マルセルは、
バンドを組んでカフェで演奏している
ソルボンヌ大生達や、デュポン先生のような
一般の愛好家集団の所へと行ったり、
個人のサロンや私設楽団、そして当時最も勢いのあった
演奏会コンセール・スピリテュエルの
マネージメント部門にも聞いてみましたが、
先輩エドゥアール・トゥーザンの行方は分かりませんでした。
ハリソンさんが歌っているのは、
18世紀の中頃にパリで人気のあったモンドンヴィル
作曲の「深き淵より」の終曲からで、
元々は葬儀のために作曲されたものですが、
出来栄えの素晴らしさが絶賛され、
その後もコンセール・スピリテュエルで度々演奏された
との事です。
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ゆっくりなテンポで重々しく、
葬送の鐘の音がバックに聞こえて来るような
冒頭の部分。
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途中からテンポが速くなり、突っ走った後に迎える、
ラストの部分。
歌詞は聖書の詩篇第130篇。
終曲にはモーツァルト作曲「レクイエム」の
入祭文の頭2行と同じ文を足し、作曲されています。
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同じく「深き淵より」の中からは、
第6話「カフェ・ブルトン」でデュポン先生が、
第4曲「朝の見張りから夜まで」を
現在では使われていない、
C管クラリネットで吹いています。
小さく書いているある部分は、上の休符2つが
クラリネットパート、下の音符はチェロパートです。
デュポン先生はインストゥルメンタル用に
編曲しているし、ハリソンさんはメロディを
自分で歌いやすいように変えているので、
掲示されている楽譜は、モンドンヴィルが
書いた物を正確には再現していません。
マルセルがイタリアの話を聞いた相手は、
レオポルド・モーツァルト氏で、
この物語の第1話冒頭よりも少し前に
カレー市の英国ホテルで出会っていました。
ハリソンさんは第16話「天才少年と手紙」で、
話の通り、居候先のシンプソン夫妻とモーツァルト少年の
コンサートに出かけています。
そして少年が「トリストラム・シャンディ」のテーマ曲
「リラブレロ」をクラヴィアで弾くのを聴いて
ギョッとする場面があります。
18世紀中頃のフランスの音楽界では、ルクレールや
大御所ジャン・フィリップ・ラモー(この人がディドロ作
「ラモーの甥」の主人公〈ラモーの甥〉の伯父さん)が
活躍していました。
後にマルセルがオーディションで吹く事になる
曲の作曲者で、フルート奏者のミシェル・ブラヴェもいました。
でもその人達は、現代ではフランス・バロック音楽の
愛好家の間では人気があっても、
一般には曲も名前も知られていません。
誰もが知っている18世紀由来の曲といえば、
何と言ってもモーツァルトが編曲した事で、
現在は「きらきら星」の歌詞が
付いて残っている曲と、
元になった曲がこれの
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「むすんでひらいて」だと思われます。
元になった曲は哲学者として有名なルソーの作曲で、
「村の占い師」という、当時大人気を博した
可愛らしい劇に付けられた音楽中の一曲。
この曲が様々な過程を経て、
現在知られている「むすんでひらいて」になったのです。
次回は第23話の最終回