さきごろ仕事で佐久市を訪れた際に、訪れた場所の地形を頭に描きたいと、国土情報ウェブマッピングシステムのページから航空写真を閲覧していた。その写真は最近何度か触れている佐久市内山の滑津川沿いのものである。蛇行する滑津川沿いに水田が点在しているのだが、たまたま中村から相立地区あたりの写真を眺めていて、水田地帯に畦畔ではないラインが全域で満遍なく目だっていることに気がついた。畦が青々してはいるものの、水田に稲はまったく見えない。刈りとり後の水田とすれば、ラインはハザ(ハゼ)である。ちょうど南側から陽があたっていて、東西にハザが設けられているとその影が大きく映し出されている。
映し出された相立から中村東端までのハザを地形図に落としてみたものが冒頭の図である(赤いラインがハザ)。陽のあたり具合で東西方向のハザはくっきり映し出されているが、南北方向に設けられたハザは、写真からは読み取りにくいことかわかる。したがってハザを完全には再現できていないだろうが、わたしが意図したいことはなんとなくわかるのでこの再現図をもとにハザのことに触れてみる。
1.地形図と再現写真の概説
再現に利用したウェブ上の写真(写真の下部を横に流れている川が滑津川)は昭和50年(1975)に撮影されたものである。図の下側の山際に現在は国道のバイパスが開通しているが、その道はまだ写真にはない。ただ、よく見るとAからBにかけて現在の国道敷らしき部分が区割されているところから、すでに用地買収がされていたと予想される。また、BとCのブロックは、地形図の区画と写真の区画が異なっている。写真撮影後にほ場整備がされたと思われる。その規模は、区画が整形にされた程度で、水田が拡大化されていないことから、かなり小規模の整備だったといえる。Dの滑津川周辺は、写真より地形図の方がだいぶ川幅が広くなっている印象を受ける。今年もこの川沿いが水害に見舞われているが、写真撮影以降現在にいたるまでに、幾度となく災害に見舞われ、川幅が拡大されてきていることがわかる。
2.一般的なハザの設置位置
一般的にハザとはどういうところに作るのか、わたしの経験から触れておく。水田というのは、正方形ということはあまりない。長い辺と短い辺があるのが一般的で、長辺と短辺の比は1:3程度のものが普通である。そうした水田にハザを作る場合、長辺方向にハザを設けるわけで、もし短辺方向に設置するとハザの数が多くなることになる。連続していた方が刈った稲を集積する場合も、またハザそのものを作るのにも端部処理のことを考える回数が減るからハザの数は少ないにこしたことはない。また、同じ水田の中にハザが重なることで、風通しも悪くなる。基本的にはこのように作るのが〝普通〟である。
3.内山谷のハザから読み取る
図からも解るように蛇行した川に沿って水田が展開しているわけで、一般的ではあるが、川に沿って風が吹くということも頭に入れると、自ずと川に平行なハザとなる。もちろん地形も川に向かって傾斜するから、水田の長辺が川に平行にできるか、また直角にできるかによっても向きに変化が現れる。この谷の場合、滑津川の勾配がそれほど急ではないため、比較的川に沿って平行に水田ができている。これが川の傾斜がきつくなると、川に平行に長辺を設けることは難しくなる。また、この谷の場合、川から山の付け根までの傾斜が急ではない。したがって川に対して平行にできる畦畔もそれほど段差は大きくなく、山が接近してはいるものの、比較的平地であるということがいえるたろう。
ということで条件が恵まれている方だといえるわけで、地形に制約を受けずにハザを作ることができる。写真から判断すると、ハザの高さはそれほど高くなく、いわゆる一段掛けのハザのようである。前述したように川に平行にハザが設けられていることから、川に沿って吹く風で乾燥させようという意図が見える。その理由として、同じ田んぼにハザが重なって設置されているケースが目立つ。とくにCブロックにそうしたハザが目立つ。かなり接近して重複したハザが設けられていて、これでも乾きがよいとすれば、風は明らかに川に沿って吹いているものと思われる。
2.の一般的なハザの設置位置でも触れたように、長辺方向に設ける姿がここでも普通に見られる。Bブロック、Cブロックではそれが顕著に現れている。いっぽうAブロック、Dブロックにおいては、前者とは少し違う位置にハザが設けられている。Aブロックでは川に直角で、かつ短辺方向に設けているハザが目立つ。とくに川沿いのハザはすべて川に対して直角に向いている。重複していてもそういう向きが選択される意図はどこにあるのか。加えて現在の国道と旧道の間に挟まれた水田は、それらとはまた方向を異にして、南北に近く設置されている。水田の中を斜めに設置することにより、前述したようにハザの数を減らし長いハザを作ることができるが、このブロックの設置方法は異質で見ていていろいろなことが浮かんでくる。谷が東西方向を向いているため、川に沿って設置すると、自然と日当たりが良くなる。ところがこのAブロックは、南側の山に接近しているため、東西方向に設置したとしても日当たりが必ずしも良くないのではないだろうか。旧国道の両側の一帯は、そんな南側の山による日当たりの悪さを避けるために、西日のあたる面を重視しているようにも見える。
同様にDブロックときたらさらに不規則な並びをしている。Aブロックに比較すると、ずいぶんと開けた地形だけに、風が巻いているということも考えられる。西側で大きく蛇行している川のために、谷に沿わない風が吹くのかもしれない。この不規則でありながら、見方によっては風と日当たりを考えて微妙に変化するハザの姿を見ていると、長年の経験がそこにはあるのだろうと察知する。もうひとつ忘れてはならないのは、水田はみな同じ人が耕作しているわけではないということだ。耕作者のそれぞれの意図というものもあるだろうから、どの水田が誰のものかによっても推測できないハザの向きが現れる可能性がある。そして隣接する水田のハザの設置し方によって風向きが微妙に変化することもあるだろう。
基本的には長辺に平行に、そしてハザを重ねることなく設置するのが普通なのだろうが、地形に制約を受けるということを目の当たりにする写真である。今ではどうなっているのか、そんな写真でもあれば比較できるのだろうが、印象ではこの当時に比較すれば転作、あるいは荒廃している土地も多いだろう。たまたまこの地域はまだまだハザを作っているようだが、まったくハザの姿を消したような地域では、貴重なハザ突き(わちしの住む地域ではハザを作ることをそう呼ぶ)の資料となるだろう。
中条村の土尻川沿いの水田を整備した際に、水田の区画を南北方向に区画できないか、という話しがあった。現状をみると、確かに南北方向に長辺をとっている水田もあったが、必ずしもそういう水田ばかりではなかったのだが、その意図するものは、ハザを作る向きにあった。南北に区画するとなると、ハザの向きは東西になるわけで、日当たりが良くないのでは、という印象を受けたのだが、そうではないという。ちょうど土尻川が大きく蛇行する場所で、川とその川が形成した地形が微妙な気候の変化をもたらしているようなのだ。
ネット上でこうした航空写真がいくつか公開されている。年代を追うことのできるものもあるようだが、そんな写真を眺めていると、農業主体時代の姿をよみがえらせることができることを知った。
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