■10月22日/両国国技館/WBA世界ミドル級タイトルマッチ12回戦
WBA正規王者 ハッサン・エンダム・ヌジカム(仏) VS WBA1位 村田諒太(帝拳)

問題の再戦が、いよいよ本番を迎えた。リングアナウンサーのジミー・レノン・Jr.に続き、御大ボブ・アラムも来日し、いい形で雰囲気も盛り上がってはいるが、規模の大きな10月後半の台風だけでなく、紛れも無く日本の将来を左右する総選挙にぶつかってしまうとは・・・。
大いに紛糾した前戦のスコア。私も酷い採点だと思ったが、なにしろ村田の手数が少な過ぎたことも事実。予期せぬ敗因は、すべてそこに帰結集約される。ブロック&カバーでがっちり顔面を固め、ぐいぐいと圧力をかけて行く村田の選択は、ヌジカムの右カウンターを浴びるリスクを可能な限り低減し、接近戦に持ち込む為に止むを得ないものではあった。
セオリー通りジャブを放ち、ワンツーから左ボディへとつなぐ崩しで攻め続けていれば、おそらく村田の勝利は揺るぎなかったと確信するけれど、ヌジカムの右カウンターを食らうリスクが増す。
勝敗を分ける最大のポイントは、当て逃げに徹するであろうヌジカムを追う際、ジャブとワンツーを出しながら距離を詰められるかどうか。そこにかかる。勿論、ロープ際やコーナーに詰めた後も、ビッグショットの強振だけでなく、ボディも交えたコンビネーションが必要になるが、距離を詰めて行く、前進する際の手数とディフェンスが、競ったラウンドの評価を分けるキモだ。
解決策にベストはないけれども、よりベターな方法はボディワークの習得。両腕を高いポジションで固定すれば、被弾は免れてもスムーズな反撃は困難。ガードを自然な位置に保ち、相手の出方をしっかり伺いながら、上体を柔らかくリズミカルに振って、ムーヴヘッドの基本を堅持しつつ、ジャブを突いて距離を潰す。
近代ボクシングのセオリー中のセオリーだが、ショートのハンドスピードに優るヌジカムには、格好の標的となる恐れもある。それこそ、散発のジャブを当てられ、やっと間合いを詰めたかと思うとサイドへスルリと逃げられ、追いかけようと体の向きを変えるところを、また軽打をポンポン当てられてしまう。
そう考えると、左のガードだけを少し下げて、パワーセーブしたジャブ(スピードとキレに注力)を何発か打つのが有効ではないか。ヌジカムはクロス気味の右ストレートを合わせてくるだろうから、ジャブの打ち終わりに小さなヘッドムーヴを欠かさず、足の運びも直進ではなく、ジグザグのイナズマ形で斜めに切り込む工夫が不可欠。
村田のパワーと圧力、カウンターの当て勘,優れたセンスを、ヌジカムは身を持って知った。来日後の会見で話している通り、足と軽打で捌くボクシングに閉じこもる。とにかくビッグショットを貰わないこと。ジャブとショートのコンビネーションで応戦する駆け引きも、ケース・バイ・ケースで必要になるかもしれない。
前戦と同じ追い方では、接近したラウンドをすべて持って行かれる。ロマ・ゴンをより良い方向性に改善できず、素早く動いてロマ・ゴンの射程を外し、軽打ではなく強打で迎え撃つ進境を実現したシーサケットに、ものの見事に粉砕されてしまった田中繊大トレーナーが、村田のボクシングをどのように勝利へと導くのか。
「倒れるとしたら、今度は村田だ。」
不適な笑みを浮かべるペドロ・ディアス(キューバ出身のチーフトレーナー/リゴンドウも担当)が語るように、ロマ・ゴン VS シーサケットの再戦と同じ展開に陥る可能性が、ゼロとは言い切れない。最悪のパターンを回避し、明確なリードを保ってゴールテープを切れるかどうか。繊大トレーナーの力量も問われる。


□主要スポーツブックのオッズ
<1>BOVADA
村田:-900(約1.11倍)
ヌジカム:+550(6.5倍)
<2>Sports Betting
村田:-680(約倍)
ヌジカム:+505(6.05倍)
<3>Bet Online
村田:-850(約1.11倍)
ヌジカム:+5260(6.2倍)
<4>シーザースパレス
村田:-900(約1.11倍)
ヌジカム:+550(6.5倍)
<5>Paddy Power
村田:1/7(約1.14倍)
ヌジカム:4/1(5倍)
ドロー:25/1(26倍)
<6>Sky Sports
村田:1/5(1.2倍)
ヌジカム:100/30(約4.3倍)
ドロー:25/1(26倍)
前回よりも大きな差で村田有利。鮮烈なダウンシーンに加えて、中盤以降、腰の引けた逃げ切りに終始するヌジカムの印象が、それだけマイナスに映ったということか。互いに手の内を知ったことが、過剰なまでの村田の警戒心を解かせて、もっと手数を出して攻め切れるとの読みと見える。
私個人は、ここまで楽観的にはなれないけれど、そうなって欲しいとは思う。第1ラウンドの開始と同時に、猛攻を仕掛ける奇襲も有りと考えつつ、村田のクレバネスと真面目さが、再びマイナスに作用しなければいいがと、余計な心配も・・・。
公開練習では両雄とも良い動きを見せていたが、村田のパンチは前回以上に良くキレている。ヌジカムは宣言通り、サイドへの動きを含めたフットワークとムーヴヘッドを徹底。ペドロ・ディアスのミット打ちは、流石に隙がない。しかし、ミットはあくまでミット。練習でのパフォーマンスをそのまま実戦のリングに持って行くのは、どんな実力者でも無理。そしてディアスの構えるミットのように、村田がいい具合に的になることもない。逆もまた真ではあるが。

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□前日計量と予備検診
<1>正規王者ヌジカム(33歳)/前日計量:158.5ポンド(71.9キロ)
WBAミドル級暫定王者(WBA.WBO同級元暫定王者)
戦績:38戦36勝(21KO)2敗
アマ通算:84戦77勝4敗3分
2016年リオ五輪L・ヘビー級初戦敗退
2004年アテネ五輪ミドル級ベスト8
※いずれもカメルーン代表
身長:180.5センチ
リーチ:188センチ
首周:39センチ
胸囲:98センチ
視力:左右とも2.0
右ボクサー
<2>挑戦者村田(31歳)/前日計量:160ポンド(72.5キロ)
戦績:13戦12戦(9KO)1敗
アマ通算:138戦119勝(89KO・RSC)19敗
2012年ロンドン五輪金メダル
2011年世界選手権(バクー)銀メダル
※いずれもミドル級
南京都高→東洋大
身長:183センチ
リーチ:187.5センチ
首周:41センチ
胸囲:99センチ
視力:右2.0/左1.2
好戦的な右ボクサーファイター

※計量と予備検診に関する記事
<1>因縁の再戦あすゴング! 村田諒太vsエンダムⅡ
10月21日/Boxing News
http://boxingnews.jp/news/52597/
<2>村田諒太「自信を持って殴れる」 エンダム戦まで2日
10月20日/Boxing News
http://boxingnews.jp/news/52538/
<3>トリプル世界戦予備検診、村田諒太ら緊張感アップ
10月18日/Boxing News
http://boxingnews.jp/page/4/
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□オフィシャル
主審:ケニー・ベイレス(米/ネバダ州)
副審:
ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)
ピニット・プラヤッサブ(タイ)
ロバート・ホイル(米/ネバダ州)
立会人(スーパーバイザー):ジョージ・マルティネス(カナダ/チャンピオンシップ・コミッティ委員長)
スコアリングに世界中のファンと関係者から非難が集中し、泡を食った御大将のメンドサ・Jr.会長が、自身のツィッターに訳のわからない自己採点までアップし、「村田の勝ちだ。」と言い出す珍事まで発生。
バラエティ番組に呼ばれた竹原慎二が、「この人の採点なんて、はっきり言ってどうでもいい。」と軽くあしらっていたが、まったくその通り。腰も口も軽過ぎる会長さんに付ける薬は、おいそれと見当たらない。
「精鋭を揃えた。」
WBAの立会人が胸を張ったとのことだが、「いったい何処が?」とチャチャを入れたくなる。レフェリーのベイレスは、当て逃げ安全策に極めて重要な意味を持つクリンチ&ホールドに甘く、揉み合いも流す傾向が強い現代アメリカ流の典型。個人的にはほとんど評価しない。
ジャッジの面子も、お馴染みの顔ぶれ。タイのプラヤッサブはレフェリーとしても活動するベテランで、OPBF王座戦も含めて日本のリングにどのぐらい上がってきたことか。前回唯一まともなスコアを付けたラウル・カイズの息子が替わりに来たが、この人とプラヤッサブは村田側と見ていいのかも。
ラスベガス・ディシジョンを容赦なく繰り出すロバート・ホイルは、ヌジカムの当て逃げを好評価すると見て間違いない。
※関連記事:WBA精鋭部隊が村田・エンダム戦裁く「前回から精査」
10月21日/スポーツ報知
http://www.hochi.co.jp/sports/boxing/20171020-OHT1T50268.html
またメンドサ・Jr.会長は、ヌジカムの勝ちとした2人の副審をサスペンドに処したと発表しているが、WBA本部国のパナマから派遣されたグスタボ・パデイーリャは、レフェリーとして6月と9月に公式戦を担当しており、ジャッジとしても10月13日にコスタリカで行われたハナ・ガブリエル VS オクサンディア・カスティーヨ戦に参加。なおかつこの試合では、立会人まで兼務する有様。
もう1人のヒューバート・アールも、地元カナダで主審と副審を務めている。認定団体のボスがいくら「資格停止だ!。」と叫んだところで、ライセンスを発行している母国のコミッションが動かない限り、何の効力も持たないのが実情。
ボブ・アラム自ら来日し、直接睨みを利かせている状況下では、ジャッジたちもなかなか手心を加えづらいだろうが、ヌジカム陣営もプロモーターのセバスティアン・アカリエと、興行会社を興した実父ミッシェルまで帯同。ベルト死守に向けて、敵方も万全の布陣を張る。まさに総力戦の様相。

専守防衛に徹する技巧派を打ち崩すのは、相手が格下でも難しい。それを百も承知の上で、敢えて期待を述べる。村田は倒し切る覚悟で、リングに上がるべきだ。
「前回は真のプロではなかった。今度は真のプロとして闘う。リスクを取る勇気と覚悟を見せたい。」
日テレ(読売)系列のとある番組に出演し、関西出身の人気司会者のインタビューを受けた村田は、気負うでもなく謙遜するでもなく、いつもの自然体でそう語っていた。その心意気や良し。
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■主なアンダーカード
<1>WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 比嘉大吾(白井・具志堅) VS WBC5位 トマ・マッソン(仏)

5月に続くトリプル世界戦。
持ち前のボディアタックから見事なインファイトに持ち込み、体重超過のファン・エルナンデスをノックアウトした比嘉の初防衛戦。拳四郎ともども、村田とのセットを定着する為には、今回もまた豪快に倒したいところだが・・・。
挑戦者のマッソンは、正攻法の右ボクサーファイター。恵まれたサイズにKO率の低さを加味すると、手足の速いフットワーカーとの印象を持ってしまいがちだが、中間距離に留まりジャブで距離をキープしつつ、右の強打を積極的に狙う。思った以上に打ち合う選手で、至近距離での守りはブロック&カバー中心。顎は細く打たれ脆そうだが、フィジカルそのものはかなり強い。
今年5月、欧州王座を獲得したオレクサンドル・ヒリシュク戦でも、無敗のウクライナ人(小兵のボクサーファイター)を相手に、結構派手なパンチを交換していた(9回TKO勝ち)。KOが少ないのは、1発のパワー不足とともに、無理にノックアウトを狙わない(判定でも勝ちに変わりはない)欧州流の勝負哲学ゆえ。ヒリシュク戦では、右アッパーでダウンを奪い、そのままウクライナ人が戦意喪失してしまったが、体力差で押し切ったとの感想。
上体を良く振りながら、深めの前傾でボディから攻める比嘉の戦い方が、いかにも奏功しそうに感じる。一見すると、比嘉にとってやりづらいタイプではないが、左のガードを下げたヨーロッパ・スタイルのアウトボクシングも充分にこなせそう。足を使わないと断定するのは早計。
なにしろ比嘉は、マッソンのジャブと打ち下ろしの右(角度を付けて打つ)を貰わないことが第一。強打の応酬を嫌わず、気性の荒い面も併せ持つだけに、正面で手数と動きを止めるのはまずい。一気呵成に攻め込んでくる。比嘉も打たれて頑丈なタイプとは言い切れない為、ムーヴヘッドの基本は徹底したい。
比嘉の軽量級離れしたパワーとボディアタックは、しっかり研究してきていると思うけれど、足で外すのか、リング中央でしっかり受け止めるのか。選択肢としては、そのどちらも有り得る。
じっくりボディから打ち崩す自身のボクシングを信じて、KOを急がない。1発の破壊力はさほど心配しなくてもいいけれど、想像以上に踏ん張って力をこめて打つ選手なので、立ち上がりは丁寧に。
◎比嘉(22歳)/前日計量:111.8ポンド(50.7キロ)
戦績:13戦全勝(13KO)
アマ通算:45戦36勝(8TKO)8敗
沖縄県立宮古工業高
身長:160.8センチ
リーチ:166センチ
首周:35.5センチ
胸囲:98センチ
視力:左右とも2.0
好戦的な右ボクサーファイター
◎マッソン(27歳):前日計量:111.6ポンド(50.6)
欧州(EBU)フライ級王者
戦績:戦17勝(5KO)3敗1分け
身長:167センチ
リーチ:172センチ
首周:34.5センチ
胸囲:90センチ
視力:左右とも0.7
右ボクサーファイター
□オフィシャル
主審:トニー・テーラー(米/カリフォルニア州)
副審:
マイク・ロス(米/フロリダ州)
アレハンドロ・ロチン(メキシコ/カリフォルニア在住)
イ・ジュンベ(韓国)
立会人(スーパーバイザー):マイケル・ジョージ(米/ロードアイランド州/WBCランキング・コミッティ副委員長)
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<2>WBC世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 拳四郎(BMB) VS WBC1位 ペドロ・ゲバラ(メキシコ)

いかにロマ・ゴン戦の疲労とダメージを残したままとは言え、八重樫東(大橋)をKOして載冠したイメージが強過ぎて、木村悠(帝拳/引退)との神経戦で一進一退の攻防を余儀なくされるゲバラの姿に、違和感を覚えたファンも多かったのではないだろうか。
ゲバラは正攻法のボクサーファイターで、メキシカンにしては上体を余り振らない。直立させたまま戦う現代流という部分で大きく括るなら、木村や拳四郎と同タイプに属すると表していい。KO決着に固執しない点も含めて、正統派であるが故に一度展開が膠着すると、容易に突破できないところが玉にキズ。
技術もパンチも正真正銘世界ランカーの力を有するが、堅実なスタイルに起因する勝ち味の遅さが、格下相手にも接近した内容を許してしまう。プロとしてはまだ駆け出しと言っていい拳四郎には、変則的な動きやパンチも操り、インサイドワークに長けたサウスポーのガニガン・ロペスよりも、組し易い(手が合う)と言えるのかもしれない。
正攻法同士のガチンコ勝負。ならば、経験に優るゲバラが優位と見るのが妥当になるが、拳四郎独特の間合い&ポジショニングの上手さ、とりわけ両サイドを使ったステップワークと連動した左ジャブは、右構えの正統派には有効に機能する。
経験値も含めたボクサーとしての地力を単純比較したら、どうしたってゲバラに軍配を上げざるを得ない。ガニガン・ロペス戦について、「良く言ってドロー」と語るゲバラの評価にも一定の説得力があり、V2戦でロペスを明白な3-0判定に下しているゲバラの自信は、確たる根拠に基づくものだ。
基本は6-4で挑戦者有利との見立てだが、拳四郎のジャブに相応の進境(強弱の変化=”強”が欲しい)が見られ、パンチのキレが増している前提でなら、元王者を返り討ちにする確率はアップする。
◎拳四郎(25歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
戦績:10戦全勝(5KO)
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.3センチ
リーチ:163.5センチ
首周:34センチ
胸囲:83センチ
視力:右0.8/左0.7
右ボクサーファイター
◎ゲバラ(28歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
元WBC同級王者
戦績:33戦30勝(17KO)2敗1分け
身長:162.5センチ
リーチ:170センチ
首周:34センチ
胸囲:91.5センチ
視力:右1.5/左2.0
右ボクサーファイター
□オフィシャル
主審:エクトル・アフゥ(パナマ)
副審:
マイク・ロス(米/フロリダ州)
アレハンドロ・ロチン(メキシコ/カリフォルニア在住)
イ・ジュンベ(韓国)
立会人(スーパーバイザー):マイケル・ジョージ(米/ロードアイランド州/WBCランキング・コミッティ副委員長)
カリフォルニア在住のメキシコ人を1人、ジャッジに送り込んできたWBC。浜田代表が言及していた通り、興行を主催するプロモーター側から審判団の人選にあれこれ口出しするのは厳禁。それこそ不正の温床と化す。しかし、「この人は問題あるんじゃないか?」と拒否を申請することはできる。ゲバラに有利な採点を行うことが、十中八九間違いないと誰もが思う。「同国人はダメだ。」と何故申し入れしないのか。
どうしてもメキシコ人を入れると言うなら、「日本人ジャッジを1人入れろ。」と、強く要求するべきだ。世界戦に限らず、事なかれ主義を地で行くJBC(と協会)の悪弊である。競った展開になり、メキシコ人ジャッジの採点によって拳四郎が陥落しても、JBC(と協会)は我関せずを貫き通す。良い意味で予想が裏切られることを、一応願っておこう。
WBA正規王者 ハッサン・エンダム・ヌジカム(仏) VS WBA1位 村田諒太(帝拳)

問題の再戦が、いよいよ本番を迎えた。リングアナウンサーのジミー・レノン・Jr.に続き、御大ボブ・アラムも来日し、いい形で雰囲気も盛り上がってはいるが、規模の大きな10月後半の台風だけでなく、紛れも無く日本の将来を左右する総選挙にぶつかってしまうとは・・・。
大いに紛糾した前戦のスコア。私も酷い採点だと思ったが、なにしろ村田の手数が少な過ぎたことも事実。予期せぬ敗因は、すべてそこに帰結集約される。ブロック&カバーでがっちり顔面を固め、ぐいぐいと圧力をかけて行く村田の選択は、ヌジカムの右カウンターを浴びるリスクを可能な限り低減し、接近戦に持ち込む為に止むを得ないものではあった。
セオリー通りジャブを放ち、ワンツーから左ボディへとつなぐ崩しで攻め続けていれば、おそらく村田の勝利は揺るぎなかったと確信するけれど、ヌジカムの右カウンターを食らうリスクが増す。
勝敗を分ける最大のポイントは、当て逃げに徹するであろうヌジカムを追う際、ジャブとワンツーを出しながら距離を詰められるかどうか。そこにかかる。勿論、ロープ際やコーナーに詰めた後も、ビッグショットの強振だけでなく、ボディも交えたコンビネーションが必要になるが、距離を詰めて行く、前進する際の手数とディフェンスが、競ったラウンドの評価を分けるキモだ。
解決策にベストはないけれども、よりベターな方法はボディワークの習得。両腕を高いポジションで固定すれば、被弾は免れてもスムーズな反撃は困難。ガードを自然な位置に保ち、相手の出方をしっかり伺いながら、上体を柔らかくリズミカルに振って、ムーヴヘッドの基本を堅持しつつ、ジャブを突いて距離を潰す。
近代ボクシングのセオリー中のセオリーだが、ショートのハンドスピードに優るヌジカムには、格好の標的となる恐れもある。それこそ、散発のジャブを当てられ、やっと間合いを詰めたかと思うとサイドへスルリと逃げられ、追いかけようと体の向きを変えるところを、また軽打をポンポン当てられてしまう。
そう考えると、左のガードだけを少し下げて、パワーセーブしたジャブ(スピードとキレに注力)を何発か打つのが有効ではないか。ヌジカムはクロス気味の右ストレートを合わせてくるだろうから、ジャブの打ち終わりに小さなヘッドムーヴを欠かさず、足の運びも直進ではなく、ジグザグのイナズマ形で斜めに切り込む工夫が不可欠。
村田のパワーと圧力、カウンターの当て勘,優れたセンスを、ヌジカムは身を持って知った。来日後の会見で話している通り、足と軽打で捌くボクシングに閉じこもる。とにかくビッグショットを貰わないこと。ジャブとショートのコンビネーションで応戦する駆け引きも、ケース・バイ・ケースで必要になるかもしれない。
前戦と同じ追い方では、接近したラウンドをすべて持って行かれる。ロマ・ゴンをより良い方向性に改善できず、素早く動いてロマ・ゴンの射程を外し、軽打ではなく強打で迎え撃つ進境を実現したシーサケットに、ものの見事に粉砕されてしまった田中繊大トレーナーが、村田のボクシングをどのように勝利へと導くのか。
「倒れるとしたら、今度は村田だ。」
不適な笑みを浮かべるペドロ・ディアス(キューバ出身のチーフトレーナー/リゴンドウも担当)が語るように、ロマ・ゴン VS シーサケットの再戦と同じ展開に陥る可能性が、ゼロとは言い切れない。最悪のパターンを回避し、明確なリードを保ってゴールテープを切れるかどうか。繊大トレーナーの力量も問われる。


□主要スポーツブックのオッズ
<1>BOVADA
村田:-900(約1.11倍)
ヌジカム:+550(6.5倍)
<2>Sports Betting
村田:-680(約倍)
ヌジカム:+505(6.05倍)
<3>Bet Online
村田:-850(約1.11倍)
ヌジカム:+5260(6.2倍)
<4>シーザースパレス
村田:-900(約1.11倍)
ヌジカム:+550(6.5倍)
<5>Paddy Power
村田:1/7(約1.14倍)
ヌジカム:4/1(5倍)
ドロー:25/1(26倍)
<6>Sky Sports
村田:1/5(1.2倍)
ヌジカム:100/30(約4.3倍)
ドロー:25/1(26倍)
前回よりも大きな差で村田有利。鮮烈なダウンシーンに加えて、中盤以降、腰の引けた逃げ切りに終始するヌジカムの印象が、それだけマイナスに映ったということか。互いに手の内を知ったことが、過剰なまでの村田の警戒心を解かせて、もっと手数を出して攻め切れるとの読みと見える。
私個人は、ここまで楽観的にはなれないけれど、そうなって欲しいとは思う。第1ラウンドの開始と同時に、猛攻を仕掛ける奇襲も有りと考えつつ、村田のクレバネスと真面目さが、再びマイナスに作用しなければいいがと、余計な心配も・・・。
公開練習では両雄とも良い動きを見せていたが、村田のパンチは前回以上に良くキレている。ヌジカムは宣言通り、サイドへの動きを含めたフットワークとムーヴヘッドを徹底。ペドロ・ディアスのミット打ちは、流石に隙がない。しかし、ミットはあくまでミット。練習でのパフォーマンスをそのまま実戦のリングに持って行くのは、どんな実力者でも無理。そしてディアスの構えるミットのように、村田がいい具合に的になることもない。逆もまた真ではあるが。

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□前日計量と予備検診
<1>正規王者ヌジカム(33歳)/前日計量:158.5ポンド(71.9キロ)
WBAミドル級暫定王者(WBA.WBO同級元暫定王者)
戦績:38戦36勝(21KO)2敗
アマ通算:84戦77勝4敗3分
2016年リオ五輪L・ヘビー級初戦敗退
2004年アテネ五輪ミドル級ベスト8
※いずれもカメルーン代表
身長:180.5センチ
リーチ:188センチ
首周:39センチ
胸囲:98センチ
視力:左右とも2.0
右ボクサー
<2>挑戦者村田(31歳)/前日計量:160ポンド(72.5キロ)
戦績:13戦12戦(9KO)1敗
アマ通算:138戦119勝(89KO・RSC)19敗
2012年ロンドン五輪金メダル
2011年世界選手権(バクー)銀メダル
※いずれもミドル級
南京都高→東洋大
身長:183センチ
リーチ:187.5センチ
首周:41センチ
胸囲:99センチ
視力:右2.0/左1.2
好戦的な右ボクサーファイター

※計量と予備検診に関する記事
<1>因縁の再戦あすゴング! 村田諒太vsエンダムⅡ
10月21日/Boxing News
http://boxingnews.jp/news/52597/
<2>村田諒太「自信を持って殴れる」 エンダム戦まで2日
10月20日/Boxing News
http://boxingnews.jp/news/52538/
<3>トリプル世界戦予備検診、村田諒太ら緊張感アップ
10月18日/Boxing News
http://boxingnews.jp/page/4/
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□オフィシャル
主審:ケニー・ベイレス(米/ネバダ州)
副審:
ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)
ピニット・プラヤッサブ(タイ)
ロバート・ホイル(米/ネバダ州)
立会人(スーパーバイザー):ジョージ・マルティネス(カナダ/チャンピオンシップ・コミッティ委員長)
スコアリングに世界中のファンと関係者から非難が集中し、泡を食った御大将のメンドサ・Jr.会長が、自身のツィッターに訳のわからない自己採点までアップし、「村田の勝ちだ。」と言い出す珍事まで発生。
バラエティ番組に呼ばれた竹原慎二が、「この人の採点なんて、はっきり言ってどうでもいい。」と軽くあしらっていたが、まったくその通り。腰も口も軽過ぎる会長さんに付ける薬は、おいそれと見当たらない。
「精鋭を揃えた。」
WBAの立会人が胸を張ったとのことだが、「いったい何処が?」とチャチャを入れたくなる。レフェリーのベイレスは、当て逃げ安全策に極めて重要な意味を持つクリンチ&ホールドに甘く、揉み合いも流す傾向が強い現代アメリカ流の典型。個人的にはほとんど評価しない。
ジャッジの面子も、お馴染みの顔ぶれ。タイのプラヤッサブはレフェリーとしても活動するベテランで、OPBF王座戦も含めて日本のリングにどのぐらい上がってきたことか。前回唯一まともなスコアを付けたラウル・カイズの息子が替わりに来たが、この人とプラヤッサブは村田側と見ていいのかも。
ラスベガス・ディシジョンを容赦なく繰り出すロバート・ホイルは、ヌジカムの当て逃げを好評価すると見て間違いない。
※関連記事:WBA精鋭部隊が村田・エンダム戦裁く「前回から精査」
10月21日/スポーツ報知
http://www.hochi.co.jp/sports/boxing/20171020-OHT1T50268.html
またメンドサ・Jr.会長は、ヌジカムの勝ちとした2人の副審をサスペンドに処したと発表しているが、WBA本部国のパナマから派遣されたグスタボ・パデイーリャは、レフェリーとして6月と9月に公式戦を担当しており、ジャッジとしても10月13日にコスタリカで行われたハナ・ガブリエル VS オクサンディア・カスティーヨ戦に参加。なおかつこの試合では、立会人まで兼務する有様。
もう1人のヒューバート・アールも、地元カナダで主審と副審を務めている。認定団体のボスがいくら「資格停止だ!。」と叫んだところで、ライセンスを発行している母国のコミッションが動かない限り、何の効力も持たないのが実情。
ボブ・アラム自ら来日し、直接睨みを利かせている状況下では、ジャッジたちもなかなか手心を加えづらいだろうが、ヌジカム陣営もプロモーターのセバスティアン・アカリエと、興行会社を興した実父ミッシェルまで帯同。ベルト死守に向けて、敵方も万全の布陣を張る。まさに総力戦の様相。

専守防衛に徹する技巧派を打ち崩すのは、相手が格下でも難しい。それを百も承知の上で、敢えて期待を述べる。村田は倒し切る覚悟で、リングに上がるべきだ。
「前回は真のプロではなかった。今度は真のプロとして闘う。リスクを取る勇気と覚悟を見せたい。」
日テレ(読売)系列のとある番組に出演し、関西出身の人気司会者のインタビューを受けた村田は、気負うでもなく謙遜するでもなく、いつもの自然体でそう語っていた。その心意気や良し。
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■主なアンダーカード
<1>WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 比嘉大吾(白井・具志堅) VS WBC5位 トマ・マッソン(仏)

5月に続くトリプル世界戦。
持ち前のボディアタックから見事なインファイトに持ち込み、体重超過のファン・エルナンデスをノックアウトした比嘉の初防衛戦。拳四郎ともども、村田とのセットを定着する為には、今回もまた豪快に倒したいところだが・・・。
挑戦者のマッソンは、正攻法の右ボクサーファイター。恵まれたサイズにKO率の低さを加味すると、手足の速いフットワーカーとの印象を持ってしまいがちだが、中間距離に留まりジャブで距離をキープしつつ、右の強打を積極的に狙う。思った以上に打ち合う選手で、至近距離での守りはブロック&カバー中心。顎は細く打たれ脆そうだが、フィジカルそのものはかなり強い。
今年5月、欧州王座を獲得したオレクサンドル・ヒリシュク戦でも、無敗のウクライナ人(小兵のボクサーファイター)を相手に、結構派手なパンチを交換していた(9回TKO勝ち)。KOが少ないのは、1発のパワー不足とともに、無理にノックアウトを狙わない(判定でも勝ちに変わりはない)欧州流の勝負哲学ゆえ。ヒリシュク戦では、右アッパーでダウンを奪い、そのままウクライナ人が戦意喪失してしまったが、体力差で押し切ったとの感想。
上体を良く振りながら、深めの前傾でボディから攻める比嘉の戦い方が、いかにも奏功しそうに感じる。一見すると、比嘉にとってやりづらいタイプではないが、左のガードを下げたヨーロッパ・スタイルのアウトボクシングも充分にこなせそう。足を使わないと断定するのは早計。
なにしろ比嘉は、マッソンのジャブと打ち下ろしの右(角度を付けて打つ)を貰わないことが第一。強打の応酬を嫌わず、気性の荒い面も併せ持つだけに、正面で手数と動きを止めるのはまずい。一気呵成に攻め込んでくる。比嘉も打たれて頑丈なタイプとは言い切れない為、ムーヴヘッドの基本は徹底したい。
比嘉の軽量級離れしたパワーとボディアタックは、しっかり研究してきていると思うけれど、足で外すのか、リング中央でしっかり受け止めるのか。選択肢としては、そのどちらも有り得る。
じっくりボディから打ち崩す自身のボクシングを信じて、KOを急がない。1発の破壊力はさほど心配しなくてもいいけれど、想像以上に踏ん張って力をこめて打つ選手なので、立ち上がりは丁寧に。
◎比嘉(22歳)/前日計量:111.8ポンド(50.7キロ)
戦績:13戦全勝(13KO)
アマ通算:45戦36勝(8TKO)8敗
沖縄県立宮古工業高
身長:160.8センチ
リーチ:166センチ
首周:35.5センチ
胸囲:98センチ
視力:左右とも2.0
好戦的な右ボクサーファイター
◎マッソン(27歳):前日計量:111.6ポンド(50.6)
欧州(EBU)フライ級王者
戦績:戦17勝(5KO)3敗1分け
身長:167センチ
リーチ:172センチ
首周:34.5センチ
胸囲:90センチ
視力:左右とも0.7
右ボクサーファイター
□オフィシャル
主審:トニー・テーラー(米/カリフォルニア州)
副審:
マイク・ロス(米/フロリダ州)
アレハンドロ・ロチン(メキシコ/カリフォルニア在住)
イ・ジュンベ(韓国)
立会人(スーパーバイザー):マイケル・ジョージ(米/ロードアイランド州/WBCランキング・コミッティ副委員長)
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<2>WBC世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 拳四郎(BMB) VS WBC1位 ペドロ・ゲバラ(メキシコ)

いかにロマ・ゴン戦の疲労とダメージを残したままとは言え、八重樫東(大橋)をKOして載冠したイメージが強過ぎて、木村悠(帝拳/引退)との神経戦で一進一退の攻防を余儀なくされるゲバラの姿に、違和感を覚えたファンも多かったのではないだろうか。
ゲバラは正攻法のボクサーファイターで、メキシカンにしては上体を余り振らない。直立させたまま戦う現代流という部分で大きく括るなら、木村や拳四郎と同タイプに属すると表していい。KO決着に固執しない点も含めて、正統派であるが故に一度展開が膠着すると、容易に突破できないところが玉にキズ。
技術もパンチも正真正銘世界ランカーの力を有するが、堅実なスタイルに起因する勝ち味の遅さが、格下相手にも接近した内容を許してしまう。プロとしてはまだ駆け出しと言っていい拳四郎には、変則的な動きやパンチも操り、インサイドワークに長けたサウスポーのガニガン・ロペスよりも、組し易い(手が合う)と言えるのかもしれない。
正攻法同士のガチンコ勝負。ならば、経験に優るゲバラが優位と見るのが妥当になるが、拳四郎独特の間合い&ポジショニングの上手さ、とりわけ両サイドを使ったステップワークと連動した左ジャブは、右構えの正統派には有効に機能する。
経験値も含めたボクサーとしての地力を単純比較したら、どうしたってゲバラに軍配を上げざるを得ない。ガニガン・ロペス戦について、「良く言ってドロー」と語るゲバラの評価にも一定の説得力があり、V2戦でロペスを明白な3-0判定に下しているゲバラの自信は、確たる根拠に基づくものだ。
基本は6-4で挑戦者有利との見立てだが、拳四郎のジャブに相応の進境(強弱の変化=”強”が欲しい)が見られ、パンチのキレが増している前提でなら、元王者を返り討ちにする確率はアップする。
◎拳四郎(25歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
戦績:10戦全勝(5KO)
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.3センチ
リーチ:163.5センチ
首周:34センチ
胸囲:83センチ
視力:右0.8/左0.7
右ボクサーファイター
◎ゲバラ(28歳)/前日計量:107.4ポンド(48.7キロ)
元WBC同級王者
戦績:33戦30勝(17KO)2敗1分け
身長:162.5センチ
リーチ:170センチ
首周:34センチ
胸囲:91.5センチ
視力:右1.5/左2.0
右ボクサーファイター
□オフィシャル
主審:エクトル・アフゥ(パナマ)
副審:
マイク・ロス(米/フロリダ州)
アレハンドロ・ロチン(メキシコ/カリフォルニア在住)
イ・ジュンベ(韓国)
立会人(スーパーバイザー):マイケル・ジョージ(米/ロードアイランド州/WBCランキング・コミッティ副委員長)
カリフォルニア在住のメキシコ人を1人、ジャッジに送り込んできたWBC。浜田代表が言及していた通り、興行を主催するプロモーター側から審判団の人選にあれこれ口出しするのは厳禁。それこそ不正の温床と化す。しかし、「この人は問題あるんじゃないか?」と拒否を申請することはできる。ゲバラに有利な採点を行うことが、十中八九間違いないと誰もが思う。「同国人はダメだ。」と何故申し入れしないのか。
どうしてもメキシコ人を入れると言うなら、「日本人ジャッジを1人入れろ。」と、強く要求するべきだ。世界戦に限らず、事なかれ主義を地で行くJBC(と協会)の悪弊である。競った展開になり、メキシコ人ジャッジの採点によって拳四郎が陥落しても、JBC(と協会)は我関せずを貫き通す。良い意味で予想が裏切られることを、一応願っておこう。