私の「認識台湾」

個人的な旅行(写真)の記録を主眼としつつも、実態は単なる「電子落書き帳」・・・・

目下変更の余地がない合衆国の台湾政策

2006年05月24日 | 台湾

ほしのあき嬢もさることながら、このところマイケル・グリーンCSIS上級顧問の(メディアへの)露出が目立ちます。先日はテレ朝の「サンデー・プロジェクト」で田原総一郎がグリーン氏から<反日発言>を引き出そうとしてものの見事に玉砕していましたが(田原の苦虫を噛み潰したような顔が実に可笑しかった!)、翌日の日経朝刊の「経済教室」ではイラン問題に関する寄稿も掲載されていました。(あまりにショボ過ぎるNIKKEI NETはこの辺の記事もオンライン化してくれれば個人的には有料でも大歓迎なのですが・・・・)

知日派のグリーン氏がNSCのアジア上級部長を昨年末に退任した際は日本側でも失望の声が大きかったですが、災い転じてと申しますか、フリーハンドで動きやすい現在の立場の方がかえって日本や台湾にとっては好都合なのかもしれません。アーミテージ氏らと並んで、氏が現在の国務省の極東政策の穴を埋めてくれるキーパーソンの筆頭であるのは間違いないでしょう。

◆日本は対中外交の抜本的見直しを──マイケル・グリーンCSIS上級顧問に聞く(産経)
◆米台関係:陳総統問題「影響ない」米安保会議前上級部長(毎日)
◆米軍高官 台湾に防衛力強化促す(産経)
◆US restates Taiwan commitment(Taipei Times)

■ 米台関係は「揺れた」のか?

グリーン氏が日本の外交政策のあり方に関して言及している件は従前どおり(記事)ですから省略するとして、今月14日~19日までの5日間にわたって氏が婦人と共に訪台(なる台NEWS)したのは注目すべき動きです。
氏はNUCと統一綱領の廃止問題で揺れた2月下旬も、事実上の国務省特使として後任のデニス・ワイルダーNSCアジア上級部長に続いて台北を訪れましたが、2月24日のTaipei Times紙に掲載された会見記事(日本語訳)の内容から最終的に合衆国側は折れるであろうとことが読み取れました。(その後「表現」を巡って下らない悶着はありましたけどね・・・・)
グリーン氏の今回の訪台の訪台の端緒となったのは、先頃の陳総統外遊時のトランジット問題であろうと思いますが、これに関して日本のマスコミや台湾の野党は一様に「陳総統が米台関係を揺らした。メリケンの反発は必至だ」といった論調でした。しかしながら、氏が台北で産経に「米国が台湾に向ける温かい気持ちに変化はない。むしろ気になるのは台湾側に中国の圧力に過剰反応する向きが多いことだ」と語っている(正確には「中国の圧力に」ではなく「ゼーリック副長官の意地悪に」でしょうが・・・・)ように、それは正確な現状分析とは言い難いと思います。
「揺れた」と感じて慌てたのはむしろ合衆国側であり、グリーン氏はワシントンと台北間の「潤滑油」的な役割を担って訪台したのでしょう。氏の訪台前に憲法改正に関して何やらゴチャゴチャ言っていたS・ヤングAIT台北代表が一転「米台は揺るがぬパートナー」等と言い出した(RTI)のも同様の「火消し」的な動きであろうと思います。

■ 合衆国は中台問題の〝解決〟を望んでいない?

三つの上海コミュケと台湾関係法に基づく「一つの中国政策」と「平和的解決」(中台いずれの側からの現状の一方的変更への反対)という明確な戦略を掲げる反面、具体的な戦術は「曖昧関与」というのが、従前からの合衆国の台湾海峡政策の機軸ですが、合衆国が理想とする「平和的解決」(記事)が何なのかというのは、最も中国寄りに振り子が触れたクリントン時代の台湾政策が参考になるのかもしれません。
10年前の海峡危機の際に二隻の空母が派遣されたという事実以外にも、ナイ国務次官補(当時)は香港よりも自治の幅を広げた「一国三制度」による「平和的解決」を提唱したり(そもそも「三制度」も必要な時点で一つの国にまとめるには無理があると気付けよな・・・・)、期限付きの中台和平協定のようなものが検討されたりしたようなのですが、最終的には何れも構想も見送られるに至りました。(10年前に否定された構想をKMTの馬主席が先の訪米時に得意満面に語っていたのは馬、否、間抜けに思えましたが・・・・)
それらの構想が否定されたのは(1)両岸の緊張が著しく減じることで〝反共防波堤〟としての台湾の地勢的優位性が損なわれる、(2)合衆国の武器商売に確実に負の効果をもたらすことが主たる理由のように思うのですが、合衆国としてはPRCの一党独裁体制が「現状維持」し続ける限り、最終的な中台の帰趨に黒白を付けることは望まず、事実上の「一中一台」状態を維持したいというのが本音なのではないでしょうか。(その時点の国益に従って動くというのがこの国の大原則ですし、米軍再編絡みでペンタゴン筋の談話として在韓米軍の撤退を匂わせる件を日経が数回載せていましたが、韓国の場合は日本という〝緩衝材〟があるにせよ、台湾の背後は太平洋という〝米国のプール〟ですからね・・・・)

<William Fallon, commander of the US Pacific Command (PACOM), said that until China renounces any intention of using force to resolve the Taiwan issue, the US will maintain sufficient military capability in the region to meet its obligations under the Taiwan Relations Act (TRA).>
(合衆国太平洋司令部(PACOM)のウィリアムファロン長官は、中国が武力に訴えて台湾問題の解決を図ろうという如何なる目論みも放棄するまで、合衆国は台湾関係法(TRA)に基づきその責務を果たすのに見合うだけの(西太平洋)地域における軍事能力を維持し続けるという見解を示した)

NUCと綱領の廃止問題で一悶着があった直後(この時はアーミテージ氏が台北をなだめにやって来ましたが)の3月11にも、下院の軍事委員会でファロン太平洋指令長官は、台湾関与(≠防衛)への再確約を述べるとともに、台湾の自衛能力の向上を促す演説を行ったのも印象に残っているのですが、「西太平洋地域の平和と安定は、合衆国の政治、安全保障および経済的利益に合致し、国際的な関心事でもある」(TRA第二条)以上、米台関係と台湾海峡の現状は良くも悪くも当面は大きく変えようがない(「台湾は活かさぬように殺さぬように」政策とも言えるかも・・・・)のではないかという気がしますし、むしろPRCの一党独裁体制がいつまで「現状維持」し得るのかというのが目下合衆国の関心事項なのかもしれませんね。

■ 日本は可能な限り能動的に動くべき

民主党クリントン政権時代は、(1)台湾の独立を支持しない、(2)一台一中、あるいは二つの中国を支持しない、(3)台湾の国際組織への加盟を支持しない、という「三つのノー」政策が打ち出されましたが、共和党ブッシュ政権になって、台湾はWTOへの加盟を果たしました。(3)の項目がブッシュ政権では撤回された格好ですが、文字通り「話にならない」台湾のWHOオブザーバー参加の日米両国の支持もこれと同一の方針に基づくものでしょう。
合衆国としては国家主権の問題に抵触することとなる国連の再加盟支持には難色を示すものの、経済・通商や保健衛生といった「生活実態」に即するものに関しては台湾を支持するというのが現在の方針であるようです。
「仏の顔は三度まで」ですが、WHOの件も10回目となるといい加減実効性の高い別の方法を考えるべきかもしれません。隣国の台湾が人命に関わる保健衛生の空白地帯であり続けることは、人権上の問題であるとともに我が国の国益にも深刻な問題をもたらします。至近のところですと、京都議定書のように日本が音頭を取って(国連関係はホントにあほらし。こっちの改革より「第二国連」を画策する方が早いと思う)「太平洋・島サミット」でのバイパスを作っておくべきだったのかもしれませんね。日本版「台湾関係法」を制定し、その辺を規定するのも一つの手でしょう。

日本や台湾が極東の民主主義の灯台たることを期待するグリーン氏は、能動性を失った同盟関係が紙くずと化すのは時間の問題であるとも再三述べています。氏が産経との対談で日米の対話チャンネルの拡大の必要性について言及している件はその辺の懸念の反映でもあるように思うのですが、血の通った同盟関係を維持・発展させるためには、「現状をよりよく変化させる」ようなインタラクティブな動きを日本側が率先して拡充させるのが不可欠であることは論を待ちません。


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9 コメント

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同盟を維持するには (猫研究員。)
2006-05-24 07:03:44
「同盟を維持する信念、それに基づいた国家的実行の積み重ね、能力、自主性の4つが重要だと」いうのが私が物を書くときに好む表現です。グリーン氏の虎の意を借りるつもりは毛頭ないのですが、要するに彼の主張もそういうことですよね。今般の米軍再編問題を見ていますと、いささか疑問符がつきます。



>日本版「台湾関係法」を制定し、その辺を規定するのも一つの手でしょう。



これには、賛成です!国連は中国が常任理事国である以上ダメに決まってるんですよ。

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台湾語のままでも良さそう (ボッケニャンドリ)
2006-05-24 10:00:11
 写真評論担当のボッケニャンドリです(^-^;



共通の漢字がある国同士なら台湾の言葉のままでも通じそうな気もするし、その方が異国情緒があって良いと思います。しかもちょっとした違いが話が盛り上がったりして。まさかこの写真、I手県ととかA森県の温泉じゃないですよね(^-^;;;



ところで台湾でも略字になるなんてことを最近何処かで聞きましたが、私は反対票に1票です。
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台湾のWHO加盟 (PJ)
2006-05-24 13:03:39
この間、署名を求めるサイトで、署名しました。

台湾の医療水準が国際的に高い方であるにも拘らず、

WHOに加入してないためにアフリカなどへの医療支援に参加できないのだそうです。

もし、各国で示し合わせてWHO加盟や台湾独立に1・2の3で賛成したら、出来そうな気がするんですけどねぇ・・。

政治の世界って難しい・・・。
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トラックバックありがとうございます。 (マコ)
2006-05-24 15:54:36
tsubamerailstar 様



 トラックバックありがとうございました。私自身は先日のテレビで始めてグリーン氏を観たのですが

、ブログを拝見して、彼が日本を含めた東アジア全体の状況について、深く研究しているのがよく分か

りました。今後とも彼がアメリカの東アジア政策のキーマンの一人であることは変わりないと思います

ので、注意深く観察していきたいと感じました。



 貴方のブログはこれからも確認させていただきます。よろしくお願いします。



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猫研究員様、PJ様 (tsubamerailstar)
2006-05-24 21:37:29
>猫研究員様



以前もお互い話した内容ですが、日米同盟を民主主義を旗印にしたエンゲージメント戦略として活かすという戦略がまるで出来ていないのが問題ですよね。昨年末懸念した通り相変わらず靖国神社で「行け」とか「行くな」と内外で大騒ぎしているに留まっているのを見ると、J・ナイ氏が言っていた「権利を留保しつつ、行使しない」方向で上手い手を考えるべきのようにも思います。

第二国連立ち上げて、今の国連は中国、ロシア、朝鮮、スーダン、キューバ辺りの新・常任理事国で回してもらったら如何かとも思います。(汗)



>PJ様



私もWHOで活躍する日本人女医を取り上げたNHKのドキュメンタリーを何時だか見て、保健衛生の空白地帯があるというのは恐ろしいなと思いました。

鳥インフルエンザのワクチンに関しては、万が一の場合日本側が調達して台湾に回すように話が出来ているようなのですが、グレーかつ特殊な国と国との関係を逆手に取って水面下であれこれ話せる余地は多分にあろうかと思いますし、現台湾与党が望んでいる対話レベルの引き上げが望まれるところです。少子高齢化とか社会保障給付費の問題等日本・韓国・台湾では共通する課題は多いので、「三人寄れば文殊の知恵」という感じでいければいいとは思うんですけどねぇ。

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ボッケニャンドリ様、マコ様 (tsubamerailstar)
2006-05-24 21:39:11
>写真評論担当のボッケニャンドリです(^-^;



「旅行写真の記録を目的とする個人的な電子落書き帳」という所期の目的に共感していただき真に有難うございます。以前も記したのですが、その下の文章のところはどうでもいいので、気合入れてやるなら「日本ダービーの勝ち馬予想」とか「原巨人の動向とペナントレース」とか「明日の日経平均」などなど重要なことは山ほどあります。まぁ、30分程度の暇つぶしだから・・・・(爆)

漢字の件は私も産経で見ましたが、マンダリンが出来ない私も略字体だと困りますねぇ。正字体だと街中でも意味が類推できますし・・・・昔国語教えていて漢字は得意だったりしますので。(笑)

香港も確か台湾と同じ正字体のはずです。



>マコ様



こちらこそご丁寧に恐縮です! グリーン氏は議員秘書もやっていましたし、与野党含め日本の政界に知己が多いようです。日本側も特に合衆国に対しては議員外交を密にしておく必要があるように思いますね。
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国連はひどい組織ですね (蓬莱の島通信ブログ別館)
2006-05-25 15:52:42
今回、アナンのアジア旅行を追っていて、国連のプレスセンターの記事と各国で出している新聞記事がまるで違うのに驚きました。また、国連のプレスセンター記事でも英語版の内容と中国語版はまったくといっていいほど内容が違っています。日本が、こんな伏魔殿みたいな組織を安全保障の当てにするのは自殺行為ですし、分担金を払い続けるのは貴重な税金の浪費です。先進国首脳会議の一部に「第二安全保障理事会」と「経済部会」をつくって、こちらで安全問題と経済問題を決めてしまえば、国連は民生部門だけになり、事実上、ただのNGOになってしまうのではありませんか?
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アメリカは台湾を見捨てない? (yosiaki)
2006-05-26 22:01:32
こんばんは!アメリカも政権で媚中になったり反中になったりと色々あるみたいですが、最終的に台湾を売っちゃうことはないということなのでしょうか?何か日本も他人事じゃないよなー何て思っちゃいますw
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蓬莱の島通信ブログ別館様、yosiaki様 (tsubamerailstar)
2006-05-26 23:46:28
>蓬莱の島通信ブログ別館様



>日本が、こんな伏魔殿みたいな組織を安全保障の当てにする



もはや訓示規定の域かもしれませんが、「敵国条項」が残ったままで当てになどできないのは自明の理ですし、そこら辺を鋭く見抜いたのが吉田茂首相だったのではないでしょうか。小沢一郎氏は「日本改造計画」で国連待機軍構想について言及していたように記憶しているのですが、今の彼がどういう見解なのか興味深いですね。良くも悪くも毀誉褒貶はあまりない方のように思うのですが。(笑)



>yosiaki様



日本・韓国・台湾共に戦後即冷戦構造に組み込まれ、紆余曲折「させられてきた」という側面は否めませんよね。朝鮮戦争一つにしたってアチソン国務長官の失言が引き金となった感はありますし、それが台湾に逃れた国府にとっては「中国白書」一転「禍転じて福」となりました。まぁ、日本は60年安保何かもはしかに掛かった子供のようなものだったのではないかという気がします。

民主・共和党の政策のブレも鑑みずに新米だ反米だというのはナンセンスですが、概してメリケンはその時点の国益に沿って動く国であり、キッシンジャー補佐官が訪中してパリ講和会議からベトナム撤退→米中国交樹立というのは当時としては国益にかなった最高に戦略的な動きをしたと言えるのではないかと思います。それでいて、カーター政権時代にTRAを制定して台湾カードも引き続きキープしたのですからまぁ、食えない連中です。
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