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ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

不見識も甚だしい - 勝敗を決めていないから八百長に非ず? -

2022年01月06日 | Boxing Scene

「勝敗について決めていない(第1ラウンドを流して第2ラウンドからは真剣)から、八百長ではない。」

シバターと久保優太の一件について、プロボクシングからK-1を経てキック(シュートボクシング)に転向し、チャンピオンににまでなった選手(現在の肩書きはプロレスラー?)が、驚くべき見解を自身の動画配信チャンネルで述べているという。

実際に視聴してみたが、次のような主旨だった。

「処分?誰が誰をどう処分すると言うのか?(おそらくだが国内の総合格闘技とキックには統一コミッションが無い点を指摘している=これはまったくの正論)」

「RIZINに処分などできる訳がない。そもそも、格闘家ではない者(ユーチューバーとしてのシバター)を、格闘技の大会に平気で出場させているRIZINに責任がある。」

「久保も1人で暴走してしまった責任は免れないが、引退する必要などない。しっかり謝罪した上で、現役を続ければいい。ただし、上げて貰えるリングがあれば・・・」


Twitterや動画配信サイト等を通じて、本件に関する様々な意見や主張が飛び交って(?)いるようだ。久保について言えば、前田日明を始めとして擁護に立つ傾向も見受けられる。「RIZINに処分は無理」との見解を示す元チャンピオンも、同様の立場と理解していいだろう。

しかし、「(コミッションではなく興行団体の)RIZINに処分はできない」との意見は、正しいけれども同時に間違っている。根本的かつ決定的に。

まず第一に、統一コミッションが存在しない(設立への努力を放棄した)まま、「真剣勝負を謳った興行」を打ち続けている現状が狂っているとの認識が欠落している。


そしてコミッションが存在しない以上、「真剣勝負」の裏づけを担保するのは、興行団体であるRIZINしか有り得ない。試合の運営に関わる総てに渡り、全面的に責任を負うのがRIZINなのだ。

八百長案件も然りで、運営主体である興行団体が預かり知らぬところで、対戦契約に応じた選手同士が事前に良からぬ口約束を交わし、そのままリングに上がった。これは紛れもないスキャンダルである。

「選手同士が勝手にやったことです。我々(RIZIN)は何も知りませんでした。今後二度とこうした事案が起こらないよう、契約の在り方も含めて、具体的かつ実効性を伴った対策を講じます。ごめんなさい。」


どこかの政治家みたいな対応で、75日もあれば綺麗さっぱり忘れてくれる世間はともかく、身銭を切って会場に足を運ぶファンの多くが納得するだろうか。

当事者の片割れが自称プロレスラーの炎上系ユーチューバーだという点も大きいけれど、世の中の認知が低い総合格闘技だから、報道番組やワイドショーのネタにならずに済み、世間的にはほとんど無風状態と表していい。

しかし、同じ事が相撲や野球、ボクシングで発生したらどうか。この程度の騒ぎで収まる筈がなく、業界を統括する組織は、当事者と関係者の処分をしない訳にはいかない。コミッションが存在しないからこそ、RIZINはそれ相応の処分(選手だけではなく運営側の各々の責任者も含めて)を行い、その内容を公にしてけじめを着ける必要がある。


ボクシングでも中量級(国内では最重量級)で日本タイトルを獲り、連続9回の防衛に成功して、WBAの世界ランキングにも入ったほどの選手だけに、「何を馬鹿なことを・・・」と呆れるばかり。

あるいはまた、「勝敗に関する取り決めだけじゃなく、金銭の授受も無い。八百長には当たらない。」と主張する人たちもいるようだ。

これはとんでもない考え違いである。リングで相まみえる当事者が、事前にシナリオを作って話し合っている時点でアウトなのだ。

勝敗について決まっていなければ、金銭のやり取りが無ければ、戦う選手同士が幾らでもシナリオを作っていいとでも言うつもりなのだろうか。


前回の記事で触れたことだが、「格闘家ではない筈のユーチューバーが、どうして真剣勝負を標榜する格闘技のリングに上がることができるのか?」との指摘は、まさしくその通りではあるのだが、国内の総合格闘技には統一コミッションが存在しないからこそ、プロライセンスの認可と管理を興行団体が自分たちの好きなようにやれてしまう。

もっとはっきり言えば、国内の総合(第二次UWF,シューティング,パンクラスの時代から)とキック系(開祖沢村忠,外国人初のムエタイ王者となった藤原敏男の昔から)の興行において、きちんとしたライセンス管理は一度も行われていない。

曙だって平気でK-1や総合のリングに上がれてしまうし、キックの経験がまったく無い元ボクサーが、いきなりK-1のチャンピオンクラスと対戦できてしまう。


例えば130ポンドのS・フェザー級で、畑山隆則と2度に渡って激闘を繰り広げた韓国の元WBA王者チェ・ヨンスなど、選手としての峠を遥かに越えてからキックに転向して、ほんの数戦をこなしただけで、S・ウェルター~ミドル級の魔裟斗とやらされた。

フェザー~S・フェザーのサイズしかなく、何よりボクシングの実戦経験がゼロの天心を、S・ウェルター~ミドル級のメイウェザーに、ノーヘッドギアのエキジビションでぶつけてしまえる。階級も経験もへったくれもあったもんじゃない。


幾ら他の競技で充分な経験と実階を有しているからと言って、ボクシングで同じことができますか?。武居由樹はどうです?。デビュー戦でいきなり日本タイトルマッチ(10回戦)を組めますか?。

そう言えば、動画配信チャンネルを主催しているご本人殿が、自ら同じ修羅場を経験したではありませんか。統一コミッションが存在しなければ、ライセンスの管理などやりようがない。客を集める為なら何でも有り。

自らの正当性と強さを証明する為と偽り、プロレスとK-1が何をやって来たか(元ボクサーをどんなやり方で利用してきたか)、振り返って見ればすぐにわかることだ。


まあ、チケットを発売する前に、事前にシナリオが決まっていることをすべて明らかにするなら、一万歩,いや百万歩譲ってそれも有りかもしれない。

「第1ラウンド~第3ラウンドまではお互いに様子見と言うか、まあ適当にお茶を濁します。マスに近いライト・スパーリングみないなものと思ってください。でも、第4ラウンドからは、お互い本気で行きますから。」

「出会がしらの事故みたいなもので、第4ラウンドまでに決着していまうこともあるかもしれませんがね。それと、この取り決めに金銭は絡んでいません。だから八百長ではありません。あくまでこれは真剣勝負です・・・。」


プロ野球に例えてみよう。

「最初の3イニングスは、ピッチャーも本気で投げないし、バッターもヒットや四球をで無理に出塁を狙わない。結果的にヒットになったり、四死球で出塁するとか、打者が間違って三振することもあるでしょうが、基本的に内外野のゴロとフライ(ファウルゾーンを含む)で淡々とアウトを取り合う。」

「4イニングス目くらいから、両チームともちょっとずつ気合を入れて行くんで・・・」

ファンがこれらをを認めて、喜んでチケットを買ってくれるならば、確かにそれも有りだろう。本当に納得づくで買ってくれるなら・・・。


しかしまた、チャンネルを運営する当の本人が次のように述べてもいる。

「格闘技のリングに、格闘家とはとても呼べないユーチューバーを何故上げてしまうのか?。RIZINは何をファンに見せたいのか?」

「真に優れた格闘家同士の熱くハイレベルな闘いを見せて、ファンを含めたより多くの人々にその価値を知らしめ、日本国内のマーケットを確立拡大して行くことこそが、本来あるべき姿ではないのか?」


では、当のご本人殿に問いたい。選手たちがそれぞれ勝手に都合のいいシナリオを作り、事前に話し合うことを容認して、「真に優れた格闘家同士の熱くハイレベルな闘い」をファンに見せられるのか?。

誇りを持って「素晴らしい大会だった」と、家族やファンの前で胸を晴れるのか?。

そしてこれは本当に茶飲み話になってしまうけれど、例えばシバターが裏社会が仕切る闇賭博に関わり、知り合いを使って「自らの初回レフェリーストップ(タップ)勝ち」に賭けていたとしたら・・・。


ボクサー時代に八百長を持ちかけられた経験の有無について問われると、「無い。ボクシングに八百長があるなんて考えもしなかった。」と、動画配信チャンネルを主催するご本人殿は答えている。

チャンピオンにまで登り詰めた者が、この程度の認識でいったいどうするのか?。

世界最大のボクシング大国アメリカが、マフィアとギャングを興行の表舞台から一掃する為に、どれほどの犠牲を払ったか。

1940~50年代にかけて、数多くの選手(現役・引退/世界チャンピオンも含まれる)と関係者が公聴会に召喚され、証言台に立たされた。


4大スポーツ(MLB・NFL・NBA・NHL)は、それぞれの競技運営団体内にコミッションが設置され、コミッショナーの選任(法曹関係者を含む民間人が選ばれる)からドーピングテストまで含めたルール・デザインと全体的なマネージメントを執り行う。

これに対して、ボクシング,MMA,キック等の格闘技興行は、全米各州にコミッション(アスレティック・コミッションやボクシング・コミッション等名称は統一されていない)が設置されており、プロライセンスの承認・発行から公式レコードの管理、試合の運営までを直接管轄する。

コミッショナーと事務局長には(原則として)民間人が起用されるが、現場の事務機能等は州政府の役人が実務に携わり、八百長に象徴される不正行為の有無について監視の目を光らせる。

すなわち格闘技の興行だけは、業界内に管理運営の総てを任せていない。逆な言い方をすれば、業界内で強大な政治力を持つプロモーターやタイトル認定団体は、ライセンスや健康管理,ドラッグテストに関わる基本的なルール・デザインから除外され、関わらせて貰えない。

この観点(原理原則)に照らすと、WBC(プロモーターとズブズブのタイトル認定団体)が独自(勝手)に行っているドーピング・テスト(王者とランカーに対する尿と血液のランダム・テスト義務付け)は、大いに問題が有ると言わなければならないが、基本的に各州コミッションが試合の都度行うドラッグ・テストは試合前後の尿検査に限定される為、「血液検査を含むランダム・テストの強制的な実施」が大義名分として成立してしまう。


さらに、格闘技の興行はスポーツブック(賭け)の対象となる為、オッズに異常(不自然)な動きが確認された場合、ブックメイカーは対象のカードを直ちにペンディングにすると同時に、司法と警察への通報が義務付けられており、一般的に州を跨いでの捜査が必要となる(対峙する選手が開催地の州に居住しないケースが大多数)為、FBIがその任に当たる。

FBIが捜査の終了を告げるまでは、賭け金の払い戻しも当然ストップ。八百長の事実が明らかになれば刑事裁判が開かれ、もしも有罪が確定した場合、ほぼ間違いなく実刑を言い渡されるだろう。

八百長に関わった選手や関係者は、開催地を所管するコミッションからライセンスの永久的な停止処分を受ける。

幾ら州の独立性を重んじるアメリカとは言え、どこかの州で八百長を根拠に立件された選手や関係者に、ライセンスを認可してくれる州は存在しない。刑が確定場合は、文字通りの永久追放が常識。

そこまで行かずとも、例えば選手生命に関わる長期のサスペンド(ライセンスの停止)を決定を下したコミッションが、全米に大きな影響力を持つネバダ,ニューヨーク,カリフォルニアの3州なら、処分の対象者は二度とアメリカ国内でボクシングに携わることはできない筈だ。


ここで言う八百長とは、主に以下に列挙する内容が当たる。

<1>審判の買収
<2>選手の買収
<3>両選手と陣営が互いに承知の上で行う不正行為
<4>選手自身は「事前の取り決め」を知らない不正行為
※プロモーターとマネージャー間のみで取り決めを行う
<5>片方の選手だけが事前の取り決めを知らされていない不正行為(いわゆる片八百長)
<6>違法賭博
※審判と選手の買収は、違法な賭博が直接的な発生源となっている。
<7>資金洗浄(マネー・ロンダリング)


海外のスポーツ興行では、「金銭のやり取りを含まない裏交渉」は、余程の弱みを握られでもしていない限り、まず存在し得ないと思われる。

「金銭の授受」を事実として確認できないケースが実際に発覚した場合、どのような処罰になるのかは、その時になってみないと分からない事ではあるが、少なくとも選手生命に関わる長期のサスペンドは免れないだろう。

ボクシングに関して言えば、そうした選手に手を差し伸べるプロモーターがいるとは到底思えないし、全米各州のコミッションがライセンスの申請を受けたとしても、却下する可能性が極めて高い。

ボクシングが盛んであり、かつ米・英・日に比べてライセンス管理が緩く甘い(有って無きがごとき)国々、具体的に名前を挙げると、メキシコやオーストラリア,タイ等へ渡って、地方の小さな興行で戦うことはできるかもしれないが。


裏社会が胴元になってボロ儲けを企む違法な賭博とスポーツ興行の腐れ縁は、ありとあらゆる不正行為の根っこと表して間違いない。

2010年に発覚した相撲の八百長事案も、数十名に及ぶ力士や年寄らが違法賭博(主に野球賭博)への関与を認めたもので、実名を公表した上で、解雇や謹慎(出場停止)などの厳しい処分が行われている。

さらに翌2011年、「後は流れで・・・」の「八百長メール」が露呈。上述した野球賭博の捜査を進める過程で、警察が押収した力士の携帯から発見され、「ああ、やっぱりね。」という事態に発展。上を下への大騒ぎになった。


大規模な違法賭博に伴う八百長事件が数年に1回、世界のどこかのリーグで必ずと言っていいほど露見するサッカー(2006年に全世界を震撼させたカルチョ・スキャンダル=セリエA=は今も記憶に新しい)のみならず、野球(中国・韓国・台湾は有名)、テニス、クリケット等の人気スポーツで繰り返されている。

野球賭博に関連して永久追放処分を受けたピート・ローズ(古巣シンシナティ・レッズの監督を務めていた1989年)は、歴代コミッショナーから「復権は有り得ない」と言われ続け、2015年に就任したバド・セリグが復権の容認に一度は動いたものの、ESPNが選手時代にも野球賭博に手を染めていた事実を突き止め公表した為、最終的に復権の申請は却下された。

メジャー通算4,256安打(歴代1位)を放った伝説的な打者であったとしても、違法な賭博に関わった為に、メジャーへの復帰(名誉の殿堂入り)は叶わない。

今回のような当事者間の直接的な打ち合わせも含めた八百長工作に、裏社会が牛耳る違法な賭博、審判やスタッフの買収はワンセット。

もしも今回の一件がアメリカや英国で起きていたら、話を持ちかけたシバターと、それに乗っかってしまった久保、両選手の家族や親戚縁者、興行を主催するRIZINは勿論、彼らが普段練習しているジムのスタッフ,スポンサーを含む諸々の関係者等々までが、違法な賭博への関与を疑われて捜査の対象となる。

「八百長は常に起こり得る」という考え方がデファクト・スタンダードの根幹であり、その為にそれぞれの競技を統括する組織は、不正行為に対する監視を怠ることなく、知恵を絞り工夫と努力を続けている。


「スタートの3イニングスは、スターター(先発投手)に6~7分の力でストレートを投げさせる。得意な変化球もまったく投げない訳にはいかないから、できるだけボールとわかるよう、ストレートと同様に力を抜いて各イニングに3~4球しか使わせない。だからバッターも本気で打ちに行かない。アップのつもりで軽く流そう。お互い本気でやるのは4イニングス目からということで・・・。」

万が一にもMLBの対戦するチーム同士が、そんな打ち合わせを事前にやった上で公式戦を行い、どちらかのチームがその約束を破って、3イニングス目にカンカン打ち出したら、やられた方の監督が自軍のピッチャーにどんな報復措置を講じさせるか。考えただけでも恐ろしい。

さらにその詳細が試合後にバレた場合、いったいどんな騒ぎになるか。

ちょっと想像しただけで、誰にでもわかりそうなものだ。要するに、勝敗の結果を決めていようがいまいが、金銭のやり取りがあろうがなかろうが、ファンと世間を欺いていることに変わりはない。

そしてチャンネルを運営するご本人殿も述べておられる通り、シナリオを作って事前に打ち合わせた挙句、その約束(?)を一方的に破られて負けたから、悔しさの余りゲロってしまう(金を受け取ってなかったんだからしようがない)ような、口が軽い上に肝(はら)も座っていない選手を受け入れる場所(リング)が、果たしてあるのかどうかという根本的な命題に行き着く。

現役を続けたいからと、寄って来られる方が困る。迷惑な話でしかない。だから、「二度とボクシングには関わるな」なのだ。

常識的に考えれば、久保の現役続行は有り得ない。潔く現役を諦めるのが筋。結果的にどうなるのかはわからないし、ボクシング界に来ると言い出したりしなければ、個人的には興味も関心もない。

愚かな振る舞いによって、チャンピオンにまでなったプロのキックボクサーを引退の瀬戸際まで追い込んだシバターは、その呵責と悔恨を死ぬまで重荷として背負う覚悟を持つべき。