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ネットオヤジのぼやき録

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タンクかローリーか /注目のライト級決戦を占う Part 1 - G・ディヴィス VS R・ロメロ 直前プレビュー -

2022年05月28日 | Preview

■5月28日/バークレイズ・センター,N.Y./WBA世界ライト級タイトルマッチ12回戦
正規王者 ジャーボンティ・ディヴィス(米) VS WBA1位 ローランド・ロメロ(米)


※ファイナル・プレス・カンファレンス(抜粋)


マリオ・バリオス(米)を終盤のTKOに屠り、「擬似3階級同時制覇」を成し遂げた後、140ポンドの正規王座と130ポンドのスーパー王座(いずれもWBA)を返上。

しばしの間(?)、135ポンドのライト級に留まるらしいタンク・ディヴィスが、ラスベガスで生まれ育ったキューバ移民の俊英を挑戦者に迎えて、準ホームになりつつあるニューヨークの新名所を舞台に3度目の防衛戦に臨む。

老いらくのユリオルキス・ガンボアとレオ・サンタクルスを倒し、180センチ近い長身のバリオスも粉砕。


小兵の不利を感じさせない溢れんばかりのパワー(パンチ&フィジカル)と、突出した身体能力の高さ(一定水準以上のスピード&柔軟性)をこれでもかと見せ付ける反面、打ち合いに雪崩れ込むと攻防のキメが粗くなり、余計な被弾で冷や汗をかく場面と縁が切れない。

「自信と過信は紙一重」

日本人なら誰もが良く知る言葉で、高木琢也,三浦淳宏,平山相太,大久保嘉人,柴崎晃誠ら、錚々たる面々を輩出した高校サッカーの名門,長崎国見を率いた小嶺忠敏元監督(こみね・ただとし/年明け早々に逝去)が座右の銘にしていたことでも有名な格言(?)である。


まさしくと言うべきか、文字通りの「上から目線」で相手を見下し、力でねじ伏せようとする傾向・性癖が目立つディヴィスだが、恵まれたフットスピードと鋭い反応をフル回転させて、右に左に体を翻しながら相手の前進をかわしつつ、左ジャブを間断なく突き、安全圏に身を置いてカウンター(アッパーも得意)を合わせる技と駆け引きも使いこなす。

ディヴィスよりも小さな体躯から、想像を超える爆発力とスピード&シャープネスを兼ね備えたパワーショットを振り回し、”ピットブル”の愛称さながらガンガン前に出てくるイサック・クルスの突進からベルトを死守した昨年12月のV2戦が好例。

最終12ラウンド終了のゴングが鳴った直後、真っ先に両手を高く掲げるバンザイ・ポーズでクルスが勝利を誇示するや否や、コーナーに駆け上がって「勝ったのはオレ様だ!」とアピールし返すディヴィス。


メキシコ系移民が多いロサンゼルス(ステープルズ・センターでの開催)のファンから、これでもかと盛大なブーイングを浴びたタンクは、2~3ポイントの接近したオフィシャル・スコアも意に介さず、「文句があるなら言って見ろよ。聞いちゃいないけどな。」とでも言いたげな、メキシコ系のファンがさらに苛立つであろう、憎々しげな表情を浮かべて挑発的な言動をエスカレートさせる。

有り余る自信と自負心は、そのまま過剰な思い込み(思い上がり)と途方もない自己満足に陥る危険性を常に孕む。

メイウェザーやディヴィスに限らず、かつてのバーナード・ホプキンスに代表される「剥き出しのエゴ」には心底辟易とさせられるが、パワーと押しの強さで敵わないと判断した途端、影響下にあるメイウェザーよろしく、迷うことなくリスク回避一辺倒へと戦術転換できてしまう。


「ここまで当て逃げを徹底されたら、(現在のレフェリング&スコアリングのトレンドにおいて)真っ正直なファイター・タイプは完全にお手上げ・・・。」

何よりも「勝ち味」を最優先する割り切りの良さ、ぴったり板に張り付いたマタドール・スタイルの違和感の無さには、悔しいけれど、好き嫌いを超えてシャッポを脱がざるを得ない。

ほとんど打たれた痕跡のない綺麗な顔は、僅少差にも余裕綽々のディヴィスだけでなく、大魚を釣り逃したクルスも同じだったが・・・。


”ローリー”のニックネームで呼ばれるロメロは、世界的に有名なエアロバティック・チーム,サンダーバーズが本拠にするネリス空軍基地に隣接したノース・ラスベガスの出身。

ビッグネーム(?)との対戦は今回が初めてということもあり、日本のファンには馴染みが薄いと思う。「ロメロ?。誰だそいつ?」という方がおられたとしても半ば当然。ところがどっこい、王国アメリカではそれなりに大きな注目を集めている。

いわゆる「ラスベガス・ネイティブ」になるけれど、一家はキューバからの移民で、父のローランド・シニアは国内選手権を3度制したトップクラスのアマチュア選手だったとのこと。


キャリアは限定的ながら、一応アマチュアの経験も有り。2016年暮れのプロ・デビュー以来、負け無しの14連勝(12KO)をマーク。一昨年8月には、コネチカットのモヒガンサン・カジノでジャクソン・マルティネス(ドミニカ)を3-0の判定に下して、WBAの暫定王座を獲得。

暫定の但し書き付きではあるものの、ラスベガス出身のボクサーとして世界のベルトを巻いた第2号となる。なみに第1号はIBFのJ・ミドル級王座に就いたイシェ・スミスで、2013年2月、コーネリアス・バンドレイジに2-0判定勝ちで獲得。しかし同年9月の初防衛戦で、カルロス・モリナに1-2判定負け。

パンチもあるし技術もしっかりしているのに、相手の出方を探り過ぎていつも接近した内容になってしまう。”おっかなびっくり”を絵に描いたような探り方は、思わず「へっぴり腰」と野次を飛ばしたくなるほどで、大事な試合の大事な場面を引き寄せ切れず短命政権に終った。


石橋を叩き壊しても渡らないラスベガス・ネイティブの先達とは対照的に、”イケイケ・どんどん”の好戦的なスタイルを貫くロメロ。イサック・クルスとはかなり趣を異にする一風変わったスタイルの持ち主だが、とにかく威勢がいいこと夥しい。

なお、ロメロ独特と表するべき、”一風変わった”スタイルについては、「Part 2」で少し詳しく触れることにする。

昨年7月、サンアントニオのAT&Tセンター(メイン:ジャーメル・チャーロ VS B・カスターノ第1戦)で、WBSSのS・ライト級に出場したアントニー・イギ(スウェーデン)に7回TKO勝ち。暫定王座のV1に成功している。

「イギが135ポンドまで絞って、なおかつ良好なコンディションを維持できるようなら、そう簡単な試合にはならないだろう。だが、その逆だったら勝負は早い。ロメロが序盤で倒す。」


イギの調整に注目が集まる中、公式計量で秤が示した数値は、なんと140.2ポンド(!)。5.2ポンドものオーバーは流石に呆れるしかなく、「始めから落とす気がなかった」と非難されても返す言葉がない。

140ポンドを主戦場(140~147ポンドでの調整が目立つ)にしていたイギについて、ロメロ陣営は「多分こうなるだろうと思っていた。」と当たり前のように言い放つ。

試合が中止されてもおかしくない状況だったが、ロメロ陣営は「仮にヤツが154ポンドだったとしても構わない。どんな事態になっても試合をやる。我々はそのつもりで準備をしてきた。」と豪語。


イギの報酬は当然減額され、開催地のテキサス州とロメロ陣営が折半する一般的な対応が採られたようだが、ロメロ陣営はさらなるボーナス(金額は非公開)を受け取ったとされる。

事によると、イギのウェイトオーバーを見越したロメロ陣営が、あらかじめ相応のペナルティを契約に含めていたのかもしれない。

当日のリバウンドにも制限がかけられた筈だが、そこは判然としない。いずれにしても、ロメロ陣営が公然と言い放った「試合の中止など有り得ない。イギのウェイトがウェルターでもS・ウェルターでも問題はない。」との言葉は、紛れもない事実だった。

そしてこの日も、ロメロは持ち前の”イケイケ・パワー殺法”全開で攻め続け、ウェイト・ハンディをものともせずに強打でねじ伏せてしまった。


「次の相手?。ディヴィスしかいない。135(ライト級)でも140(S・ライト級)でも、階級はヤツの好きにすればいい。俺はどっちでもやれる。ジャーボンティにその度胸があればだがな。」

140ポンドオーバーのイギを粉砕した直後のインタビューで、ロメロは怪気炎を上げる。暫定のベルトを最大限に利用して、ディヴィスの一本釣りを仕掛ける算段なのだが、イギ戦の翌月、WBAのメンドサ・ジュニア会長が暫定王座の撤廃をはっきり明言。

長きに渡る批判を風に柳(?)と受け流し、「正規」+「暫定」の1階級2王者並立を押し通した挙句、「スーパー」+「正規」+「暫定」の3人制にまで手を拡げ、矢のような非難を浴び続けて「暫定は止める」と言い出してから、いったい何年経っただろうか。

暫定を引っ込める代わりにまたもや「ゴールド王座」なるベルトを捻り出すなど、往生際が悪いことといったらない。「ベルトの換金(承認料)」に味をしめた認定団体の末路、ボクシングの教科書を誰かが作るとしたら、是非とも載せていただきたい堕落・転落の軌跡である。


とにもかくにも、WBAランキングの全17階級から、わずらわしいことこの上ない「暫定王者」の名前は消えた。

しかし、ミニマム,L・フライ,フェザー,ライト,ウェルター,ミドル,S・ミドル,クルーザー,ヘビーの9階級は、「スーパー」+「正規」の2王者並立を継続中。

バンタム(井上尚弥/IBF統一),S・バンタム(M・アフマダリエフ/IBF統一),S・ウェルター(ジャーメル・チャーロ/4団体統一),L・ヘビー(D・ビヴォル)の4階級は「スーパー1人制」の変則状態であり、「正規王者×1人」体制に正常化されたのは、フライ級(A・ダラキアン)とS・フェザー級(R・グチェレス)の2つのみ。

ディヴィス(正規)の返上に続き、スーパーのベルトを保持するジョシュ・テーラー(4団体統一王者)もWBAの指名戦指示を拒否して返上を表明済みの140ポンドは、後継王者の決定戦が未定。


ベルトを失う暫定王者たちには「ランク1位+指名挑戦権」が保障され、デイヴィスとの対戦交渉も一旦まとまり、レギュラー王者 VS 指名挑戦者の対決が実現の運びとなった。

本来ならば、昨年12月5日のディヴィスの挑戦者は、イサック・クルスではなくロメロだったのである。


12月5日L.A.開催で正式決定がリリースされたのは、昨年の10月20日。しかしそれから10日程経った10月末、ロメロに性的暴行を受けたと女性が訴えを起こす。

被害を受けた女性は8名に及ぶなどの情報が、SNSを中心としたネット上であっという間に拡散。

メイン・スポンサーで試合を中継するShowtimeの動きは素早く、即日のうちに上層部による会議が開かれ、翌日には挑戦者の差し替え(ロメロの欠場)が決まったという。

ロメロ本人にも因果を含めた上で、Showtimeが挑戦者の変更(ロメロ→クルス)を公表したのは、告発から僅か2日後という早業だった。


事と次第によっては、かつてのマイク・タイソンのように長期間の収監も有り得る。コンプライアンス上の問題もさることながら、ロメロにとってはボクサー人生を左右する緊急事態勃発と言う訳で、どうなることかと成り行きが心配されたが、年明け早々の今年1月上旬に不起訴が決定。

当初から無実をアピールしていたロメロと陣営は、「正しい決定が為された。」と胸を張った。

もっとも告発された性的暴行は2019年の秋だったとのことで、録音や動画,写真などが残っていれば話は別だが、物証が無ければ明確な立証はそもそも困難であり、問題の女性にも「示談金目当てのデッチ上げ」との批判が集中していたらしい。

いずれにしても、若く伸び盛りでハンサムなボクサーは例外なくおモテになる。有名税だとタカを括っていると、それこそ「身から出たサビ」を地て行く破目に陥りかねない。オフの時期のナイト・ライフにはくれぐれもご用心を・・・。


◎参考映像:公開練習(フル映像)
Gervonta Davis vs. Rolando Romero: Media Workout | SHOWTIME PPV



圧倒的な攻撃力で不利の予想を覆し、敗れはしたものの大いに男を上げた代理出場のイサック・クルスという、実に魅力的な”第3局”を確立できたのは、対立する「トップランク+GBP連合軍」にこの階級の主なタレントを押さえられているShowtimeとPBCにとって、文字通りの結果オーライ。

主要な王者とランカーの大半を独占するウェルター級とは、間逆の状況にあるのがライト級で、ディヴィスが135ポンドの統一路線に割り込んで行く可能性は今のところ極めて低い。

まあ、クルスが居たからShowtimeも迅速に動けたとも言える訳で、この試合の内容と結果次第では、「ディヴィス VS クルス II」だけでなく、「ディヴィス VS ロメロ II」は勿論、「クルス VS ロメロ(2試合)」も具体化できる。


マリオ・バリオス戦でディヴィスが発揮したフィジカル&パンチング・パワーは、「さらなる増量(ウェルター級参戦)」への可能性を感じさせるものではあった。

現時点では茶飲み話の域を出ないけれど、少なくとも、エイドリアン・ブローナーとマイキー・ガルシアよりは、「ネクスト・パッキャオ」への期待を実感させてくれる。

しかしながら、「擬似3階級同時制覇」に成功した後、WBAから「ベルトをどれか1つに絞れ」と迫られたディヴィス陣営は、140ポンドではなく135ポンドを選んだ。


4団体を統一したジョシュ・テーラー(英)はマッチルームの支配下選手だが、米本土ではトップランクと契約(共同プロモート)していることに加えて、ウェルター級参戦への動きが本格化し始めている。

ジョージ・カンボソス・Jr.に番狂わせを許したテオフィモ・ロペスも、かねてから噂が出ていた通り140ポンドへの参入を表明済みだが、一時は緊張したトップランクとの関係も一応修復された格好。

S・ライト級に上げても統一戦の実現が難しいことに変わりはなく、増量のリスクに見合うだけのリターンが望めない。陣営の判断は現実的で、間違っていないと思われる。


仮にウェルター級まで上げても、ブローナーとマイキーよりは活躍できそうだと書いたけれど、彼らの二の舞を踏む確率も低くはない。

計量後のリバウンドによるパワーアップを大きな武器にしていたライト級までのブローナーは、世界中のファンが胸に抱いているであろう淡くも儚い夢・・・すなわち、”攻撃的なメイウェザー”を具現化するのではないかという願いに火を着けた。

しかし、S・ライト級に上げて以降、ファンの願いは一気にクール・ダウン。そしてウェルター級に上げた途端、それは完全に費える。

”計量後のリバウンド”という最大の武器を失ったブローナーは、ウェルター級では何の変哲もないアベレージのランカー、出来損ないのメイウェザーもどき(失礼)と化した。


「パッキャオを超えて見せる。」

そう豪語していたマイキーも、140ポンドのIBF王座を攻略したセルゲイ・リピネッツ(ロシア)戦で、増量の限界がこれでもかと剥き出しになった。

ブローナーの失敗を既に見ていた我々ファンの目には、マイキーのウェルター級進出は、何1つ成算を見い出せない暴挙と映り、手痛い敗北以外の予見が無理なエロール・スペンスへの挑戦は無残な結果に終る。


ブローナーとマイキーよりは・・・との無責任(申し訳ない)な予見は、「ひょっとしたら、第二のショーン・ポーター的存在にはなれるかも」と言った程度が限界で、それ以上確たることを申し上げられる段階にはない。

階級アップはそれだけ不確実な要素を孕んでいるリスキーなもので、もともと成功する目が少ない大博打なのである。

ベルトの数が増えたお陰で、政治力と資金力をフル動員して上手く立ち回り、階級を代表する真の実力者との対戦を避けたまま、チャンピオンにだけはなれてしまう。

本当は失敗しているにも拘らず、「何階級制覇」の看板が手に入るのは、ベルトのインフレ(常態化)がもたらした悪しき副産物でしかない。


拙ブログの戦前予想は次章(Part 2)にて。
Part 2 へ

◎デイヴィス(27歳)/前日計量:133.75ポンド
現WBAライト級正規(V1),元WBA S・ライト級(V0/返上).元WBA S・フェザー級スーパー(第1期:V2/第2期:V0:返上),元IBF J・ライト級(V1/はく奪:体重超過)王者
戦績:26戦全勝(24KO)
アマ通算:206勝15敗
2012年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
ナショナルPAL優勝2回
ナショナル・シルバー・グローブス3連覇(ジュニア)
ジュニアオリンピック優勝2回
※アマ時代(シニア)のウェイト:バンタム級
身長:166(168)cm/リーチ:171(175)cm
※Boxrecの身体データが修正されている/()内はM・バリオス戦当時の数値
好戦的な左ボクサーファイター


◎ロメロ(26歳)/前日計量:134.25ポンド
戦績:14戦全勝(12KO)
アマ戦績:25勝10敗
身長,リーチとも173センチ
右ボクサーファイター

※軽めに仕上げたディヴィスは、やはりクルス戦同様「機動力勝負」を描いての思惑なのか、はたまたオーバーワークによる調整ミスなのか・・・?


◎参考映像:前日(公開)計量
NEAR BRAWL BREAKS OUT! GERVONTA DAVIS PUSHES ROLLY AT WEIGH IN! TEAMS GO AT EACH OTHER - FULL VIDEO


◎前日(公開)計量(フル映像)
Gervonta Davis vs. Rolando Romero: Weigh-In | SHOWTIME PPV
https://www.youtube.com/watch?v=eO2550o3GNw

◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
Gervonta Davis vs. Rolando Romero: Press Conference | SHOWTIME PPV
https://www.youtube.com/watch?v=w8FQHG6gapM


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オフィシャル

主審:デヴィッド・フィールズ(米/ニュージャージー州)

副審:
ロン・マクネア(米/ニューヨーク州)
ケヴィン・モーガン(米/ニューヨーク州)
ロビン・テーラー(米/ニューヨーク州)

立会人(スーパーバイザー):未発表