東京ではすっかり散ってしまった桜も
秩父の山里では今が盛り
日本列島は春の嵐で
あいにくの天気ではあるが
温泉に浸かってシャワーのように降り注ぐ雨の音に
耳を傾けるのもまた良し
ときおりウグイスも鳴いているではないか
枝垂れ桜の左下に
ほらサテュロスも
花を見に来ている
自分はシャワーを浴びている
浴室の磨り硝子様の扉の向こうに人がいて
アーとかウーとか言っている様子
という短いシーンのみで目が覚めた
一瞬、実家の父親の身に何かあったかな?
と思ったけれど
なんの連絡もないので
違うかと思いそのまま
まあシルエットもなんか女性っぽかったしな
と思っていたら
今日
朝の会議で
他のフロアに異動した職員Sが
昨日
交通事故で
亡くなったと聞いた
ネットで検索すると
ニュースにもなっていた
仲も良かった訳では無いが
何なら喧嘩もした相手だが
それでもショックだ
一昨日
会社の近くの駅の前で一緒になって
「これから歯医者に行くんだ」
と言っていた
まあ付き合いはそこそこ長い職員だった
だから
もしかしたら
その人が
何か伝えたくて
夢枕に立ったのかな
とも思う
直接姿を見せなかったのは
彼女なりに
気を使ってくれたのかもしれない
御冥福をお祈りする
マスターが肋を折って休業していた
行きつけのビール屋が
開いているというのを聞きつけたので
仕事帰りに寄って酒飯した
帰宅して
洗濯機を回し
お風呂のお湯を溜めて
ちょっと横になったら
眠り込んで
見た夢
曰く
人は物事に
思い惑うことがなくなるものらしい
でも
今も迷うことばかりだ
気持ち的には
まだ二十代、三十代なんだけど
まあ
おこがましいんだけど
私は今も
自分は青春時代を生きている
と思っている
恋を忘れた時
人は老いるのだ
不惑の身も
心は恋に
惑いけり
恋するうちは
青春の内
z
その人が
他の異性と話しているのを見るだけで
胸が苦しくなる
その人を見ていたいのだけど
辛くなるから
見ていたくない
仕事にかこつけて
話しかけるのだけど
本当に話したいことは
もっと別のことだ
過去に何度も
恋を叶えてきたけれど
今はうまくできない
魔法を忘れた妖精のようだ
まるで
私は
z
混むだろうなとは思ったけれど
上野公園に桜を見に行った
日曜日で
昨日は雨で今日は晴れたこともあり
なかなかの人出だった
いつも不忍池の傍の細道を通って
弁天島に行くのだけど
今日は人があまりにも多くて
引き返した
一人で見に行ったこともあって
写真を撮って
そそくさと立ち去った
そのまま上野から銀座線に乗り浅草へ
こちらも水上バスの乗り場は長蛇の列
隅田公園の桜はまだ五分咲きといったところ
しかし難民キャンプみたいに人が多かった
のんびり桜を楽しむ雰囲気ではなかった
そのまま歩いてソラマチまで
途中でヘアピンとイヤリング(どちらも露天の2〜3000円のもの)を買った
ソラマチではスカイツリーの絵柄のポチ袋を買った
そして家路についたのだった
やっぱり我慢できなくて今朝きいちゃった
出勤してすぐ
朝の申し送りが始まる前
たまたまトイレ誘導していたその人に
「この職場に恋人がいるの?」
やや驚いたように
意外なことを質問されたという顔で
「いません」
との返事
「え、誰と恋人だと思いますか?」
と聞かれたので
「Fさん」
と伝えた
その人はさらに驚いたように何度も
「Fさん? Fさんですか?」
と言うのでそうだと答えると
「だってFさんは結婚してますよ、そしたら不倫じゃないですか」
そうだね、と答えると
少し笑いながら
「私は不倫は興味ないです」
と否定されたのだった
なんでそう思ったのかと聞かれたので
わざわざ会社の近くから遠くに
(Fさんの最寄り駅と同じ駅のところ、とは敢えて言わなかったけど
私の情報では二人の家の距離は800メートルくらい、これも敢えて言わなかったけどね)
引っ越したのはそういう理由があったからかなと思った
と伝えた
それに対しても
自分はFさんが異動してきてから始めて知り合ったので
引っ越した時にはまだFさんとは面識がなかった
というようなことを言われた
なるほど
本当は話をする時にマスクを外してもらって
表情を見たかったのだけど
聞くときにはなるべく軽く
サラッと訪ねたほうが
気まずくならなくていいかなとも思ったので
あまり深刻な雰囲気にならないように気をつけた
そうなんだ
勘違いだったのかな
あまり気にしないでね
お返しにというわけじゃないけど
Lさんも私に何か質問してもいいよ
重大な秘密を教えてあげよう
こんな感じで笑って終わった
言葉通りに受け取ることにした
とりあえずそれで
ここ数日のずっとドキドキしていたのは
(本当にずっと脈が速かった)
は治まったので
心が落ち着いたのだと思う
まあそれで私とその人(Lさん)
の関係が近づいたわけではなかったが
私は少し落ち着いて
仕事に集中できる状態に戻った
そのあとは普通に会話した
帰りがけにゼリー飲料を(そのために買ってきたんだけど)
お土産にあげた
いつも
「気を使わないでください」
と言われるのだが
いつものごとく強いて手渡した
「かばんの重しにしてください」と
私の戦いは続く
春風に震える胸よ
咲きもせで
散らすものかと
ここ恋の恋
最後の行だけいい文句が思いつかない
z
この職場の中に恋人がいるんでしょ?
そしてそれは〇〇さんなんでしょ?
とはやはり聞けなかった
昨夜その事に思い至り
ドキドキして眠れなくて
明日会ったら
その事を聞かずには居られないような思いで
今日も職場でその人が来るまで
体が震えるような興奮で
人の話も半分うわの空で
しかし夜勤で来たその人の顔を見て
声を聞いたら
嫉妬よりも嬉しさが勝って
いっぺんに私は引き寄せられて
心は穏やかになって
「お茶ちょうだい」
その人のお茶をもらって淹れて自分も飲んで
聞きたいことがあるんだけど
しょうもないことなんだけど
とまでは話したけれど
聞くぞ聞くぞと
今日何回もシュミレーションした質問は
やっぱり口にできなかった
まだ確証はない
私がそう思っているだけだ
わざわざ職場から遠くに引っ越したのって
そういう理由だからだよね
だって同じ駅だもんね
って言って問い詰めたいと思っていたけど
でも
いつもと変わらないその人を見ていたら
言えなかった
晩年のゴルトムントのように
傍目にも
私の言動は滑稽に映るかもしれない
キモいと思われているのかもしれない
わかってるよ
たとえ八割がた負けると知っていても
それでも気持ちを伝えていくしか
できないんだもの
恋をすると私はこんなにも弱くなる
本来の力の半分も出せなくなる
でもこの胸の痛みこそが生きている証明なのだ
私はこの胸の痛みが好きだ
z
退所する利用者さんやそのご家族から
「あなたも一緒に来てよ」
「おりかなさんも連れていきたい」
とか言われるのは
私に対する
多分最高の評価だと思う
「ずっとこの施設にいたかった」
などというふうに言ってもらえることが
最高の評価なのだ
それは見えない勲章なのだ
上司からの評価やお給料などとはまた別の
そしてこれがあるから
介護の仕事は続けられるのだと思う
「あなたも一緒に来てよ」
「おりかなさんも連れていきたい」
とか言われるのは
私に対する
多分最高の評価だと思う
「ずっとこの施設にいたかった」
などというふうに言ってもらえることが
最高の評価なのだ
それは見えない勲章なのだ
上司からの評価やお給料などとはまた別の
そしてこれがあるから
介護の仕事は続けられるのだと思う