ネットオヤジのぼやき録

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タンクかローリーか /注目のライト級決戦を占う Part 2 - G・ディヴィス VS R・ロメロ 直前プレビュー -

2022年05月28日 | Preview

■5月28日/バークレイズ・センター,N.Y./WBA世界ライト級タイトルマッチ12回戦
正規王者 ジャーボンティ・ディヴィス(米) VS WBA1位 ローランド・ロメロ(米)



※ロメロと実父ローランド・シニアのインタビュー映像

ROLANDO ROMERO SR. CANDID ON TOUGH CUBAN FIGHTING ROOTS AND CHAMPIONSHIP DREAM FOR SON, ROLLY
https://www.youtube.com/watch?v=o21ONk9MSQk


日本のファンで、ロメロの顔と名前をしっかり認知している人はまだまだ少ないと思うが、強靭なフィジカルとハードヒットが話題となり、デビュー当時から在米専門記者とマニアたちの間で関心を集めていた。

映像をご覧いただけばわかる通り、公の場では常に自信に満ち溢れたコワモテを押し通す。ファイトぶりも相当に猛々しい。と言うか、まあ荒っぽいことこの上ない。

自ら密着して揉み合いを仕掛けたかと思えば、抱え込んだ相手の腕をがっちりホールドして殴り、肘やグローブで相手の顔をプッシュ。ヘッドロックからの腰投げは勿論、力尽くで突き飛ばすことも・・・。

すべて流れの中で不可抗力を装って行われる為、レフェリーがチェックしづらい場合も多い。ただ、厳しい注意を与える審判が1人や2人いてもバチはあたらないだろう。

これだけご乱行に及んでも、変わることなく一定の評価を受け続けてきたのは、彼の地の記者と筋金の入ったファンの多くが、ロメロの潜在能力の高さと素質を買っているからに他ならない。


◎参考映像:ライアン・ガルシアとのスパーリング映像
<1>ハイライト(抜粋)
公開日:2017年12月23日

<2>フル映像
公開日:2018年3月16日
https://www.youtube.com/watch?v=uQ78S5WWd2s


◎参考映像:テオフィモ・ロペスとのスパーリング映像
公開日:2019年9月18日



格上の選手に対する当たり前のリスペクトを感じさせるテオフィモとのスパーはともかく、ガルシアに対する喧嘩腰は幾ら何でもいただけない。常識外れもいいところで、ガルシアのスタッフが怒り出さないのが不思議なほど。

荒っぽい所業は試合のリングでもまったく同じ。イサック・クルスの猛烈なインファイトとは根本的に異なるもので、メンタリティもまるで違う。

Part 1 で「ディヴィス(のようなタイプ)は嫌いだ」とあらためて書き記したが、どちらかと言えばロメロも同じ分類にさぜるを得ない。

ただ、単なるラフ&ダーティで片付けていいかと言えばそうでもない。その点が、話をいささかややこしく厄介なものにしている。


ロメロがキューバからの移民で、実父はアマチュアのトップボクサーだったことはPart 1で既に書いた。

幼い頃からその父に手解きを受け・・・となるのがいつものパターンなのだが、ロメロ一家の場合は少し違っていて、9歳で始めたスポーツはなんと柔道。勿論父はボクシングをやらせようとしたが、ローランドが頑なに拒否。

「その時は本当に嫌だったんだ。もの凄く野蛮に見えたから・・・。」

年の近い妹(名前と実年齢は非公表)も柔道を一緒にやっていたそうで、「結構いいところまで行ったんだけど、僕より妹の方が良い成績を収めていた。」と、現状確認可能な幾つかのインタビューで答えている。


残念ながらジュニアのナショナル・チームに招聘されるほどのレベルではなかったらしく、16歳でボクシングへの転向を決断。きっかけは2012年ロンドン五輪で柔道の中継をTV観戦していた時、父と一緒にボクシングも見たことだという。

全国規模のトーナメントで優勝経験もあるという妹は、その後競技生活から離れており、現在はごく普通の一般人として暮らしている。コーナーのメンバーには含まれていないが、チームの一員としてリングに上がる女性がいて、ひょっとしたら妹さんなのかもしれない。

愛する息子の背中を押した父は、かつてソニー・リストンのコーナーを守った名物トレーナー,ジョニー・トッコが70年前に開いた伝説的なジム(場所を移して新装された方)に連れて行き、2人で本格的なトレーニングをスタートする。


※若きタイソン(左)とジョニー・トッコ(右)


ラリー・ホームズ,マーヴィン・ハグラー,マイク・タイソン,マイク・マッカラム・・・70年代後半以降、ニューヨークから”聖地”の座を奪ったラスベガスを訪れる超一流のチャンピオンたちが汗を流したジムそのものではないが、ジムの壁に飾られた数多の王者や著名選手たちの写真が見つめる中で、明日の成功を夢見手練習に励む若者たちの姿は今も何ら変わることがない。

現在の場所に移設する際、モハメッド・アリとロッキー・マルシアノ,サルバドール・サンチェスを描いた外壁は、ラスベガスのボクシング・シーンに欠かすことが出来ないモニュメントの1つ。


※写真左:アリ/写真右:マルシアノとサル・サンチェス


◎トッコのジムを紹介する映像
Inside Johnny Tocco's World Famous Gym - TITLE Boxing - Famous Boxing Gyms
公開日:2016年11月22日


現在に至るまでチーフとして厚い信頼を置くトレーナー、クロムウェル・ゴードン・ブレット(Cromwell Gordon Bullet)と出合ったのもトッコのジムだった。


中米ベリーズ(ユカタン半島の付け根に位置する小国/ホンジュラスの一部だった)出身のゴードンがアメリカに移住したのは10歳の時(1989年)で、カトリックの牧師だった父と母、幾人かの兄弟・姉妹が一緒に渡航する。

3人の姉妹はロサンゼルスに移り、何人かはベリーズに残って今でもそこで暮らしているという。

ゴードンも始めは選手としての成功を夢見ていたが、「ジムで初心者の相手をしたり、スパーリングをやっていても、パートナーの修正点にすぐに気がついてアドバイスしたり、教えることに適性を感じていたのは確かだ。」

ジムメイトからも頼りにされる機会が増えて、「コーチ業に専念した方がいいと、そう思うようになった。」


指導に関して独自の理論,考え方を持っていて、「ボクサーが強くなろうと思ったら、ボクシングだけに没頭していては駄目だ。」と言う。

「ほとんどのボクサーは。身体の使い方を分かっていない。世界タイトルを争うトップレベルでも、無駄に力を浪費しているケースをよく見かける。」

「例えば体重移動は最も基本的な技術の1つだが、そのプロセスを本当に理解できている選手とトレーナーはほんの一握りだ。」


専門家を招いてのフィジカル・トレーニングかと思えばさに非ず。

「これまで様々な武術(!)を研究してきた。空手や柔道、柔術だけじゃない。ブルース・リーのジークンドーも含めて、知り得るものは大概勉強した。」

「私が教える選手たちは、パワーとスピードを無駄に使わない。基礎体力を含めたフィジカルとテクニックを磨くのは当然だが、勝ち続ける為に一番大切なものの1つがスキルだ。経験は上達に必要不可欠なものだが、だからと言って闇雲に練習を積み試合をこなしても壊れて行くだけさ。」

「持てるものを最も効率良く使って、余計なダメージを負うことなく長いラウンドを戦う。その組み立てをしっかり学び、正しく身に付けることは簡単じゃない。優れた才能(スピード&パワー)や身体能力の持ち主は、どうしてもそれに依存してしまう。」

「理屈でわかるだけでも駄目だ。スマートな頭脳も強くなる為には絶対に必要だが、具体的な身体的動作として現実に活かせなければ意味がない。本当に大事なポイントを理解している指導者が少ないんだ。それが問題だ。」

「(ゴードンの理論・自論を)習得するまでに必要とする時間や、習熟の度合いには当然個人差がある。だが、本当に理解できて身に付いた者は、間違いなく強くなる。ローリー(ロメロ)のようにね。」

「彼が16歳まで柔道をやっていたことは、回り道でもなければ無駄な時間でもない。でも、試合に勝てなかったり何か上手く行かないことがあると、大概のコーチは言うんだ。もっと早くボクシングを始めていればってね。冗談じゃない。あんた(コーチ)がわかっていないだけなんだってことさ。」


◎参考映像:クロムウェル・ゴードン・ブレットのインタビュー
Exclusive Interview With Rolly's Trainer Cromwell Gordon AKA Coach Bullet

◎参考映像:ゴードンとのミット打ち(公開練習)
※実父ローランド・シニアとの変わったトレーニングも含む(父が自らの腕でスティックミットをやっている風)
ROLLY ROMERO "DWARF-SLAYER" FULL EXPLOSIVE PAD WORKOUT FOR GERVONTA DAVIS


ちょっと風変わりで目立った実績のない(ほとんど無名に近い)コーチを、優れたアマチュアだった父が息子のチーフに選んだ理由が、何となくではあるがわかるような気がしてくる。

アメリカ,旧ソ連とアマの覇権を争い続けたキューバで激しい競争を潜り抜けた父は、実に慎重かつ入念に息子をプロへと導く。

トッコのジムでプロのスタイルと流儀を習得しつつ、父は息子を母国へと連れ帰る。ちょうど1ヶ月前、遂にプロボクシングの解禁を決定・公表したキューバだが、ロンドン五輪当時は亡命者への締め付けはまだまだ厳しかった。


すんなりと帰(入)国が認められて、国内トップクラスのトレーニングへの参加が許されたのも、父の渡米が亡命ではなく、当局の了解を得たものであったことがわかる。

形式上はあくまでAIBAの依頼を受けてになるが、キューバと旧ソ連は「指導者の輸出」を昔から行ってきた。ローランド・シニアは、米本土においてプロ選手の直接的な指導を行っていなかった模様で、訪米も

おそらくだが、政治体制への批判を含めて、渡米後も当局を刺激するような言動を控えていたに違いない。


ボクシングの練習を始めてから、アマチュアの実戦に出るまでおそよ2年を費やし、18歳で競技選手としてデビュー。

駆け足でアマのキャリアを終えてプロになる訳だが、何事にも抜かりが無いローランド・シニアは、プロ転向に向けてメイウェザー・ジムに足繁く通い出す。

「スパーリング・パートナーを探している」というのが表向きの理由で、狙い通りメイウェザー・ジムでの継続的なスパーリングが実現する。

無名選手やデビュー前の若手を相手を何人か立て続けに倒すと、ジェフとフロイド・シニアの目に止まるようになり、「プロ・デビューに備えて準備中だ」と話すや否や、首尾良く契約の条件交渉へととんとん拍子に展開。

アマチュアでまったく実績のない正真正銘無名の若者は、こうしてメイウェザー・プロモーションズ傘下に収まることができた。


破竹の快進撃を続けるロメロだが、レコードに大物の名前はなく、「まだ試されていない」との厳しい意見があるのは致し方のないところ。超攻撃的であるが故の荒っぽさへの批判も少なくない。

ただし、広めにスタンスを取り、重心を極端に低くした態勢を維持しつつ、前後のスムーズなすり足ステップを器用にこなし、タイムリーに頭の位置を動かすボディワークと反応はそれ相応の水準にある。

ロメロ独特の構えとファイト・スタイルは、当然彼自身の個性と選択でもあるが、上述したトレーナー,ゴードンの教えとの見方も成り立つ。

ディヴィスが「上から目線」の強引な打ち合いに出ると危ないけれど、クルス戦と同じイン&アウトで捌きに徹した場合、ロメロが突破するのは相当な困難を伴う。


そしておそらく、と言うか十中八九、ディヴィスはクルス戦と同じ戦術に出るだろう。初回、立ち上がりの数十秒間はサーベイを兼ねた様子見をする筈だから、ロメロには開始ゴングと同時に奇襲を仕掛ける策もあるにはある。

ただ、それもディヴィス陣営は織り込み済みで対応する筈・・・。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
G・ディヴィス:-650(約1.15倍)
I・クルス:+475(5.75倍)

<2>5dimes
G・ディヴィス:-699(約1.14倍)
I・クルス:+500(6倍)

<3>betway
G・ディヴィス:-714(約1.14倍)
I・クルス:+450(5.5倍)

<4>ウィリアム・ヒル
G・ディヴィス:1/8(1.125倍)
I・クルス:9/2(5.5倍)
ドロー:22/1(23倍)

<5>Sky Sports
G・ディヴィス:1/8(1.125倍)
I・クルス:5/1(6倍)
ドロー:33/1(34倍)

スポーツブックのオッズが意外に接近しているのも、「何をしでかすかわからない」ロメロのハチャメチャぶりが原因だと推察する。

ディヴィスの優位に対する確信は揺るがない(これには同意)。けれども、ロメロなら何が起きても不思議はない。

唯一最大の懸念は、試合そのものが荒れること。ロメロは相変わらずのラフ&ダーティを繰り出すだろうし、ディヴィスが”捌き”に徹した場合、フラストレーションを溜め込んでその頻度は否が応でも増す。

バッティングによるアクシデントも当たり前に想定の範囲内だが、もしもそうなった時、ディヴィスの”荒ぶる魂”が発火し、無様な反則の応酬に堕す可能性がゼロとは言い切れない。

最悪の場合、カルヴィン・フォード(ディヴィスのチーフ)とゴードンら、セコンドまで巻き込む大騒ぎ(メイウェザー VS ジュダー戦の再現)に発展する恐れが無きにも非ず・・・。


Part 1

◎デイヴィス(27歳)/前日計量:133.75ポンド
現WBAライト級正規(V1),元WBA S・ライト級(V0/返上).元WBA S・フェザー級スーパー(第1期:V2/第2期:V0:返上),元IBF J・ライト級(V1/はく奪:体重超過)王者
戦績:26戦全勝(24KO)
アマ通算:206勝15敗
2012年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
ナショナルPAL優勝2回
ナショナル・シルバー・グローブス3連覇(ジュニア)
ジュニアオリンピック優勝2回
※アマ時代(シニア)のウェイト:バンタム級
身長:166(168)cm/リーチ:171(175)cm
※Boxrecの身体データが修正されている/()内はM・バリオス戦当時の数値
好戦的な左ボクサーファイター


◎ロメロ(26歳)/前日計量:134.25ポンド
戦績:14戦全勝(12KO)
アマ戦績:25勝10敗
身長,リーチとも173センチ
右ボクサーファイター

※軽めに仕上げたディヴィスは、やはりクルス戦同様「機動力勝負」を描いての思惑なのか、はたまたオーバーワークによる調整ミスなのか・・・?

 

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■オフィシャル

主審:デヴィッド・フィールズ(米/ニュージャージー州)

副審:
ロン・マクネア(米/ニューヨーク州)
ケヴィン・モーガン(米/ニューヨーク州)
ロビン・テーラー(米/ニューヨーク州)

立会人(スーパーバイザー):未発表