■1月28日/ファンタジー・スプリングス・カジノ(カリフォルニア州インディオ)/WBC世界S・フェザー級指名挑戦者決定12回戦
前王者/1位 三浦隆司(帝拳) VS WBC2位 ミゲル・ローマン(メキシコ)

昨年暮れ(12月17日)、イングルウッド・フォーラムで予定されていたオルランド・サリドとの対決が流れてしまい、2016年は5月の再起戦1試合のみに終わった三浦。
サリドとのマッチメイクは、三浦がベルトを保持していた2014年の春にも一度具体化しており、ゴロフキン VS チャベス・Jr.戦のアンダーで挑戦を受ける予定だったのに、周知の遠りチャベス・Jr.が撤退してしまった為、興行(トップランクとK2プロモーションズの共催)そのものが消滅。
勇猛果敢に打ち合うサリドは、三浦とは間違いなく手が合う。"ボンバーレフト"が炸裂する確率は高く、豪快なKO決着に期待が高まっていた分、(2度目の)中止の一報を聞いたファンの落胆にも小さからぬものがあった。
サリドが降りた理由は、練習中の怪我。嘘か真かは別にして、ロッキー・マルティネスとの2連戦(2015年4月&9月/1敗1分け)に続き、昨年6月のフランシスコ・バルガス戦(ドロー)は、リング・マガジンのファイト・オブ・ジ・イヤーを受賞する激闘となり、いくらタフが売り物のサリドとは言え、36歳の心身には相当な負担にもなっている筈。
再起戦でいきなり豪打の三浦とやるのは、流石にリスクが高過ぎると判断したのかもしれず、止むを得ないとの印象が脳裏を過る反面、「サリドを豪快に倒してバルガスとの再戦へ」と向かう流れが、一気に堰き止められた感もあり、「また手頃なアンダードッグを選んで、前哨戦と称するチューンナップでお茶を濁すしかないのか。」と、がっかりさせられたのも事実。
ところがどっこい、本田会長のリアクションは実に素早く、失望を隠せないファン心理を見透かすかのように、年明けのエリミネーターを手際良くまとめ上げてしまう。
それもなんたることか、リベンジを目指すフランシスコ・バルガスの復帰興行に、セミ格として組み込んでしまったのだから、お見事の一言。いざとなったら、殿堂入りに恥じない仕事の速さと手並みの鮮やさを発揮するセニョールに、こちらはもうシャッポを脱ぐしかない。
そしてその対戦相手が、あのミゲル・ローマン(ベテランの域に入った手練れの中堅)だと知って、2度びっくり。
三浦と同じ2003年、18歳でプロデビューしたローマンが、トップ戦線に顔を出して活躍していたのは、2010年~2012年にかけてのことだった。
S・バンタム級でスタートした後、すぐにフェザー級に階級を上げて、最初の4年間で22連勝(14KO)をマーク。2007年8月、フィリピン・パワーの一翼を担っていたマイケル・ドミンゴとの6回戦に臨み、奮闘及ばず判定負けを喫して初黒星。さらに同年12月には、日本で長谷川穂積と西岡利晃に挑戦した、同胞のヘナロ・ガルシアに12回判定負け。
無名選手相手に2連勝で持ち直したかと思いきや、2008年にはホルヘ・ソリス(ガンボアと内山にKOされた暫定王者)、エデュアルド・エスコベド、フェルナンド・ベルトランに3連敗。
いずれも判定勝負まで持ち込み、なおかつ一方的に敗れた訳ではないが、2009年~10年にかけて、ミゲル・ベルトラン・Jr.とアントニオ・エスカランテに連敗するなど、同じメキシカンのホープや中堅どころを相手に、いいところまで粘りながら、あと数歩のところで突破できずに苦しんでいた。
しかし、この後5連続KO勝利で復調すると、2011年3月に初の世界タイトルマッチが実現。遥々アルゼンチンまで遠征し、ジョナサン・バルロスが保持するWBAフェザー級の正規王座に挑戦したが、明白な0-3判定に退く。
帰国後S・フェザー級にさらなる増量を敢行。4連勝(3KO)して再浮上するも、2度目のラスベガス登場で、ハビエル・フォルトナに判定負け(2011年12月)。フォルトナ戦の僅か3ヶ月後には、我らがリナレスとの決定戦で劇的な逆転TKO勝ちを収めて、WBCライト級王座に就いたアントニオ・デマルコからお呼びがかかり、133ポンドまで増やして初防衛を献上(2012年3月/メキシコ国内)。
フェザー級でも小柄な部類に入るローマンに、ライト級での挑戦は荷が重過ぎた。10度目の敗戦で、遂に初めてのKO負け(第5ラウンド)。
この時点におけるローマンは、いわゆる"善戦マン"の典型であり、母国と米本土を往復しながら階級を問わずに戦い、人気者の王者やホープに白星を配給する役回りと表して間違いない。
ルーベン・オリバレス,Zボーイズ(カルロス・サラテとアルフォンソ・サモラ),ダニー・ロペス,フリオ・セサール・チャベスらに象徴される、数多のトップスターを輩出し続けてきたメキシコには、有力選手を抱えるプロモーターに重宝される、タフで使い減りしない中堅どころが数多く存在する。ローマンもまた、そうした一群の中で踏ん張り続ける1人だった。
力の落ちてきた元王者や、プロの筋金がいまいち入り切っていない若手のプロスペクトが、叩き上げのベテラン中堅選手に足下をすくわれ取りこぼす。ボクシングの世界では日常茶飯的に起こり得るアップセットを、ローマンもこの後やってのける。
デマルコにKO負けしてから4ヶ月後(2012年7月)、翌年日本で三浦に挑戦するダンテ・ハルドンに2-1の10回判定勝ち。プエブラで玉越強平(千里馬神戸)と対戦して、よもやのTKO負けに退いたメヒコのホープは、再起の途上にあった。
試合内容は拮抗しており、判定に納得できないハルドン陣営が抗議。3ヶ月後にはハルドンの地元メキシコシティで再戦が組まれ、大差のユナニマウス・ディシジョンでホープが雪辱に成功。「3歩進んで2歩下がる」ではないが、ローマンのキャリアはなかなか思い通りに進捗しない。
またもや無名選手相手のローカル・ファイトから地道にやり直し、2013年11月、遂にキャリア最大の勝利を上げる。リナレスを初回KOに屠る大番狂わせでWBA王座に就き、内山高志に倒されてその座から降りた後、IBFで返り咲きを果たしたファン・カルロス・サルガドを11回TKOに退けた。
2011年9月、アルヘニス・メンデスを3-0判定に退け、赤いベルトを腰に巻いたサルガドは、ミゲル・ベルトラン・Jr.(2回ノーコンテスト/バッティング)、マルティン・オノリオ(2-0判定)、ジョナサン・バルロス(3-0判定)から3度び王座を守ったが、2013年3月、前王者メンデスとのリマッチで4回KO負け。135ポンドのライト級契約で組まれた復帰戦に抜擢されたのが、ローマンだった。
翌2014年6月、34歳になったダニエル・ポンセ・デ・レオン(元WB0 J・フェザー,WBCフェザー級王者)を9回TKOに屠り、引退へと追い込む。
2015年4月、三浦にKO負けした直後のエドガル・プエルタに判定勝ちを収め、昨年4月にはスペインへ渡り、欧州(EBU)王者のジュリ・ジネに8回TKO勝ち。ハルドンとの再戦に敗れて以降の4年間は、負け無しの16連勝(10KO)と波に乗っている。
コンパクトなガードをセミ・クラウチングの構えにまとめ、上体と頭を振りながら前進を繰り返し、的を絞らせない工夫を怠らず、手堅く守りながらコンビネーションで崩し続け、相手が根負けして音を上げるまでしぶとく食い下がる。
パワーやスピードに特別秀でいてる訳ではなく、体格にも恵まれなかったが、頑丈な肉体と旺盛な闘争心&スタミナを武器に、粘り強い波状攻撃で圧力をかけ続け、最終的にギブアップさせるのがローマンの持ち味。
スター性やカリスマ性にも縁遠く、才気走ったボクシングはできない。しかし、実戦で鍛え上げた攻防の技術と勝負勘は確かなもので、ボディワークとブロック&カバーを巧みに操り、サイズの不利を有利に変えて、致命的な被弾から身を守る術もしっかり身に付けている。
同じプロ13年生という点のみならず、質実剛健な戦い方には三浦と同じタイプの匂いが漂う。1発の破壊力は、当然三浦に軍配が上がるものの、接近戦でのディフェンスやショートパンチの精度と練れ方なら、ローマンに一日の長がある。正面に立って白兵戦に応じてしまうと、サルガドやダニエル・ポンセの二の舞になりかねない。
偶発的なヘッドバットやラビットパンチに対して、レフェリーにしつこくアピールして時間を稼いだり、勢いよく踏み込む際の体当たりや、揉み合いに持ち込んで肘や肩、頭をぶつけるマリーシアにも抜け目がなく、甘く見ると痛い目に遭う。
サリド戦に備えて強化したというステップワークに加えて、至近距離での大きな課題だったディフェンス(ムーヴヘッドの徹底)に、どれほどの修正が行われているのか。
最も避けたいのは、上体を直立したまま打ち合いにのめり込む展開。最悪の場合、バルガスとの再戦どころではなくなる。
右サイド(ローマンの左サイド)へ斜めに切り込むように踏み込み、死角からの右フックで態勢を崩し、左ストレートを打ち抜くパターンがドンピシャ当たりそうな気もするけれど、頭を振らずに直進して左を狙い過ぎると、左(フック&アッパー)の連射から右の強打を続けるコンビネーションで逆襲されるだろう。
クリンチ&ホールドの離れ際にも、充分な注意が必要。レフェリーが割って入ってきても、安心してガードを解くのは厳禁。狡賢しさも含めて、競ったラウンドを凌いで勝負を引き寄せる駆け引きに関する限り、同じ実戦叩き上げでも日本人はメキシカンに及ばない。
クリーン・ファイトありきのジャパニーズ・スタイル・オンリーでは、容易に撃退できないと思う。
カンクンでセルヒオ・トンプソンからベルトを守り、ハルドン,プエルタ,バルガスらと拳を交えた三浦なら、「好戦的=真っ向勝負」ではないことを、他の誰よりも骨身に染みて熟知している筈と信じつつも、一筋縄ではいかない曲者だけに、くれぐれも油断は禁物。距離が近づくと下から思い切り振ってくる為、左ストレートやフックの打ち終わりの処理はとりわけ丁寧に。
迂闊に揉み合いに付き合うと、バッティングでのカットをヒッティングと取られてしまい、カンクンでセルヒオ・トンプソンにやられたリナレス同様、予期せぬ出血TKO負け(主審と立会人にリングドクターまでがクルになった伝統的なメキシカン・トラップ)もあり得るぐらいの覚悟と準備で丁度いい。
◎三浦(32歳)/前日計量:129ポンド3/4
戦績:35戦30勝(23KO)3敗2分け
身長:169センチ,リーチ:177.5センチ
◎ロマン(31歳)/前日計量:129ポンド1/4
戦績:67戦56勝(43KO)11敗分け
身長:165センチ,リーチ:センチ
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□オフィシャル:未発表
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□直前のオッズ
<1> 5dimes
三浦:-120(約1.8倍)
ローマン:-120(約1.8倍)
<2>BOVADA
三浦:-125(1.8倍)
ローマン:-105(約1.95倍)
身銭を切って賭けに打ち興じるマニアは、良く見ている。直前の賭け率は、ほぼ互角。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
■メイン及び主なアンダーカード
<1>WBC世界S・フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 フランシスコ・バルガス(メキシコ) VS 暫定王者 ミゲル・ベルチェルト(メキシコ)

三浦から王座を奪ったバルガスが、昨年6月のサリド戦以来となる実戦復帰。暫定王者ベルチェルトを迎えて、2度目の防衛戦に臨む。
最近は米本土に腰を据え、GBPの仕切りで戦っているバルガスに対して、メキシコ最大手の興行会社ザンファー(サンフェル)の傘下に収まり、ボブ・アラムの盟友,フェルナンド・ベルトランが手掛ける母国での興行に出場を続けたきたベルチェルト。
サリド戦を終えてダメージと疲労が癒えないバルガスが、「長めの休養が欲しい」と宣言するや否や、WBCは即座にベルチェルトに暫定王座戦を認め、昨年7月メキシコにチョンラターン・ピリャピンヨー(タイ)を招聘し、4回KOに切って落とす。
勝敗のカギを握るのは、一にも二にも、バルガスの回復具合。2015年の三浦戦に続き、2年連続でサリド戦がリング誌のファイト・オブ・ジ・イヤーに選ばれたが、栄誉の代償は小さくなかった模様。
公開練習では元気な姿を見せたとのことだが、ダメージと疲労が抜け切れていないまま、真正面からの打撃戦に雪崩れ込むと、ベルチェルトの強打に凱歌が上がる可能性も充分。単純に実力(地力)を比較するだけなら、正規王者の優位は動かないとは思うけれど・・・。
◎バルガス(32歳)/前日計量:129ポンド3/4
戦績:25戦23勝(17KO)2分け
身長:173センチ,リーチ:178センチ
◎ベルチェルト(25歳)/前日計量:129ポンド1/2
戦績:31戦30勝(27KO)1敗
身長:170センチ,リーチ:180センチ
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<2>150ポンド契約10回戦
サダム・アリ(米) VS ホルヘ・シルバ(メキシコ)
昨年3月、ジェシー・バルガスとのWBO王座決定戦によもやの9回TKO負け。プロ初黒星を喫して1歩後退したアリが、5年前の秋に亀海喜寛と引き分けた中堅メキシカンを相手に、再起第2戦を行う。
ライト級の代表として北京五輪に参加(初戦敗退)。米国史上初となる、イスラム系移民(ルーツはイエメン)のオリンピアンとなったアリは、GBPと契約して2009年年明け早々プロデビュー。
4回戦からスタートし、じっくり時間をかけてプロの水に慣らしてきたが、GBPの基本路線でもある「慎重過ぎるマッチメイク」が、まさしく仇となった格好。
一方のシルバは、亀海と引き分けた後、アルフレド・アングロに判定負け。格下相手に1勝を上げた後、2013年~2016年にかけて6連敗。ジョシュア・クロッティ,パブロ・カノ,ハビエル・プリエトらの著名選手も含まれるが、無名の中堅にも敗れている。
さらに、2015年から昨年にかけて3連敗。不運な採点だったとは言いながら、亀海はこのレベルに勝ち切れなかったのかと、本場アメリカが誇る中量級の壁の厚さと高さをあらためて実感。
順当なら、アリが無理せず安全策に徹して、ワンサイドの判定勝ち。シルバのモチベーションとコンディション次第では、中盤~後半にかけてのレフェリーストップも有りか。
アリが一番怖いのは、シルバのパンチよりも油断。調子に乗って気を抜く癖が、なかなか抜けない。
◎アリ(28歳)/前日計量:148ポンド3/4
戦績:24戦23勝(13KO)1敗
身長:175センチ,リーチ:185センチ
◎シルバ(24歳)/前日計量:150ポンド
戦績:36戦22勝(18KO)12敗2分け
身長:170センチ,リーチ:183センチ
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<3>S・ミドル級10回戦
トゥレアノ・ジョンソン(バハマ) VS アントニオ・グチェレス(メキシコ)
ミドル級で挑戦を目指すジョンソンも、北京五輪出身組み(ウェルター級/ベスト8敗退)。2014年4月、カーティス・スティーブンスとのプロスペクト対決で、まさかの10回KO負け。長い回り道を余儀なくされた。
10歳年下のメキシカンを相手にしたチューンナップだが、5ポンドのウェイト・ハンディも含め、内容を問われる一戦。
◎ジョンソン(32歳)/前日計量:164ポンド
戦績:20戦19勝(13KO)1敗
身長:178センチ,リーチ:187センチ
◎グチェレス(22歳)/前日計量:159ポンド
戦績:24戦21勝(9KO)2敗1分け
身長:178センチ,リーチ:188センチ
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<4>WBCユースS・フェザー級タイトルマッチ8回戦
ラモント・ローチ・Jr.(米) VS アレハンドロ・バルデス(メキシコ)
ナショナル・ゴールデン・グローブスやナショナルPALで活躍したローチは、身体能力に恵まれた黒人サウスポー。
それにしても、男子の8回戦にタイトルマッチを承認するのはいかがなものか。ユース・タイトルなのに、対戦相手は遠の昔に下り坂に入った33歳のメキシカン。アレハンドロ・バルデスと聞いて、「おやっ?」と思った人は記憶力がいい。
2008年秋に来日し、バンタム級時代の長谷川穂積に2回でし止められた、長身痩躯のパワーファイターだ。S・バンタムからフェザーに上げて戦っていたが、2011年暮れの試合を最後に一度は引退。2015年9月、130ポンドでカムバックしていた。
◎ローチ(21歳)/前日計量:130ポンド
戦績:12戦全勝(4KO)
身長:170センチ,リーチ:173センチ
◎バルデス()/前日計量:132ポンド1/2
戦績:戦勝(KO)敗分けNC
身長:センチ,リーチ:センチ
前王者/1位 三浦隆司(帝拳) VS WBC2位 ミゲル・ローマン(メキシコ)

昨年暮れ(12月17日)、イングルウッド・フォーラムで予定されていたオルランド・サリドとの対決が流れてしまい、2016年は5月の再起戦1試合のみに終わった三浦。
サリドとのマッチメイクは、三浦がベルトを保持していた2014年の春にも一度具体化しており、ゴロフキン VS チャベス・Jr.戦のアンダーで挑戦を受ける予定だったのに、周知の遠りチャベス・Jr.が撤退してしまった為、興行(トップランクとK2プロモーションズの共催)そのものが消滅。
勇猛果敢に打ち合うサリドは、三浦とは間違いなく手が合う。"ボンバーレフト"が炸裂する確率は高く、豪快なKO決着に期待が高まっていた分、(2度目の)中止の一報を聞いたファンの落胆にも小さからぬものがあった。
サリドが降りた理由は、練習中の怪我。嘘か真かは別にして、ロッキー・マルティネスとの2連戦(2015年4月&9月/1敗1分け)に続き、昨年6月のフランシスコ・バルガス戦(ドロー)は、リング・マガジンのファイト・オブ・ジ・イヤーを受賞する激闘となり、いくらタフが売り物のサリドとは言え、36歳の心身には相当な負担にもなっている筈。
再起戦でいきなり豪打の三浦とやるのは、流石にリスクが高過ぎると判断したのかもしれず、止むを得ないとの印象が脳裏を過る反面、「サリドを豪快に倒してバルガスとの再戦へ」と向かう流れが、一気に堰き止められた感もあり、「また手頃なアンダードッグを選んで、前哨戦と称するチューンナップでお茶を濁すしかないのか。」と、がっかりさせられたのも事実。
ところがどっこい、本田会長のリアクションは実に素早く、失望を隠せないファン心理を見透かすかのように、年明けのエリミネーターを手際良くまとめ上げてしまう。
それもなんたることか、リベンジを目指すフランシスコ・バルガスの復帰興行に、セミ格として組み込んでしまったのだから、お見事の一言。いざとなったら、殿堂入りに恥じない仕事の速さと手並みの鮮やさを発揮するセニョールに、こちらはもうシャッポを脱ぐしかない。
そしてその対戦相手が、あのミゲル・ローマン(ベテランの域に入った手練れの中堅)だと知って、2度びっくり。
三浦と同じ2003年、18歳でプロデビューしたローマンが、トップ戦線に顔を出して活躍していたのは、2010年~2012年にかけてのことだった。
S・バンタム級でスタートした後、すぐにフェザー級に階級を上げて、最初の4年間で22連勝(14KO)をマーク。2007年8月、フィリピン・パワーの一翼を担っていたマイケル・ドミンゴとの6回戦に臨み、奮闘及ばず判定負けを喫して初黒星。さらに同年12月には、日本で長谷川穂積と西岡利晃に挑戦した、同胞のヘナロ・ガルシアに12回判定負け。
無名選手相手に2連勝で持ち直したかと思いきや、2008年にはホルヘ・ソリス(ガンボアと内山にKOされた暫定王者)、エデュアルド・エスコベド、フェルナンド・ベルトランに3連敗。
いずれも判定勝負まで持ち込み、なおかつ一方的に敗れた訳ではないが、2009年~10年にかけて、ミゲル・ベルトラン・Jr.とアントニオ・エスカランテに連敗するなど、同じメキシカンのホープや中堅どころを相手に、いいところまで粘りながら、あと数歩のところで突破できずに苦しんでいた。
しかし、この後5連続KO勝利で復調すると、2011年3月に初の世界タイトルマッチが実現。遥々アルゼンチンまで遠征し、ジョナサン・バルロスが保持するWBAフェザー級の正規王座に挑戦したが、明白な0-3判定に退く。
帰国後S・フェザー級にさらなる増量を敢行。4連勝(3KO)して再浮上するも、2度目のラスベガス登場で、ハビエル・フォルトナに判定負け(2011年12月)。フォルトナ戦の僅か3ヶ月後には、我らがリナレスとの決定戦で劇的な逆転TKO勝ちを収めて、WBCライト級王座に就いたアントニオ・デマルコからお呼びがかかり、133ポンドまで増やして初防衛を献上(2012年3月/メキシコ国内)。
フェザー級でも小柄な部類に入るローマンに、ライト級での挑戦は荷が重過ぎた。10度目の敗戦で、遂に初めてのKO負け(第5ラウンド)。
この時点におけるローマンは、いわゆる"善戦マン"の典型であり、母国と米本土を往復しながら階級を問わずに戦い、人気者の王者やホープに白星を配給する役回りと表して間違いない。
ルーベン・オリバレス,Zボーイズ(カルロス・サラテとアルフォンソ・サモラ),ダニー・ロペス,フリオ・セサール・チャベスらに象徴される、数多のトップスターを輩出し続けてきたメキシコには、有力選手を抱えるプロモーターに重宝される、タフで使い減りしない中堅どころが数多く存在する。ローマンもまた、そうした一群の中で踏ん張り続ける1人だった。
力の落ちてきた元王者や、プロの筋金がいまいち入り切っていない若手のプロスペクトが、叩き上げのベテラン中堅選手に足下をすくわれ取りこぼす。ボクシングの世界では日常茶飯的に起こり得るアップセットを、ローマンもこの後やってのける。
デマルコにKO負けしてから4ヶ月後(2012年7月)、翌年日本で三浦に挑戦するダンテ・ハルドンに2-1の10回判定勝ち。プエブラで玉越強平(千里馬神戸)と対戦して、よもやのTKO負けに退いたメヒコのホープは、再起の途上にあった。
試合内容は拮抗しており、判定に納得できないハルドン陣営が抗議。3ヶ月後にはハルドンの地元メキシコシティで再戦が組まれ、大差のユナニマウス・ディシジョンでホープが雪辱に成功。「3歩進んで2歩下がる」ではないが、ローマンのキャリアはなかなか思い通りに進捗しない。
またもや無名選手相手のローカル・ファイトから地道にやり直し、2013年11月、遂にキャリア最大の勝利を上げる。リナレスを初回KOに屠る大番狂わせでWBA王座に就き、内山高志に倒されてその座から降りた後、IBFで返り咲きを果たしたファン・カルロス・サルガドを11回TKOに退けた。
2011年9月、アルヘニス・メンデスを3-0判定に退け、赤いベルトを腰に巻いたサルガドは、ミゲル・ベルトラン・Jr.(2回ノーコンテスト/バッティング)、マルティン・オノリオ(2-0判定)、ジョナサン・バルロス(3-0判定)から3度び王座を守ったが、2013年3月、前王者メンデスとのリマッチで4回KO負け。135ポンドのライト級契約で組まれた復帰戦に抜擢されたのが、ローマンだった。
翌2014年6月、34歳になったダニエル・ポンセ・デ・レオン(元WB0 J・フェザー,WBCフェザー級王者)を9回TKOに屠り、引退へと追い込む。
2015年4月、三浦にKO負けした直後のエドガル・プエルタに判定勝ちを収め、昨年4月にはスペインへ渡り、欧州(EBU)王者のジュリ・ジネに8回TKO勝ち。ハルドンとの再戦に敗れて以降の4年間は、負け無しの16連勝(10KO)と波に乗っている。
コンパクトなガードをセミ・クラウチングの構えにまとめ、上体と頭を振りながら前進を繰り返し、的を絞らせない工夫を怠らず、手堅く守りながらコンビネーションで崩し続け、相手が根負けして音を上げるまでしぶとく食い下がる。
パワーやスピードに特別秀でいてる訳ではなく、体格にも恵まれなかったが、頑丈な肉体と旺盛な闘争心&スタミナを武器に、粘り強い波状攻撃で圧力をかけ続け、最終的にギブアップさせるのがローマンの持ち味。
スター性やカリスマ性にも縁遠く、才気走ったボクシングはできない。しかし、実戦で鍛え上げた攻防の技術と勝負勘は確かなもので、ボディワークとブロック&カバーを巧みに操り、サイズの不利を有利に変えて、致命的な被弾から身を守る術もしっかり身に付けている。
同じプロ13年生という点のみならず、質実剛健な戦い方には三浦と同じタイプの匂いが漂う。1発の破壊力は、当然三浦に軍配が上がるものの、接近戦でのディフェンスやショートパンチの精度と練れ方なら、ローマンに一日の長がある。正面に立って白兵戦に応じてしまうと、サルガドやダニエル・ポンセの二の舞になりかねない。
偶発的なヘッドバットやラビットパンチに対して、レフェリーにしつこくアピールして時間を稼いだり、勢いよく踏み込む際の体当たりや、揉み合いに持ち込んで肘や肩、頭をぶつけるマリーシアにも抜け目がなく、甘く見ると痛い目に遭う。
サリド戦に備えて強化したというステップワークに加えて、至近距離での大きな課題だったディフェンス(ムーヴヘッドの徹底)に、どれほどの修正が行われているのか。
最も避けたいのは、上体を直立したまま打ち合いにのめり込む展開。最悪の場合、バルガスとの再戦どころではなくなる。
右サイド(ローマンの左サイド)へ斜めに切り込むように踏み込み、死角からの右フックで態勢を崩し、左ストレートを打ち抜くパターンがドンピシャ当たりそうな気もするけれど、頭を振らずに直進して左を狙い過ぎると、左(フック&アッパー)の連射から右の強打を続けるコンビネーションで逆襲されるだろう。
クリンチ&ホールドの離れ際にも、充分な注意が必要。レフェリーが割って入ってきても、安心してガードを解くのは厳禁。狡賢しさも含めて、競ったラウンドを凌いで勝負を引き寄せる駆け引きに関する限り、同じ実戦叩き上げでも日本人はメキシカンに及ばない。
クリーン・ファイトありきのジャパニーズ・スタイル・オンリーでは、容易に撃退できないと思う。
カンクンでセルヒオ・トンプソンからベルトを守り、ハルドン,プエルタ,バルガスらと拳を交えた三浦なら、「好戦的=真っ向勝負」ではないことを、他の誰よりも骨身に染みて熟知している筈と信じつつも、一筋縄ではいかない曲者だけに、くれぐれも油断は禁物。距離が近づくと下から思い切り振ってくる為、左ストレートやフックの打ち終わりの処理はとりわけ丁寧に。
迂闊に揉み合いに付き合うと、バッティングでのカットをヒッティングと取られてしまい、カンクンでセルヒオ・トンプソンにやられたリナレス同様、予期せぬ出血TKO負け(主審と立会人にリングドクターまでがクルになった伝統的なメキシカン・トラップ)もあり得るぐらいの覚悟と準備で丁度いい。
◎三浦(32歳)/前日計量:129ポンド3/4
戦績:35戦30勝(23KO)3敗2分け
身長:169センチ,リーチ:177.5センチ
◎ロマン(31歳)/前日計量:129ポンド1/4
戦績:67戦56勝(43KO)11敗分け
身長:165センチ,リーチ:センチ
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□オフィシャル:未発表
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□直前のオッズ
<1> 5dimes
三浦:-120(約1.8倍)
ローマン:-120(約1.8倍)
<2>BOVADA
三浦:-125(1.8倍)
ローマン:-105(約1.95倍)
身銭を切って賭けに打ち興じるマニアは、良く見ている。直前の賭け率は、ほぼ互角。
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■メイン及び主なアンダーカード
<1>WBC世界S・フェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 フランシスコ・バルガス(メキシコ) VS 暫定王者 ミゲル・ベルチェルト(メキシコ)

三浦から王座を奪ったバルガスが、昨年6月のサリド戦以来となる実戦復帰。暫定王者ベルチェルトを迎えて、2度目の防衛戦に臨む。
最近は米本土に腰を据え、GBPの仕切りで戦っているバルガスに対して、メキシコ最大手の興行会社ザンファー(サンフェル)の傘下に収まり、ボブ・アラムの盟友,フェルナンド・ベルトランが手掛ける母国での興行に出場を続けたきたベルチェルト。
サリド戦を終えてダメージと疲労が癒えないバルガスが、「長めの休養が欲しい」と宣言するや否や、WBCは即座にベルチェルトに暫定王座戦を認め、昨年7月メキシコにチョンラターン・ピリャピンヨー(タイ)を招聘し、4回KOに切って落とす。
勝敗のカギを握るのは、一にも二にも、バルガスの回復具合。2015年の三浦戦に続き、2年連続でサリド戦がリング誌のファイト・オブ・ジ・イヤーに選ばれたが、栄誉の代償は小さくなかった模様。
公開練習では元気な姿を見せたとのことだが、ダメージと疲労が抜け切れていないまま、真正面からの打撃戦に雪崩れ込むと、ベルチェルトの強打に凱歌が上がる可能性も充分。単純に実力(地力)を比較するだけなら、正規王者の優位は動かないとは思うけれど・・・。
◎バルガス(32歳)/前日計量:129ポンド3/4
戦績:25戦23勝(17KO)2分け
身長:173センチ,リーチ:178センチ
◎ベルチェルト(25歳)/前日計量:129ポンド1/2
戦績:31戦30勝(27KO)1敗
身長:170センチ,リーチ:180センチ
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<2>150ポンド契約10回戦
サダム・アリ(米) VS ホルヘ・シルバ(メキシコ)
昨年3月、ジェシー・バルガスとのWBO王座決定戦によもやの9回TKO負け。プロ初黒星を喫して1歩後退したアリが、5年前の秋に亀海喜寛と引き分けた中堅メキシカンを相手に、再起第2戦を行う。
ライト級の代表として北京五輪に参加(初戦敗退)。米国史上初となる、イスラム系移民(ルーツはイエメン)のオリンピアンとなったアリは、GBPと契約して2009年年明け早々プロデビュー。
4回戦からスタートし、じっくり時間をかけてプロの水に慣らしてきたが、GBPの基本路線でもある「慎重過ぎるマッチメイク」が、まさしく仇となった格好。
一方のシルバは、亀海と引き分けた後、アルフレド・アングロに判定負け。格下相手に1勝を上げた後、2013年~2016年にかけて6連敗。ジョシュア・クロッティ,パブロ・カノ,ハビエル・プリエトらの著名選手も含まれるが、無名の中堅にも敗れている。
さらに、2015年から昨年にかけて3連敗。不運な採点だったとは言いながら、亀海はこのレベルに勝ち切れなかったのかと、本場アメリカが誇る中量級の壁の厚さと高さをあらためて実感。
順当なら、アリが無理せず安全策に徹して、ワンサイドの判定勝ち。シルバのモチベーションとコンディション次第では、中盤~後半にかけてのレフェリーストップも有りか。
アリが一番怖いのは、シルバのパンチよりも油断。調子に乗って気を抜く癖が、なかなか抜けない。
◎アリ(28歳)/前日計量:148ポンド3/4
戦績:24戦23勝(13KO)1敗
身長:175センチ,リーチ:185センチ
◎シルバ(24歳)/前日計量:150ポンド
戦績:36戦22勝(18KO)12敗2分け
身長:170センチ,リーチ:183センチ
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<3>S・ミドル級10回戦
トゥレアノ・ジョンソン(バハマ) VS アントニオ・グチェレス(メキシコ)
ミドル級で挑戦を目指すジョンソンも、北京五輪出身組み(ウェルター級/ベスト8敗退)。2014年4月、カーティス・スティーブンスとのプロスペクト対決で、まさかの10回KO負け。長い回り道を余儀なくされた。
10歳年下のメキシカンを相手にしたチューンナップだが、5ポンドのウェイト・ハンディも含め、内容を問われる一戦。
◎ジョンソン(32歳)/前日計量:164ポンド
戦績:20戦19勝(13KO)1敗
身長:178センチ,リーチ:187センチ
◎グチェレス(22歳)/前日計量:159ポンド
戦績:24戦21勝(9KO)2敗1分け
身長:178センチ,リーチ:188センチ
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<4>WBCユースS・フェザー級タイトルマッチ8回戦
ラモント・ローチ・Jr.(米) VS アレハンドロ・バルデス(メキシコ)
ナショナル・ゴールデン・グローブスやナショナルPALで活躍したローチは、身体能力に恵まれた黒人サウスポー。
それにしても、男子の8回戦にタイトルマッチを承認するのはいかがなものか。ユース・タイトルなのに、対戦相手は遠の昔に下り坂に入った33歳のメキシカン。アレハンドロ・バルデスと聞いて、「おやっ?」と思った人は記憶力がいい。
2008年秋に来日し、バンタム級時代の長谷川穂積に2回でし止められた、長身痩躯のパワーファイターだ。S・バンタムからフェザーに上げて戦っていたが、2011年暮れの試合を最後に一度は引退。2015年9月、130ポンドでカムバックしていた。
◎ローチ(21歳)/前日計量:130ポンド
戦績:12戦全勝(4KO)
身長:170センチ,リーチ:173センチ
◎バルデス()/前日計量:132ポンド1/2
戦績:戦勝(KO)敗分けNC
身長:センチ,リーチ:センチ