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AURORA - Your Blood

2023-12-03 | 小説
AURORA - Your Blood



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戦争は知らない    カルメンマキ



Sayonara Bokuno Tomodachi       森田童子



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かなり久しぶりに本の紹介です。



むかしのはなし


著者 三浦しをん

1976年、東京生まれ。2000年、『格闘する者に○』でデビュー。以後、『月魚』『秘密の花園』『私が語りはじめた彼は』『むかしのはなし』など、小 説を次々に発表。2006年、『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。他に、小説に『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』な ど、エッセイに『あやつられ文楽鑑賞』『悶絶スパイラル』『ビロウな話で恐縮です日記』などがある。(「BOOK著者紹介情報」)より


〇あらすじ

 三カ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡し、抽選で選ばれた人だけが脱出ロケットに乗れると決まったとき、人はヤケになって暴行や殺人に走るだろうか。
 それともまるで当事者ではないように諦観できるだろうか。今「昔話」が生まれるとしたら、をテーマに直木賞作家が描く七作からなる衝撃の本格小説集。

〇レビュー

 まず、この小説集は 七作品からなっている。あらすじにあるように隕石によって地球が滅亡する三か月前の出来事を七つ、それぞれ主人公や他のキャラクターを入れ替えて話を作っている。それゆえそれぞれの登場人物の行動や心理はさまざまで、読者にとっては肯定できるところがあったり、否定したり、それもまたさまざまであると思う。
 ただ、そういったさまざまな七つの作品であっても、その根底に流れるものは一つなのだと感じる。それは「人間の本性」なのではないだろうか。作者は「人間の本性」を私たちに突きつけることで、「さあ、それであなたはどうですか?」と私たちに問いかけ、返事を待っている、そんな感じがしてならない。
 さて、前置きはここまでにして、それでは七作品それぞれについて私の感想めいたものを書いていこうと思う。なにぶん私は評論家ではないので多々不明瞭な部分があるかもしれない。その辺りはご愛嬌として受け取っていただけたら幸いである。

1.ラブレス

 二十七歳で男は死ぬという家系に生まれたホストの男の物語。運命のいたずらか、二十七歳の男はやくざに追い詰められ、倉庫の隅に隠れている。死が確実に迫って来ているなかで、男は過去を振り返りそれを携帯のメールに書き留め、ある女に送信しようとしているのであった。
 ざっとした粗筋だが、まあそういう物語である。一種のサスペンス仕立てで刑事ドラマなんかでよくあるシーンではあるが、やくざに追い詰められるに至った経緯が面白い。人生、本当にちょっとしたことで命を落とすことになるということと運命には逆らえないということをきっと作者は描きたかったのではないかと思う。物語に入る前に「かぐや姫」の話の粗筋が載っているのであるが、多分これをモチーフにしてるのではないかと推測するが、正直に言って物語とどういう共通点があるのかは私には分からない。

2.ロケットの思い出

 プロの空き巣が(恐らく)刑事に自分の過去と捕まるまでの経緯についてを明かすお話。そう簡単に言ってしまうと身も蓋もないが、読んでみるとやはりこれも「運命」というものを感じてしまう。それでも軽妙な語り口で語られるので余り重くは感じない。ロケットというのは空き巣が昔飼っていた犬の名前で、その頃の事を語った場面には一種の郷愁を感じる。考えてみれば「あるようでない」、「ないようである」、のどちらともつかない話であるが、その点がたんたんと流れる時と独特の空間を作り出しているように思う。
 これもまた初っ端に「花咲爺」の話が載っている。

3.ディスタンス

 実の叔父と姪との許されぬ恋の話。ただし、叔父の方はある性癖が関係しており、年月が経つにしたがって姪に対する興味を失ってゆく。それを信じられずに精神的に深い沼にはまってゆく姪。
 三浦しをんとしては珍しくどろっとした話。彼女は文体からしても割とカラッとした文章を書き、結末もそうした傾向にあるが、ここでは読んでみて余り後味が良いとは言えない。最初に「天女の羽衣」の話が載っている。これはタイトルの「ディスタンス」という意味を考えると合点がいく。「ディスタンス」には隔てる、距離があるというような意味があり、要するに「天女の羽衣」は彦星と織姫の前段の話であり、そういう意味で三浦しをんは「二人を隔てるものは何か」ということを書きたかったのだということに思い至った。

4.入江は緑

 眼前に海、後方に山に囲まれた漁村に住んでいる「ぼく」は家業である舟屋を営んでいる。美しい故郷、そんな風光明媚な土地から離れたことのない「ぼく」は穏やかな日々を送っていたが、ある日5年前に土地を出て行った兄のように慕っていた修ちゃんが謎の美女を伴って帰郷して来て…。
 ここでやっと一冊に纏められた今回の連作の核心ともいうべき事実が判明する。これによって話の数々がそれが起こる前後の地球に住む人々の葛藤、覚悟、生き方を著していることに気づく。私は最初に「人間の本性」と書いたが、もう一つ、大事な要素として「運命」がある。つまり、必ず訪れる「運命」に対して「人間の本性」はどのようにして抗うのか、あるいは諦めるのか、とそういうことなのである。
 最初に紹介されるのは「浦島太郎」の話。ああ、成程ね、と思った。

5.たどりつくまで

 隕石が地球に衝突する前のお話。
 地球脱出のロケット搭乗者が抽選で選ばれている中、搭乗を諦めて日々をタクシー運転手として働いている私はある夜、とても奇妙な女性客を乗せて……。
 不思議な話である。少しサスペンス風味があって、なのに結末がみえない。謎ばかりが残る物語。最後にタクシー運転手の「正体?」が明かされるが、微妙に差別の問題が絡んでいるのかなと感じる。ここでは「鉢かづき」という物語がとりあげられている。正直、私はこの話を全く知らなかったのだが、何故この話なのかということは次の「花」という短編を読んで、説明出来ないまどろっこさはあるが感覚的には分かったような気がする。

6.花

 前作でタクシーに乗った女性客が、猿と蔑めていた男と結婚し、地球脱出のロケットに搭乗する。現在は火星?に造られた半径5㎞のドームに住み暮らし、ストレスがあるとその猿が用意した「カウンセリングロボット直通回路」に悩みを打ち明けている。その悩みの中で過去を振り返り、最後には猿への気持ちが変わっていたことに気づくお話。
 読んでいて空っぽで嫌な女と思ったけれど、最後に残ったのが「愛情」だという終わり方だったので救われた気分になった。
 これは「猿婿入り」という昔ばなしを未来に置き換えた話。ちょっと結末の意味が異なっているように感じるが、「献身性」というところでは「猿婿入り」を取り入れた理由が分かるような気がする。

7.懐かしき川べりの町の物語せよ

 モモちゃんはヤクザの息子だ。彼には不安や恐怖という概念がなく、熱することも冷え込むこともない分残忍な心を持ち合わせている。本能のおもむくままに暴力を振るうと相手が瀕死な状態になるまで止まらない。そんなモモちゃんと「ぼく」が仲間になるきっかけが出来てー。
 これも隕石が衝突する何か月か前の話だ。これは恐らく1.のホストの男の話と繋がっている。この話が「現在」の話とすれば、1.のホストの男の話は「過去」の話ということになる。面白いのは7.の話で終わりということではなく、また1.に戻ってゆくといういうなれば一種のループ小説になっているところだ。しかもただ繰り返すだけではなく、一旦6.の花で舞台は未来に飛び、過去について語るという手法を使っている。ここで物語の時間軸は実は物語に於いてそれほど重要なことではなく、むしろこの小説を読んでいる私たちの「今」の時間の方が大事であることに気づく。私たちは物語を通じて過去にも未来にも行ける。だけども現実の私たちはどうあがいてもどちらにも行くことができないのだ。それだけ不安な心に苛まれることになるであろう。ではどうしたらいいのか。それは「今」、この瞬間を精一杯生きればいいのではないかと思う。そうやって、一歩ずつ未来に向けて進んでいけばいい。その先に何があるのかは分からない。でもきっと絶えず過去のことを後悔したりする日々や、先のことが何もかも分かってしまうような一生よりも、遥かにましな人生を送れるのではないかと思う。この物語で取り上げたのは「桃太郎」。何だかその理由が分かったような気がした。


 以上七編の物語についてまとめてみたが、全体的に感じるのはどこか冷めたような空気感が物語を支配しているようだということだ。どの物語も。それは読んでいる私たちによるものではなく、私たちと同じ空間で、見えない例えば巨大な目玉のようなものが、静かにずっと物語の出演者たちを観察しているような。……巨大な目玉、いや、それはもしかしたらこれらの物語を書いた作者から分離した冷徹な魂の目なのかもしれないが。




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