 (193)
これが『近代日本の百冊を選ぶ』の基本のように思えます。