ネットオヤジのぼやき録

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ホームのオリンピアンに必殺の右は炸裂するのか?! - 尾川 VS コルディナ プレビュー -

2022年06月04日 | Preview

■6月4日/モーターポイント・アリーナ,カーディフ(英/ウェールズ)/IBF世界J・ライト級タイトルマッチ12回戦
王者 尾川堅一(日/帝拳) VS IBF3位 ジョー・コルディナ(英/ウェールズ)



4年半前のテヴィン・ファーマー戦(2017年12月/ラスベガス,マンダレイ・ベイ)は、9対1の万馬券扱い。2度目の渡米となった昨年11月のアジンガ・フジレ戦(ニューヨーク,MSGシアター)も、概ね3対1の不利だった。

そして3度目の海外は、自身初の英国遠征。載冠への期待が高まる挑戦者(プロ14連勝中の元オリンピアン)のホームタウンということもあって、今度もまた戦前の賭け率はおおよそ2.3対1.6と、接近はしているもののやはりアンダードッグ。
※賭け率では数字の大きい方が不利

ニューヨークの殿堂MSG(5千人収容のシアター)で披露した”快心の右”が無く、フジレ戦の勝利が僅差の判定勝負にもつれ込んでの薄氷だったとしたら、オッズはもっと大きく離れていたに違いない。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>5dimes
尾川:+145(2.45倍)
コルディナ:-175(約1.57倍)

<2>Bet365
尾川:+125(2.25倍)
コルディナ:-175(約1.57倍)

<3>ウィリアム・ヒル
尾川:11/8(2.375倍)
コルディナ:4/7(約1.57倍)
ドロー:16/1(17倍)

<4>Sky Sports
尾川:5/4(2.25倍)
コルディナ:4/7(約1.57倍)
ドロー:16/1(17倍)


◎過去記事:4年ぶりの米本土上陸 /汚名返上の尾川が殿堂MSGで赤いベルトに迫る - フジレ VS 尾川 直前ショート・プレビュー -
2021年11月28日
https://blog.goo.ne.jp/trazowolf2016/e/d5b44b1dc63a2671a08cf85701acb3da


◎ファイナル・プレス・カンファレンス
CRUNCH TIME!! - Kenichi Ogawa vs Joe Cordina ・ FULL FINAL PRESS CONFERENCE ? DAZN


◎ファイナル・プレス・カンファレンス(フル映像)
KENICHI OGAWA vs. JOE CORDINA PRESS CONFERENCE LIVESTREAM
https://www.youtube.com/watch?v=FS0KaYxOs6U


リオ五輪の代表(ライト級2回戦敗退)からプロ入りした挑戦者コルディナは、開催地カーディフの出身で、公称175センチ(身長・リーチとも)の大柄な右ボクサーファイター。

一撃で相手を沈めるパワーには欠けるものの、秀逸なスピード&クィックネスに本領と真価を発揮する技巧派に分類される。

左のガードを低く楽に構えて、素早いポジション・チェンジを繰り返しながら、ジャブ,ワンツーを軸にしたコンビネーションでペース・メイク。けっして無理はせず、判定勝負を前提に展開を組み立てて行く。

「ウェールズの魔法使い(The Welsh Wizard)」のあだ名は、いささか大袈裟に過ぎていかがなものかとは思うけれど、スタイルと戦術に由来するものと考えていい。


エディ・ハーンの積極的なスカウトに応じて、アマで叶わなかった世界の頂点を目指し、2017年4月にプロ・デビュー(4回戦)。暮れの12月までに6試合をこなし、首尾良く全勝(6KO)。

コーナーを取り仕切るのは、ハーンが厚い信頼をおくマッチルームの看板トレーナー,トニー・シムズ。


海外では選手だけでなく、トレーナーも原則フリーランスである。それぞれが拠点を置く国(アメリカなら各州)のコミッションにライセンスを申請し、認可を受けてプロとして活動をするのが基本。

有名トレーナーの見習いに付く付かないは別にして、長い修行を経て一本立ちを果たし、チャンピオンのコーナーを歴任して実績を積み、上手くスポンサーを見つけて自前のジムを開くことができるのはほんの一握り。

ボクシング・トレーナーの代名詞とも言うべき名匠エディ・ファッチですら、経済的な意味合いも含めて、本当の成功に辿り着いたのは還暦を過ぎてからだった。


GGGとのコンビで大きな成功を収めたアベル・サンチェスも、ビッグベア(カリフォルニア最大の景勝地であり高地トレーニングの名所としても有名)に宿泊施設付きのジムを持っているが、もともとはエマニュエル・スチュワートが期間限定のキャンプを行う為に建設したもの。

心臓の発作で長い休みを取った後、2001年(45~46歳)頃から本格稼動させているが、正式なオーナーになったのは50歳を過ぎてからとされる。

独立独歩の選手とトレーナーは、それぞれ個別に契約を結ぶ。ライバル関係にあるプロモーションの支配下選手を同時に預かり、自分が見ている選手同士が戦う場面も日常的に起こり得る。

両方のコーナーに付く訳にはいかないから、どちらか一方との契約を解消したり、その試合だけどちらかの選手に別のトレーナーを依頼するなど、大変な思いをしなくてはならないが、誰もが「プロなら当たり前」との認識で割り切っているから、感情的なしこりを残すことはまずない。


ただし、真に有能なコーチの数は限られる為、力のあるプロモーターがトレーナーを丸抱えにするケースも皆無ではない。

代表的なのはドイツで、WBSSを仕掛けたザウアーラントとウニヴェルスムの2大プロモーションは、それぞれ彼の地を代表するトレーナーと専属契約を取り交わし、看板選手やスカウトに成功した金の卵の育成を託す。

シムズとマッチルームも、ドイツに倣った専属契約の範疇と見ていいだろう。

選手とトレーナー(セコンド含む)、マネージャーをジムが丸抱えにして、ライセンスの申請もすべてジムを通して行う日本の統括システムは、世界に例を見ない我が国独自の方式である。


◎参考映像:トニー・シムズとコルディナのミット打ち
LEFT-HOOK THE KEY PUNCH?! - JOE CORDINA WORKS THE PADS W/ TONY SIMS JUST 8 DAYS OUT FROM OGAWA FIGHT
公開日:2022年5月28日



プロの初陣は130ポンドのS・フェザーだったが、2戦目から135ポンドのライト級にアップ。6戦目で142ポンド(S・ライト級リミット+2ポンドのウェルター級)の調整を経験しているが、135ポンドでキャリアメイクを進めてきた。
※アマのライト級はジャスト60キロ上限(132ポンド)

7戦目(2018年3月)でWBAインターナショナル王座を獲得すると、続く8戦目は、権威もへったくれも何もないベルトの初防衛戦。(2018年8月)。

バーケンヘッド(マージー川を挟んでリヴァプールと隣接する中規模の港街)から呼ばれたイングランドの中堅選手ショーン・ドッドに大差の3-0判定勝ち。

この試合には空位の英連邦(Commonwealth/British Empire)ライト級王座も懸けられており、20世紀初頭(1908年頃)から1世紀を超えて受け継がれてきた伝統のチャンピオン・ベルトを巻く。


2018年は2度の地域王座戦のみで終えることとなったが、翌2019年4月、最初の関門を迎える。イングランドのローカル・トップ,アンディ・タウンエンドとの英国(BBBofC British)王座決定戦である。

ヘビー級の問題児デレク・チソラを筆頭に、ナジーム・ハメドをコピーしたスタイルで話題を呼んでいたウェルター級のホワイト・ホープ,ジョシュ・ケリー、コナー・ベン(ナイジェル・ベンの息子)らが顔を揃えたO2アリーナ(首都ロンドンはグリニッジにある2万人収容の屋内会場)での大興行。

事実上のメインはノンタイトル10回戦のチソラだが、ケリーのWBAインター王座防衛戦に加えて、オリンピアンで近い将来の大成を確実視されるコルディナをセミ格に据えた布陣を敷く。


対戦当時30歳のタウンエンドは、22勝(14KO)4敗の好レコードを残し、イングランド(BBBofC/English)と中部地域(BBBofC/Central Area)のタイトル歴を持つ痩身の右ボクサーファイタータイプ。

好戦的な傾向が強くインファイトも厭わないが、中間距離でタイミング良く合わせる左右フックのカウンターが上手く、”KOキッド(The KO Kid)”の愛称で親しまれてきた。

断るまでもなく、前評判はコルディナが断然優位。

「30歳を一区切りにする。家族との約束でもある。」と戦前のインタビューで語り、ボクシング人生を懸けて試合に臨んだタウンエンドだが、スピードと反応,精度の差は埋めようがなく、立ち上がりからペースを握られたまま、具体的かつ効果的な打開策を見い出せない。


折り返しとなる第6ラウンド、コルディナの右アッパーをまともに貰って最初のダウン。エイト・カウントで再開となるも、追撃をかわし切れず2度のダウンを追加されてジ・エンド。

想定外の苦戦を指摘する関係者が散見される中、まったく危なげのない勝利で連勝を9(7KO)に伸ばし、株価をさらに押し上げるコルディナ。

世界を視野に捉え出したプロスペクトを横目で見ながら、「このポジションまで戻って来る為に、順調に行ったとしても2~3年はかかるだろう。その猶予は今の僕には許されない。」と延べたタウンエンドは、愛する家族に見守られながら静かにリングを去った。


◎公開練習(フル映像)
Kenichi Ogawa vs Joe Cordina Plus Undercard Media Workout



英連邦と英国の2冠王となり、優れた素質と将来性をあらためて印象付けたコルディナに、同じウェールズの長身ライト級が挑戦の名乗りを上げる。

公称183センチのギャヴィン・グウィンは、悲劇の拳雄,ジョニー・オーウェンと同じマーサー出身。オーウェン以来絶えて久しい英国王座を生まれ故郷に持ち帰るべく、O2アリーナのリングに登場(2019年8月)。

2016年7月のデビューから無傷の11連勝(1KO/対戦当時)を積み重ねており、KOの少なさが珠にキズとは言え、サイズのアドバンテージは侮れない。

ヴァシル・ロマチェンコにルーク・キャンベルが挑む3団体統一ライト級王座戦がメインとあって、まともに考えればコルディナの挑戦を睨んだカード編成という次第。


「180センチオーバーのライト級」は、もはやそれだけで反則という見方も成り立つけれど、惜しいことにグウィンには1発がない。哀しいくらいに。そして大型選手にありがちなスピード(クィックネス)の不足。

フットワーカーでもジャバーでもなく、平均的なボクサーファイトを続けて最後は押し勝ってしまう。攻守の基本的な技術に不足はないものの、際立った特徴はタッパのみ。

この大柄な同胞に対して、コルディナがどう対処するのか。ファンと関係者の注目はそこに集まる以外にない。


シムズとコルディナが選択した戦術は、「距離をキープしながらの安全策」だった。KOが1つしかないとは言え、計量後のリバウンドも含めた体格差は小さからぬ懸念材料との判断で、遠目のミドルレンジをベースに左腕を腰まで下げて挑発しつつ、ヒラリと左右に身体を翻してグウィンを捌く。

接近戦は躊躇することなくクリンチで潰し、すかさずホールド。時にロープを背負ってメイウェザーばりのディフェンスワークに及ぶも、すぐにサイドへ回り込んでリング中央に戻る。

こうしてリスク回避を徹底しつつ、「魅せるディフェンス」への適性も開陳(限定的ではある)しつつ、連打でグウィンを押し返す場面も作り、ソツのないラウンド・メイクでセーフティ・リードを確保。


しかし、ラウンドの進捗に伴ってお互いが疲れ、揉み合いの時間が徐々に増える。クリーンに打ち合いたいグウィンのフラストレーションは溜まる一方で、密着した状態から離れ際にコツコツと腹や頭を小突くコルディナのセコさ(プロとしては半ば当然の行為ではある)が、グウィンのストレス度をさらに押し上げる。

試合がやや荒れ気味になってきた第7ラウンド、コルディナによる股間直撃のローブローが発生。ここまでスポーツマンライクに徹して我慢してきたグウィンも、声を上げて顔を歪め反則をアピール。

無論意図的なファウルではなく、態勢的にも不可抗力の可能性が高いことは明白だが、かなりの確率で低打になるであろうことは、コルディナも十二分に意識はしていた筈。


勝利を義務付けられたスター候補に、やらずもがなの忖度をするのかしないのか。

イングランドから選出されたレフェリー、ジョン・レイサムの振る舞いに注目していると、まずはグウィンの様子を確認して、呼吸を整える間を与える。

その後再開に備える両者をあらためて分けると、グウィンにニュートラル・コーナーでの待機を命じ、コルディナの手を取ってリング中央付近に明日身を進め、1点減点の宣告。


ボクシング発祥国の誇りと矜持を、レイサムは忘れていなかった。故意の要素が限りなくゼロに近いとしても、悪質な反則には厳罰を持って臨む。

さらにレイサムは、揉み合いの中で起きる軽いラビットパンチやキドニーブローへの注意にも抜かりがなく、荒れ模様から泥仕合(故意の反則と罵倒の応酬)に発展することがないよう適切に処理して行く。

第9ラウンドには、何度目かのラビットパンチへの注意を行った直後、抱き付いてくるコルディナに対して、思わずグウィンが上から後頭部に1発お見舞いすると、即座にレイサムが割って入り、今度はグウィンに減点1。


悪質さのレベルで言えば、コルディナの股間へのパンチほど酷くはない。しかし、レフェリーによるチェックのすぐ後、グウィンは注意を受けたばかりの行為に及んだ。

主審の判断を甘く軽く考えていると取られても止むを得ず、レイサムはすかさず減点を宣告することで両選手へのリマインドを図るのと同時に、試合がこれ以上荒れることがないよう、空気を引き締めクールダウンを促す。

露骨なメイウェザー擁護に象徴されるラスベガスのレフェリング&スコアリングが、新世紀に入って以降、堕落の一途を辿って来たことを振り返ると、実に感慨深いシーンではあった。

勿論アメリカにも、河野公平 VS 亀田興毅戦を裁いたセレスティーノ・ルイス(イリノイ州)のように、気骨に溢れた良い審判はいる。だが、絶滅危惧種と呼びたいくらい、その数は少なく例外的と言って間違いない。


試合はそのまま規定の12ラウンズを終え、明白な3-0判定でコルディナの手が挙がる。勝利そのものに疑問はないが、コルディナの戦い方について賛否両論が飛び交う。

「変幻自在。高度なボクシング・レッスンを見ているようだ。オリンピック出場のテクニックとセンスは伊達じゃない。」

「スピードに差が有り過ぎた。でもだからこそ、1発のないグウィンから逃げるんじゃなくて、積極的にカウンターを狙って欲しかった。クリンチワークも見ていて気持ちのいいものじゃない。」

おそらくだが、このタイトルマッチを境にして、「ウェールズの魔法使い(The Welsh Wizard)」のニックネームが闊歩し始める。


コルディナに善戦したグウィンは、パンデミックによる休止を挟み、アイルランドの元トップ・アマ,ジェームズ・テニスンに6回TKO負けを喫してしまい、キャリアの危機と呼んでも差支えがない苦況に追い込まれたが、その後2連勝して復調(英連邦王座を獲得)。

今年4月15日のヨーク・ホール(日本の後楽園ホールに該当するロンドンのクラシックなボクシング・ホール)興行で、リヴァプールのローカル・スター候補,ルーク・ウィリスに大差の12回判定勝ち。

5年越しの念願を叶えて、見事英国王座の奪取に成功。伝統のロンズデール・ベルトを手に、故郷マーサーに錦を飾った。


そしてコルディナは、グウィン戦から3ヵ月後の2019年11月、モンテカルロで行われたマッチルームの興行に参戦。
※メイン:アレクサンダー・ベスプーチン VS ラジャブ・ブタエフ(WBAウェルター級正規王座決定戦),セシリア・ブレークフス VS ヴィクトリア・ブストス(女子4団体統一ウェルター級王座戦)

デビュー戦以来となる130ポンドの契約で、メキシコから呼ばれた中堅選手を3-0判定に下して、WBAの下部タイトル(コンチネンタル)を獲得。


「スピード&クィックネスが真骨頂」だと上述したが、確かにパンチング・パワーと切れ味には不満が残る。激戦区の軽中量級で頂点を争うレベルに、まだまだ到達していないのではないか。

我らがホルヘ・リナレスは、卓越したスピード&シャープネスで体力の不足を補い3階級制覇を成し遂げたが、致命的な打たれ脆さに泣かされ続けた。

コルディナにリナレスの切れ味は望むべくもない。無い物ねだりの典型になってしまう。だがしかし、フィジカルの強度に関する限り、コルディナはリナレスほどの危うさを感じさせることはない。

上背を考えても、5ポンドのウェイト・ダウンは簡単ではないと容易に推察される。いよいよ世界に打って出ようかというこの時期に、なぜ階級ダウンを選択したのか。


理由は明々白々。

ジャーボンティ・ディヴィス,ジョージ・カンボソス,デヴィン・ヘイニー,ライアン・ガルシアら、スピード&パワーを高い水準で併せ持つ実力者たちの間に割って入る自信がない。

と言うより、「現時点ではほとんど不可能に近い」と陣営は判断しているに違いない。

ジョジョ・ディアス,リチャード・コミー,ハビエル・フォルトナ,ウィリアム・セペダらが相手なら、それなりにいい勝負ができるだろうし、勝機も十分に見い出せる。けれども、それ以上を期待するのは・・・。

プロモーターのハーンが尾川の獲得(共同プロモート)に踏み切ったのも、コルディナに世界を獲らせんが為と見るのが常道。



※KO宣言のコルディナ(右)に対して「やればわかる。」とやり返す尾川(左)/最終会見より


話を元に戻そう。

モンテカルロから帰国したコルディナは、武漢ウィルス禍による中断。2020年を丸々1年休み、復帰したのは昨年3月20日。

クルーザー級の次期王者候補ローレンス・オコリエと、同じ200ポンドで活躍が期待されるクリス・ビラム・スミスを看板に立てたウェンブリー・アリーナでの興行に、130ポンド+αのキャッチウェイトで参戦。

ベルギー在住のカザフ人,ファルゥク・コゥルバノフ(ファロウク・コルバノフ)とぶつかり、ポイント差が割れる2-0判定勝ち(96-95,98-93,96-96)。


試合の度びにフェザー~ライト級の間を大胆に行き来するカザフ人は、直前の試合(2020年12月/1年2ヶ月ぶりとなるパンデミックからの復帰戦)を139ポンドのS・ライト級で調整しており、前日計量で130.5ポンドを計測。

受けて立つコルディナは、132.25ポンド。計量時点で両者には2ポンド近いハンディがあった。

ウェイト・ハンディの追い風を頼り(?)にした転級2戦目も、「慎重な出はいり+クリンチによる接近戦潰し」の基本戦略に変わりはなく、時折り頭をつけたパンチの応酬にも応じるものの、そうした場面では概ねカザフ人に押し負ける(無理に押し勝とうとしていない面も有り)。


コゥルバノフはフィジカル・タフネスを売りにした屈強なだけのファイターではなく、適度にボックスも交えながら、時に素早いフットワークも繰り出すなど、アベレージのローカル・ランカーとは一線を画す芸達者ぶり。

駆け引きに費やす時間がどうしても増えて、互いに決定的な場面を作ることができず、もどかしいラウンドが続く。

惜しむらくはコゥルバノフのパンチの軽さ。決定力の不足に髭をたくわえた風貌と背格好も含めて、「似た者同士の白兵戦」との見方もあながち間違ってはいないが、煮え切らない展開に終始した感は否めない。


この後、コルディナはさらに2つ勝利を追加しているが、1人は米国在住のヒスパニック系中堅選手で、もう1人はベルギーを拠点に活動するアルメニア人,ミコ・ハチャトリアン。

イリノイから呼ばれたヒスパニック系の無名選手は見るからに小さく、身長&リーチ差を武器にスタートから左リードに合わせて右のオーバーハンドを振るい、相手のタイミングを掌握。あっという間に肩越しの右を決めて試合を終わらせている。

アルメニア出身のハチャトリアンは、詳しい経歴こそ不明ながら、相応のアマキャリアを持っているのは疑う余地がなく、「慎重な出はいり+クリンチによる接近戦潰し」の基本をぶらさず3-0の判定勝ち。公式のスコアは大差が付いた。


S・フェザーに降りたことで、コルディナは安全策の精度を増している。ライト級でも物足りなかったパンチのキレは、慎重さがアップした分確実に目減りしていて、当然のことながら怖さもさらにマイナス。

破壊力満点の尾川の右は要注意。まともに食らったら元も子もない。でも、右以外に恐れる武器はこれといって見当たらない。ライト級のトップ・スターたちに比べれば、まだ何とかやりようはある。

ホームのカーディフに尾川を連れて来ることができれば、何とか12ラウンズを捌き切って、地の利込みの判定勝ちが見込める筈。


とまあ、英国サイドの狙いはそんなところに落ち着くと思っていい。従って、コルディナが正面切って尾川と打ち合うことはないだろう。

「Welsh Wizard」全開の安全策、ギャヴィン・グウィン戦と同じ戦術をベースに組み立てる確率が高いと見る。

では、「Welsh Wizard」のスピード&クィックネスの水準はどの程度なのか?。本当に「魔法使い」と呼べるほど、手の付けられない速さと柔軟性を兼ね備えているのだろうか?。


個人的な見解は「否」である。20世紀に活躍したトップクラスの130パウンダーたちと比較しても、特別速い,柔らかい,巧いといった印象はない。また、瞬間的な踏み込みと右ストレートのスピードなら、尾川もコルディナに引けを取らない。

ノラリクラリと間合いを外され、距離を詰めるとクリンチ&ホールド。その状態で小さなラビットパンチやキドニー,ローブローセコく小突かれる。

打ち合いに持ち込むことができず、イラついて攻め急いでしまい、勢い空振りも増えて自ら見栄えを悪くしてしまう。

当然のように、打ち終わり(空振りの直後)をコツンとジャブや軽打を当てられ、競ったラウンドを持って行かれる。この悪循環にはまり込んで、誤魔化される展開が一番嫌なパターン。


もっとも、コルディナ以上にやりにくいタイプと表してもいい、長身サウスポーのフジレに右を決め切った尾川の充実ぶりを考えれば、むざむざコルディナに名をなさしめることはないと信じたい。

フジレと同様、退いて構える待機型のコルディナに圧力をかけ続ける為には、左のリードが重要なキーになる。

サウスポーのフジレには”いきなりの右”も効果的だったが、上でご紹介したコルディナのミット打ちをご覧いただくとわかる通り、左フックへの念入りな取り組み(動画のタイトルにもなっている)が否でも目に付く。

尾川にロングレンジを思い切り踏み込ませ、十八番の右をかわしざま、カウンターを合わせるセオリーは勿論、右のショートストレートをジャブ代わりに使って、逆ワンツー的に左フックを狙って来ることも想定の範囲内。


フジレに効かせた最初の右は、ロープづたいにサークルする南アフリカンを追い詰め、右フックからの動き出し(反撃)にピタリとアジャストした一瞬の踏み込み、鋭いステップインから放ったカウンターだった。

右のショート(ストレート,フック)とアッパーをアクセントに使いたがるコルディナには、同じタイミングと勢いの右が当たりそうな気もする。

左リードジャブの刺し合いで遅れを取りたくはないが、仮に若干の打ち負けがあったとしても、右ストレート,フックの打ち終わりに左フックを持って行くパターンは、尾川にも是非使って欲しい。


左ガードの低さに誘われるまま、長い右を連射して空振るのは余りに勿体なく、シュガー・レイ・レナードがフロイド・メイウェザー・シニアを、そしてフリオ・セサール・チャベスがロジャー・メイウェザーを瞬殺した時のように、L字を崩すには上下に打ち分ける左フックが極めて重要。

尾川が右にこだわるのは当然にしても、ひとまず固執は避けた方が懸命ではないか。拙ブログとしては、

期待値も込めて、尾川の中盤~後半にかけてのストップ,もしくはKO勝ちと見立てておく。

ただし今度ばかりは、フジレ戦のようにKOチャンスに敢えてし止めに行かず、手堅くラウンドをまとめてポイント勝負に持って行く選択肢は無し。

右を決めてダメージを与えたら、一気呵成に集中打で攻め込み、レフェリーストップを呼び込む積極性がどうしても要る。無駄に回復の時間を与えると、取り返しのつかない結果を招きかねない。


現地入りした尾川は、公開練習と最終会見を予定通りこなし、程良い緊張感の中にもリラックスした表情を見せている。

囲み取材に応じる姿にも余裕が感じられるのは、2度の訪米経験の賜物だろう。

◎6月2日に公開されたインタビュー映像
Kenichi Ogawa DISMISSES Judging Concerns for Joe Cordina World Title Defence | Shakur Stevenson


判定(ホーム・タウン・ディシジョン)への懸念について問われ、「まったく心配していない。」と答えているが、本音は間逆な筈だ。

僅差のラウンドはすべてコルディナに流れる。尾川とチーム帝拳は、間違いなくその覚悟でリングに上がる。そうでないとこっぴどい目に遭う。


◎尾川(34歳)/前日計量:129.55ポンド
元日本S・フェザー級王者(V5)
戦績:29戦26勝(18KO)1敗1分け1NC
2011年度全日本新人王
日本拳法出身/桜丘高校(愛知県豊橋市)→明治大
身長:173センチ
右ボクサーファイター


◎コルディナ(30歳)/前日計量:129.95ポンド
戦績:14戦全勝(8KO)
アマ通算:157勝28敗
2016年リオ五輪代表2回戦(R16)敗退
2015年世界選手権(ドーハ/カタール)ベスト8
2013年世界選手権(アルマトイ/カザフスタン)初戦敗退
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)初戦敗退
2015年欧州選手権(サモコフ/ブルガリア)金メダル
2014年コモンウェルス・ゲームズ(グラスゴー/英スコットランド)銅メダル
階級:ライト級
身長,リーチとも175センチ
右ボクサーファイター





※公称175センチのコルディナと、同じく173センチの尾川だが、フェイス・オフの方の位置を比較しても、ほとんど差がない。リーチもさほど変わらないものと思われる。

ひょっとしたら、サイズの問題は尾川にとって福音となるかもしれない。


◎前日(公開)計量
Kenichi Ogawa vs Joe Cordina ・ FULL WEIGH IN & FINAL FACE OFF ・ DAZN Boxing


◎前日(公開)計量(アンダーカードを含むフル映像)
KENICHI OGAWA vs. JOE CORDINA WEIGH-IN LIVESTREAM
https://www.youtube.com/watch?v=yeCXpiR0tWA


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□リング・オフィシャル:未発表


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■主なアンダーカード
コルディナに敗れたファルゥク・コゥルバノフ(ファロウク・コルバノフ/30歳/19勝3KO3敗)が、昨年12月に獲得した欧州(EBU)王座を懸けて、マンチェスターの中堅黒人選手,ゼルファ・バレット(28歳/27勝16KO1敗)との12ラウンズに臨む(セミ・ファイナル)。

10連勝(8KO)中のS・ライト級ホープ,ダルトン・スミス(イングランド/25歳)は、アルゼンチンから招聘されたローカル・トップ,マウロ・ペロウン(24歳/14勝7KO5敗1分け/好戦的なサウスポー)を相手に、前戦(本年3月)で巻いたWBCインターナショナル王座(シルバー)の初防衛戦(10回戦)。


2017年の欧州選手権(ハルキウ/ウクライナ)でライト級の銅メダルを獲得した元五輪代表候補,カラム・フレンチ(イングランド/26歳/サウスポー)が、S・ライト級契約でプロ3戦目のリングに上がる(初の8回戦)。

ヤファイ3兄弟(カリッド=カル,ガマル,ガラル:東京五輪フライ級金メダル)の真ん中、次男ガマル(30歳/18勝10KO2敗)は、昨年5月の欧州(EBU)王座初防衛戦での敗戦(同じイングランドのジェイソン・カニンガムによもやの0-3判定負け)から、およそ1年ぶりの再起戦。

相手のショーン・ケアンズ(8勝2KO3敗)は、リヴァプール出身の35歳。無名の格下アンダードッグとの典型的な慣らし運転で、まともにやればガマルのワンサイドになる筈だが、狂った歯車をしっかり調整・修正できていないと、思わぬ落とし穴にはまる恐れはある。

ケアンズがカニンガムと同じサウスポーらしいので、再戦を睨んだマッチメイクなのだろうが、だからこそその点は要注意。何にしても、ナメてかからないことだ。


2016年世界選手権(アスタナ/カザフスタン)銅メダリストの女子中量級,スカイ・ニコルソン(豪/26歳)が、128ポンドのキャッチウェイトで8回戦に出場。

プロ・デビューは、今年3月5日のサンディエゴ(カリフォルニア/ロマ・ゴン VS J・C・マルティネス戦のアンダー)興行で、3月26日にリーズ(イングランド)で行われたキコ・マルティネス VS ジョシュ・ウォーリントン戦の前座に連続参戦。

さらには、4月30日のケイティ・テーラー VS アマンダ・セラノ戦(ニューヨークの殿堂MSG)にも呼ばれて、矢継ぎ早の6回戦で3連勝をマーク(すべて判定)。

初の8回戦に迎えるのは、元IBFフライ級王者で、バンタム,S・バンタムでも世界挑戦経験を持つウルグアイのベテラン,ガブリエラ・ブーヴィエ(30歳/15勝3KO10敗1分け)。

世界タイトルを獲ったのは2013年で、翌年2度目の防衛戦に敗れて以降、階級アップの影響もあって一気に負けが込んではいるが、地力はあり侮れない。

この関門を簡単に突破するようなら、天才アマンダ・セラノへの挑戦をエディ・ハーンが即決する可能性が出て来る。


前相撲には、地元ウェールズの中量級ホープ3名が登場予定。

マーサー・ティドビル出身のジョー・モーガンは、アマチュア(ジュニア)で活躍した弱冠二十歳のウェルター級ホープ。昨年7月にデビューして依頼3連勝(1KO)。まだ4回戦の修行中だが、180センチ近い上背に恵まれた好素材。8勝32敗(!)のロシア人(サウザンプトン在住)を相手に、2試合連続の初回KOを狙う。

スウォンジー出身のS・ウェルター級,ベン・クロッカー(27歳/3連勝1KO)、ヘンゴイド(活動拠点はニューポート)生まれのS・ミドル級,キーラン・ジョーンズ(24歳/3連勝1KO)も4回戦に出場。


カーディフの女性DJ,モニーク・バックス(芸名:モニーク・B)が、2分×4ラウンドのプロ・デビュー戦に挑む。地元ではかなりの有名人らしく、SNS以外のメディアでも採り上げられている。