私の「認識台湾」

個人的な旅行(写真)の記録を主眼としつつも、実態は単なる「電子落書き帳」・・・・

台湾、「国共合作」路線へ加速か?~ブッシュ大統領演説の背景

2005年12月03日 | 台湾

議題が多すぎたせいか、米中首脳会談は総花的な印象を残すに止まりましたが、ダライ・ラマ十四世との訪中直前の会見や北京での協会訪問等はブッシュ大統領らしいアクセントの付け方だったかと思います。
「自由と民主主義を」テーマにした京都での演説(記事)において、大統領はアジアにおける成功した民主主義国として日本・韓国・台湾を例に引き、合衆国の新アジア政策を披露すると同時に、台湾の民主化モデルを手本にするよう中国の指導者に促しました。とりわけ「一つの中国」の原則の逸脱とも取られかねない台湾の持ち上げ方が各国のメディアの耳目を集めていましたが、台湾米国協会(AIT)の前代表が大統領の京都での演説の背景を分析している興味深い記事がありました。

◆Reading tea leaves of Bush speech(Tipei Times)
◆台湾、統一地方選きょう投票 対中政策、どう選択(産経)

■ 「台湾は自由で民主的な〝中国人社会〟」発言の背景

ブッシュ大統領は「台湾は民主化を推し進め、自由で民主的な〝中国人社会〟を築いた(=created a free and democratic Chinese society)」と講演の席で述べたのですが、

<However, among some people, especially in government, the use of the word "Chinese" in such circumstances prompted some concern that there might be a shift of US policy in the making.>
(しかしながら、台湾の一部、特に政府関係筋の間では、大統領が「中国人」という表現を公式の場で用いたことに対し、合衆国の台湾政策が変化しつつあるのではないかと懸念する声も若干聞かれた)


「中国人社会?」と私が引っかかったくらいですから、Tipei Timesの記事(日本語訳)によると、この大統領発言は台北でも様々な憶測を呼んだようです。

<These were official statements. Perhaps all of these experts should read, or re-read the Shanghai Communique and a bit of its history.>
(これらは、(上海コミュケを踏襲した)米国側の公式声明である。おそらく米国の政府高官の全員が上海コミュケを参照するか、それを再読して歴史を振り返ったであろう)

この「台湾は中国人社会」発言の背景が記事中にあからさまに書いてあるわけではないのですが、要は上海コミュケ締結時に米中双方が確認した「一つの中国」の原則(米中双方の思惑と解釈の違いが面白いのですが・・・・)に基づいて、大統領の意向を元に政府関係者が演説の草案を作成したといったところなのでしょう。

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『この米国流の「一つの中国」政策の内容はまさにガラス細工だ。積み重なる外交文書。細かな規定。飴細工のような言葉遣い。綱渡りの解釈。そのいずれにも精通していなければ、合意を壊してしまう。一歩間違えば、台湾海峡にミサイルが飛び、空母が派遣される。戦争になる』(保井俊之著『中台激震』)
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 合衆国の「台湾海峡あいまい関与政策」(記事)はもはや時代にそぐわないと批判する声もありますが、さりとて稀代の戦略家キッシンジャー氏のこの発明を超える妙案も今のところなし。

ブッシュ大統領はワシントン流の金科玉条(記事)のアウトラインを忠実に守りつつ、刺激的な演説を行ったということなのです。

■ 〝ポスト台湾海峡〟を見据えるべき時が来た?

今日12月3日は、台湾の行方を占う統一地方選が行われていますが、各紙報道によるとやはり台湾派の劣勢は否めないようで『中台関係は次期総統選前に、国民党ペースで「国共合作」路線に転換しそうだ(産経)』という記述も見られます。

<The result of this sad state of affairs will be the KMT claiming a new mandate for its agenda of legislative obstruction all the way up to the next presidential election. Such is Taiwanese democracy: The price of punishing the slothful is empowering the vandal.>
(この嘆かわしい状況の結末として、KMTは新たな権限を要求し、立法院での反対決議が08年の総統選まで延々と続けられることとなろう。怠慢な者たち(与党)に打撃を与える代償が心無い破壊者(野党)への権限付与であるというのが台湾の民主主義の現実なのだ)

Tipei Timesの社説も、かなり悲観的な論調です。
馬英九中国国民党主席は、2008年の総統選挙で国民党が政権を握った場合、2年以内に大三通(両岸の郵便、航空、通商の禁令を全面解禁する)を実現させるという公約(なる台NEWS)を掲げているようですが、中台のブロック経済化が進展すると一気に市場統合まで進み、そうなると中国主導の形での一国二制度を受け入れざるを得なくなる可能性が高いでしょう。
以前、米軍再編に伴うグアムの戦力強化は〝ポスト台湾海峡〟を見据えたものではないか(記事)と書きましたが、私がペンタゴンの高官だったら、当然台湾が中国に吸収合併され、防衛ラインが台湾海峡からバシー海峡まで南下することも想定した動きをします。
「台湾関係法」に「西太平洋地域の平和と安定は合衆国の重大関心事である」とうたわれているように、合衆国はその地域のステークホルダーではあるものの、それはあくまで「中台双方からの一方的な現状変更」、即ちこの地域での紛争を誘発する動きに反対の立場を表明しているのであって、「中台双方の合意に基づく現状変更」には反対できる立場にありません。(それは「あいまい関与」というガラス細工のような綱渡りを合衆国自らが壊すことを意味します)

旧宗主国でありながら、台湾に対する〝政策〟というものが存在せず、何か事が起こった際の〝対応〟があったに過ぎない日本の姿を省みると暗澹たる思いがいたしますが、いよいよ〝ポスト台湾海峡〟を見据えた戦略を迫られる時がやってきたと言えるのかもしれません。

PS:◆台湾統一地方選、与党が大敗…蘇主席は辞任へ(読売)

『「台湾独立」志向の与党・民進党は陳水扁総統側近の不正疑惑などが響き、現有10ポストを大きく割り込む6ポストにとどまり大敗した。中国との協調を重視する最大野党・国民党は馬英九・党主席(55)人気に乗り、現有8ポストに大幅に上積みし14県市を制した。』
・・・・という結果になりましたが、台湾でも「馬劇場」等と称したりしているのでしょうか? 午後四時から開票作業とのことで結果はあっけなく判明しましたが、DPPの6ポストというのは最下限値でしょうし、台北県や、宜蘭県、嘉義市といったポストを失ったインパクトは大きいように思います。

※写真・・・・中正祈念堂 産経新聞に「国共合作路線」等と書かれて、草葉の陰の蒋介石総統は何を思う・・・・

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9 コメント

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危険な兆候ですねぇ (tsubamerailstar)
2005-12-07 12:18:01
>舎 亜歴様



>文中の馬英九氏も韓国のナショナリストのように「アジアの価値観」に取り憑かれたのでしょうか?



馬氏自体は香港生まれの外省人ですし、尖閣に象徴されるような中華民族ナショナリズム路線だと思います。



ただ、彼は「反共ではあるが、反中ではない」と微妙なことを言っていますので、最低ラインとしてオールドファッションな反共主義者であって欲しいものですが。
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Unknown (舎 亜歴)
2005-12-07 01:08:57
文中の馬英九氏も韓国のナショナリストのように「アジアの価値観」に取り憑かれたのでしょうか?この言葉は一見すると文化の多様性を訴えているようで、実は自由と民主主義を否定する思想だというのは90年代の東南アジアで明らか。



例の靖国問題で惜しげもなく日本支持を表明した外国の要人は李登輝元大統領くらいなので、これほどの親日国が中国に接近するのは見過ごせません。日本の政治家には神社に参拝するよりも台湾の引きとめに力を注いで欲しいくらいですが。
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反共ではあるようですが・・・・ (tsubamerailstar)
2005-12-04 15:31:32
>平凡会社員様



>就任後、天安門事件の名誉回復を要求し、法輪功を声援するほか、「反国家分裂法」を批判する立場は変わらず、「六四天安門事件の名誉回復をしなければ、統一の話に乗らない」と強調した。また、▽「中国共産党には反対するが、中国は反対しない」▽台湾独立へ反対▽「両側主義」の協議で両岸問題を平和裏に解決を図る、という台湾海峡両岸の「新中間路線」を主張した。



まぁ、こんなこと言ってはいますけどねぇ。

訪中に関しては、中共側はWelcome!のようですが、馬氏自身が慎重に・・・みたいなことを言っていたようです。



こいつの首に鈴つけられるのは石原都知事でしょう。何か仲いいみたいですよね。



【大紀元】台湾国民党新主席:「新中間路線」、反共だが反中ではない立場を堅持

http://www.epochtimes.jp/jp/2005/08/html/d51356.html
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ぶっちゃけ馬英九って何者でしょう? (平凡会社員)
2005-12-04 14:59:09
>馬氏も「反共」という路線を貫いてくれたらいいのですが、



「反国家分裂法」が成立したときは、それに反対する記者会見を開いたりしていましたよね。それから、本土派の「正名」運動に関しても「表立ってやらずにコソコソやるべきだ。」なんて助言していませんでしたか?石原都知事を訪問した際には、知事が(おそらく勝手に)青天白日旗を掲げてお出迎えしたり…

でも言ってることは常に「反日」なんですよねぇ。(領土と歴史認識!)単なる大陸向けリップサービスなんでしょうか?



なかなか大陸訪問がかなわないのは、「怪しい男だ」と思われているからなんですか?
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やれやれ・・・・ (tsubamerailstar)
2005-12-04 13:41:36
>平凡会社員様



>「げげっ…この世にそんなに支持されていない政党があるのぉ…!」と恐れおののいたものでした。



韓国の盧政権より悲惨ですよね。任期あと三年残してレームダック化という感じは避けられないのではないでしょうか。



この5年間は誰が舵取っても難しい局面だったかとは思います。対中進出に伴う産業構造の空洞化に雇用情勢の悪化。万年野党が与党になった際の経済オンチというのは万国共通の感もありますしねぇ。

住民投票や憲法改正に対しても米国は中台衝突回避という観点から不支持を表明しましたが、「米国に支持されない陳総統」という失望感が広がったのも不運でした。



馬氏も「反共」という路線を貫いてくれたらいいのですが、「一線を越えた」性急な中国接近は向こうのペースにはまる可能性が高いでしょうねぇ。



>tw_dot_com様



>やはり総統顧問陳哲男氏のギャンブル疑惑とかが痛かったのではないでしょうか?



直前に汚職だインサイダーだ、カジノだと芋づる式に出てきたら、事情がよく判らん私何かでもアングリしてしまいます。(汗)

TVBSの件も逆ギレに見えましたしね。
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Unknown (tw_dot_com)
2005-12-04 02:13:18
やはり総統顧問陳哲男氏のギャンブル疑惑とかが痛かったのではないでしょうか?

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日本はどう変化に対応すべきか? (平凡会社員)
2005-12-04 00:11:38
いろいろと情報を見るにつけ、与党はボロボロだったようですね。一時期支持率が19%(?!)まで低下しているという話を聞いて「げげっ…この世にそんなに支持されていない政党があるのぉ…!」と恐れおののいたものでした。



ところで、台湾の与党ってそんなに「無能」だったんですか?やはり商売上の問題がデカかったんでしょうか?少なくとも対岸に乗り込むことは不可能な政党ではありますし…



野党が政権を奪回した場合、(まぁそんなに反日に傾くとは思えないんですが…)日本はどのような対応をとるべきでしょうねぇ?「歴史問題」で馬英九が国共合作する可能性が考えられますが、実際には(積極的には)しないと思うんです。というのは、自民党と国民党は関係が深いですし、馬が騒ぐのはせいぜい、昔とった杵柄「尖閣」ぐらいじゃないでしょうか?

統一法に関しては、国民の間では知られていないということもあってかなり心配ですが、案外中・日の間で「バランサー」してくれるんじゃないか?などと期待もしています。(その場合はもちろん、危なっかしい韓国よりは断然頼りになるでしょう。)
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みたいですね! (tsubamerailstar)
2005-12-03 23:48:17
>平凡会社員様



>野党が14議席、与党が6議席・・・野党が大勝ですね。

馬英九さんは「無能」という意見も耳にしましたが、次期総統ぐらいにはなれそうな勢いですね。



私も先ほど帰宅して台湾のahoo!を見てみましたら、中国語は?ですが、地図で一目瞭然といった感じでした。(汗)



選挙と営業と戦争は結果が全てということでしょう。馬氏がよかったかというより与党が駄目すぎたのかもしれません。何れにせよ、自滅という感じのような気もしますね。



>ところで90年代の国民党政権下での「世紀の大スキャンダル」が発覚しましたが、これなども「時効」(ではありませんが)ということで、追及を免れるのでしょうか?



ラフィエット級駆逐艦とミラージュ2000のコミッション疑惑も、この選挙戦のためのネタとして持ち上がった感じでしたよね。それ自体は問題でしょうが、「15年前の国際スキャンダルより昨今のDPPの腐敗の方が問題だという判断だったんでしょうね」



何か我が国では思いもよらない部分もありますが、「民意」の反映であるのは間違いないでしょうし、私自身は中台の経済・通商関係が大きな争点だったように思います。



声高な台湾独立論を唱える向きもあるやに聞いておりますが、実体経済という視点を欠いているのは致命的かもですね。商売人が「Win-Win」の両岸関係を志向しているであろうことは間違いないと思いますし。

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ものすごい大差ですね。 (平凡会社員)
2005-12-03 23:29:05
野党が14議席、与党が6議席・・・野党が大勝ですね。

馬英九さんは「無能」という意見も耳にしましたが、次期総統ぐらいにはなれそうな勢いですね。



ところで90年代の国民党政権下での「世紀の大スキャンダル」が発覚しましたが、これなども「時効」(ではありませんが)ということで、追及を免れるのでしょうか?国民党は「統一法」の成立よりも先に、やらなければならないことが山積みっぽいです。できるんでしょうか?すでにかなりの部分で頓挫しているような気もするのですが。



温家宝がまたまた勝手に「靖国」を持ち出しているようですが、野党が勝って元気が出たとしたら短絡ですね。バクハツでてんてこ舞いの人は、余計なことは言わない方が賢明だと思います。
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