
この職場の中に恋人がいるんでしょ?
そしてそれは〇〇さんなんでしょ?
とはやはり聞けなかった
昨夜その事に思い至り
ドキドキして眠れなくて
明日会ったら
その事を聞かずには居られないような思いで
今日も職場でその人が来るまで
体が震えるような興奮で
人の話も半分うわの空で
しかし夜勤で来たその人の顔を見て
声を聞いたら
嫉妬よりも嬉しさが勝って
いっぺんに私は引き寄せられて
心は穏やかになって
「お茶ちょうだい」
その人のお茶をもらって淹れて自分も飲んで
聞きたいことがあるんだけど
しょうもないことなんだけど
とまでは話したけれど
聞くぞ聞くぞと
今日何回もシュミレーションした質問は
やっぱり口にできなかった
まだ確証はない
私がそう思っているだけだ
わざわざ職場から遠くに引っ越したのって
そういう理由だからだよね
だって同じ駅だもんね
って言って問い詰めたいと思っていたけど
でも
いつもと変わらないその人を見ていたら
言えなかった
晩年のゴルトムントのように
傍目にも
私の言動は滑稽に映るかもしれない
キモいと思われているのかもしれない
わかってるよ
たとえ八割がた負けると知っていても
それでも気持ちを伝えていくしか
できないんだもの
恋をすると私はこんなにも弱くなる
本来の力の半分も出せなくなる
でもこの胸の痛みこそが生きている証明なのだ
私はこの胸の痛みが好きだ
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ヘルマン・ヘッセの【ナルシスとゴルトムント】の
ゴルトムントですか?
そのとおりです
美少年の頃、何もしなくても自然と異性を惹きつけることのできたゴルトムントが、ある時からまったく異性に相手にされなくなります
不思議に思ったゴルトムントが小舟から水面を覗くと
そこには
いつの間にか年老いた自分の顔が映っていた
という話ですが
鏡に映った自分を見て、いつの間にか老けたなあと感じる今日このごろです