旧刊時空漂泊

さまざまな本・出版物がランダムに現れます。

遊び時間 2

2014-03-21 12:35:53 | 日記
著者 丸谷才一
1980年2月29日 初版発行
発行所 大和書房
 
      
           装釘 山藤章二

 一般的に雑文集といわれる本ですが、著者はあとがきで次のように書いています。

     普通この手の文章は雑文と軽蔑的に呼ばれますが、私としては楽しんで書きました。
    書く以上、おもしろがって書くのでなければ意味がないからです。おもしろがることがで
    きそうもないときは断る。どんなに義理を欠くことにならうと断る。それが文筆業者として
    のわたしの基本的な心得なのです。   (286頁)

この本も著者が楽しんでいる雰囲気がいつも感じることができます。
第1章、「過去への散歩」の最初の文章は「桜と御廟」、京都の円山公園のしだれ桜見物で始まり、
御霊信仰に及んでいきます。
  
    私はかねがね崇徳院という帝に関心をいだいている。この人は歴代の天皇の中で、後鳥羽院
    と並ぶ歌の名手だと思っているのである。保元の乱に敗れて四国に流されたこの人には、怨霊
    の総大将みたいな趣があってすこぶる貫禄があるが、和歌がいいのでいっそう立派に見える。
                    (中略)
     ところが円山公園のしだれ桜を見た翌日の午後、都をどりをちょっと覗いて、それから歌舞練場
    (つまり都をどりの劇場)の近くをぶらぶら歩いていると、まったく偶然に崇徳院の墓と出合ったの
    である。そこには「崇徳天皇御廟」と書いてはあるけれど、さういうおごそかな感じはまつたくなか
    つた。間口二間半ばかり、奥行も同じくらいの埃っぽい一劃で、錠のかかつている格子戸からの
    ぞいてみると、七本ばかりの不景気な樹木の中央に石碑が二つある。そして、そのまはりは近所
    の人々の植木鉢その他の置き場所、つまり物置になつているのだ。
     天皇御廟といふいかめしいものが市井の真只中にあって、しかもこんなにみすぼらしく親しみや
    すいのは、いかにも京都らしい。わたしはそのことを京都の人々とそれから崇徳院のために祝福
    して微笑した。すると、その微笑を合図にしてのやうに、崇徳院の一首が心に浮かぶ。和光同塵
    を読んだ神祇歌である。 
         道のべのちりに光をやはらげて神も仏と名のるなりけり 
                                                     (22~24頁)

第3章「イギリス文学知つたかぶり」の「芝居のなかの芝居」では『ハムレット』が論じられています。

      このことについては、ドーヴァー・ウィルソンの考へ方がすぐれている。かれは、シェイクスピアの
     時代の芝居が、現在の芝居とは非常に違ふ約束の上に作られていたことを指摘する。彼によれば、
     当時の観客には、ハムレットの悲しみがじつによくわかった。それは一言にして言へば、王である
     べくして不当に王位を奪われた者の悲しみである。そしてその背後には、王は国家の秩序の象徴
     であるといふ、古代的な(あるいは民俗学的な)信仰があるわけなのだ。  (119頁)

これはまるで、怨霊信仰のようです。『ハムレット』がこんなに人気があるのはこの古代的な、民族を超えた
信仰のせいでしょうか。そういえば、シェイクスピアにはキリスト教的な作品はないですね。
丸谷さんの著作には怨霊信仰がよくでてきます。崇徳院とハムレットというのはなかなかおもしろい組み合わ
せではないでしょうか。

よむ  第1巻第11号  特集 同潤会アパート60年

2014-03-02 11:10:10 | 日記
1992年2月1日発行
発行所 岩波書店

    

 大正12年(1923年)、大地震が関東地方を襲い、東京・横浜を中心に壊滅的な被害を与えた。
翌大正13年5月、諸外国からの義捐金など1000万円を投入して、内務省は外郭団体<財団法人同潤会>を設立した。
同潤会はまず、東京と横浜で木造仮住宅を、続いて木造普通住宅を建てる。その後、昭和初年に、東京の一四カ所、横浜の二カ所に、
耐震耐火設計の鉄筋コンクリート造集合住宅を次々と建設した。これが<同潤会アパート>である。   
東京江東区の住吉と毛利にまたがる同潤会の共同住宅が、いよいよ取り壊される。再開発で21階建のツインビルに生まれ変わるのだ。
                                                                             (2頁)

もくじ
   〔歩きながら対談〕  住利共同住宅拝見                  藤森照信+森まゆみ

   下町人情の中で・・・・再開発コーディネーター黒田征二氏にきく

   森まゆみの下町同潤会巡礼記

   アパートの時代の東京                             川本三郎

   〔年表〕鉄筋コンクリート造集合住宅

   〔ブックガイド〕同潤会アパートとその時代をもっと知りたい!

 


                
                住吉共同住宅            これが有名ならせん階段     南欧風の曲線構成

このらせん階段はすごいですね。昔のフランス映画にでてきそうです。
このアパートも今は存在しないのです。日本の都市は60年ですっかり変わってしまうのでしょうか。
江東区毛利のツイン高層マンションの竣工が1994年で、事業主は財団法人首都圏不燃建築公社になっていました。